女性の視点からみた「環境ホルモンとは何か」
「環境ホルモンとは何か」(松崎早苗ら、藤原書店)を読んで
1999.1 ストップ・ザ・ダイオキシン住民の会
はじめに
 環境ホルモンの問題点は、母から子へつたわる毒物ということで、リプロダクティブ・ヘルス(世代を越えた健康)の問題であると言えます。
 母乳汚染によって、私達の世代が次の世代に毒物をわたしているのであります。「哺乳類が母乳を飲めないなんて何たることか!」と先生は言っておられます。

2. 二十世紀後半を特徴づけるエコロジー思想
 環境問題の原点はレイチェル・カーソンと言えます。1962年「沈黙の春」を出版致しました。私達の体を内なる自然(生態系)と捉え、化学物質の生物濃縮性を繰り返し語って食物連鎖の恐ろしさを訴えています。

3. からだの生態学
 薬はからだの生態系を壊しますので、できるだけ食べ物とか生活様式とかいった衛生学的視点で健康を守ることが大事だと言えます。ホルモンは大脳→視床下部→下垂体→卵巣→子宮という刺激の流れで作用します。しかし、例えばピルだとその1つか2つのホルモンのかたがわりをするだけです。全体としてのからだの生態系が阻害されるわけです。

4. 環境ホルモン時代の扉が開かれる
 ホルモンとは「目覚めて働くもの」という意味のラテン語で、必要な時だけ、働かなければならない時だけ体が作るということです。内分泌細胞が出したホルモンは、特定の細胞に作用した後、短時間で分解します。環境ホルモンは正式名、内分泌攪乱物質endocrine disruptersですから、分解せず長時間作用するから問題なわけです。Our Stolen Futureを書いた中心人物であるコルボーンは、五大湖の汚染物質と野生生物被害の関係を研究していて、ワシやミンクなど上位捕食生物に異変がでることに気が付きました。有名なアポプカ湖でのワニの減少や、ガン細胞研究者の汚染物質が細胞を突然増殖させるという発見は、「汚染物質のホルモンへの介入」と言う概念でうまく説明できるということに気が付きました。原因と結果が1対1ではなく、結果が多様になるということ、それからこれまでの「発ガン性から内分泌破壊へのパラダイム転換」ということになったわけです。

 外来性エストロゲンとしては、石油由来化学物質以外に植物ホルモンもあります。マクラクランらは、「Our Stolen Future」のペーパーバック版の論文で、植物ホルモンに対しては免疫細胞が攻撃するが、石油由来化学物質に対しては免疫細胞が攻撃しないことを指摘しています。

5. ダイオキシン汚染の意味するもの
 コルボーンの「奪われし未来」やキャドバリーの「メス化する自然」には、ベトナムのダイオキシン被害のことが書かれていません。これはダイオキシンがエストロゲンレセプターに直接作用するのではなくて、間接的に作用するからなのですが、環境ホルモンと同様の作用があります。米国科学アカデミーは、ベトナム帰還兵の3種類のガンの原因物質としてダイオキシンを認めていますが、生殖異常については先天性脊髄系疾患に対してのみであります。セベソの疫学調査の結果、P. Mocarelli教授はダイオキシンの血中濃度が高いほど女の子の出産率が高まるというデータを、1996年Lanset誌、1997年国際ダイオキシン会議で発表し、大きな反響を呼びました。ダイオキシンと子宮内膜症との関係を明らかにした1995年のアカゲザルの実験も有名です。日本でも、すでに1978年に安田らにより低用量ピル(Ethinyl Estradiol)を胎生期のマウスに曝露すると、生後に子宮内膜症が起こるということを報告しています。エストロゲン様物質というのは、子宮内膜症の原因になる可能性があると言えます。

 科学的には1対1の因果関係が立証されなければ証明されたことにはならないとされます。しかし、これでは環境ホルモンのような問題を解決することはできません。ウイングスプレッドのグループは、こういう古典的な考え方を放棄せざるを得ない、つまりこれは科学の評価構造の問題であるとしています。

6. 「環境ホルモンの海」への道
 日本でもエコロジカルな科学者運動を起こす必要があります。例えば、エントロピー学会は経済学者、物理学者、市民による学会です。松崎先生は、以前は実験科学者でありましたが、研究のあり方を自問され、今の化学物質の環境影響問題へと研究を転換されました。本の中で影響を受けた3人の女性科学者を挙げておられます。イヴリン・フォックス・ケラー(アメリカ);フェミニズムと科学を論じる第一人者で、科学における女性差別の問題を取り上げ、ギリシャ哲学者までも批判しています。マーサ・クラウチ(アメリカ);植物生理学者で、自分の遺伝子組み替え技術が、外国籍アグリビジネスを助け発展途上国の農民の自立を奪っているのではないかと自問し、実験研究者をやめるという宣言論文を出しました。シャロン・ビ−ダー(オーストラリア);シドニー湾の汚水放出を告発し、一大環境運動を引き起こしました。彼女らは、「現在の主流の考えに疑問をもって、自分が賛成できない考えの起源を辛抱づよく追求している」と言えます。科学の成立過程で活用された経験はすべて男性の経験です。それを基にした知識には偏りがあります。リプロダクティブヘルスというような問題には、女性の視点が非常に重要であるし、女性だったからこそ、問題点の重要性を把握できたのではないかと思います。

7. 結びにかえて
 環境ホルモンの問題は、私達が享受している文明そのものが起こしている問題であります。50年間の精子の減少傾向は、そのまま工業の発達、経済の発展と相関しています。

 問題解決のためには、草の根の運動と研究者とのネットワークを作る以外に方法はありません。国内の被害地域の住民をサポートする自発的な研究者グループを作る必要があります。進歩・発展の代償として、自然生態系の多少の犠牲はやむをえないと考えてきました。しかし、その犠牲が途方もなく大きなものであることがわかってきました。私達は、子宮の生態系、胎児の環境までも犠牲にしてきたのです。私達は自然生態系の一部なのですから、人と自然生態系との間には調和をというより、もっと積極的に人と自然生態系との間にも愛をと考えるべきです。科学技術の内容も、人々の利便性から生態系重視の方向へ変換しなければなりません。そのためには、専門家だけではなく、一般の人々の理解が必要ですし、一般の人々の関心によって科学の方向性を決めなければなりません。


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