荏原ダイオキシン問題の現段階
〈市民対策会議の見解と当面する課題〉2001.2.1
荏原ダイオキシン問題市民対策会議
代 表 井之川平 等
〃 川 崎 健
〃 戸 田 摂
〃 山 本 範 子
§1 荏原ダイオキシン問題の経過と市民対策会議の見解
- 環境庁による'98年の全国調査の結果、引地川水系で環境基準をはるかに上回るダイオキシン類が検出されたことを受けて、藤沢市は独自に調査をすすめ、'00年3月に発生源が荏原製作所藤沢工場であることをつきとめた。立ち入り検査の結果、同工場内に設置された廃棄物焼却炉(流動床炉)のスクラバー(排ガス洗浄施設)排水が雨水管に誤接続され、未処理のまま雨水幹線に7年余にわたって放流されていたことが明らかにされた。
- 市民団体は一斉に県・市を招いて荏原ダイオキシン問題の説明会を開催する一方、団体間の連絡会議を開いて問題解明のための対策を協議し、『荏原ダイオキシン問題市民対策会議』を8団体(ほかにオブザーバー3団体)で発足させた。市民対策会議は焼却炉部会、環境影響部会、法律・行政部会の3部会を設け、専門家の協力も簿ながら問題点の解明にあたるとともに、県・市と荏原製作所に対して質問を発して真相究明につとめてきた。また公開の場で真相を糾明し問題の所在をひろく市民に知らせる目的で6月3日に『荏原ダイオキシン問題真相糾明市民集会』(Partl)を開催した。
- 同じ時期に御所見地区に隣接する葛原処分場周辺住民が同処分場の浸出水を検査機関に依顆して調べたところ、これまで市当局が発表して来た数値をはるかに上回るダイオキシン類が検出され、処分場の安全管理に大きな問題があることが浮かび上がってきた。
- 県・市は5月31日に3/24〜4/26の間におこなった調査結果の報告を柱に『引地川水系ダイオキシン汚染事件への対応』を発表した。その主要な内容は、
などである。
- 汚染の原因は荏原製作所藤沢工場の廃棄物焼却炉(流動床炉)のスクラバー(廃ガス洗浄施設)排水が未処理のまま雨水管を通じて排出されたこと
- 平成4年11月から同12年3月までの7年5ヶ月の間に環境中に排出されたダイオキシン類の総量は水系に3.0g−TEQ大気に1.4−TEQの各計4.4g−TEQと推計されること
- 周辺調査の結果等から、周辺地域での日常生活、周辺海域での海水浴等のレジャー活動や魚介類による健康への影響は無いこと
- 事故炉の運転停止以降引地川のダイオキシン類濃度は改善されて来たがなお環境基準を超える状況にあることからひきつづき環境調査を実施すること
県・市はこの結果を踏まえて、荏原製作所にたいして『汚水等の処理方法について』改善勧告をするとともに1ヵ月の取引停止処分をおこなった。また、マスメディアの多くはこの報告を『事実上の安全宣言』と報じた。
6月定例市議会は、引地川の底泥の撤去を柱とする市民対策会議の陳情、エネルギーセンターの新設計画の白紙撤回を柱とする御所見地区住民の陳情を共に賛成少数で否決した。
- その後も市民対策会議は、県・市の担当部局並びに荏原製作所藤沢工場と市民要求に基づく交渉・話し合いを精力的にすすめた。藤沢市による健康相談、血液検査・母乳検査の実施は評価できるが、様々な問題点を抱えている。また引地川底泥の撤去、荏原製作所職員の健康調査、生態系への影響調査等については残念ながらほとんど前進していない。
- そうした中で8月に荏原製作所は周辺自治会への説明会を開き、事故炉の解体とガス化溶融炉の実験再開を発表した。焼却炉の解体問題については大阪府能勢町の例もあって、労働省が「解体マニュアル」を作成中であることや市民対策会議が「ダイオキシン発生源の糾明と再発防止策が確立するまでは現状のまま存置すること」を再三申し入れてきたことなどを全く無視した暴挙と言わざるを得ない。
- 9月県議会で岡崎知事は質問に答えて『事故炉解体については労働省のマニュアルができた後、荏原から計画書を提出させ十分に協議したうえで是非を決める。ガス化溶融炉の実験再開も安全性が確認されない限り認められない』との見解を示した。同じ9月市議会において藤沢市当局も同様の見解を発表した。この間、市民対策会議は荏原製作所に対してあらためて『事故炉解体及びガス化溶融炉再開反対』の申し入れをおこなった。
- 市民対策会議は11月5日に『ダイオキシン問題市民集会Part2』を開催し、6月以降の情勢の推移と問題解決への取り組みを市民に報告するとともに、情報公開の不徹底、法体系の不備、行政権限と責任の不明確など問題の抜本的解決が困難な状況にあることから、藤沢市独自のダイオキシン規制条例をつくるための『研究会』の設立をひろく市民に呼びかけた。
- 神奈川県は12月8日に『ダイオキシン類河川調査の結果報告』を発表した。この報告書で明らかになったことは
等だが、とりわけ水田土壌と蓼川の汚染が新たな汚染源の存在を示唆しており、継続調査と汚染源の特定、対策の早期実施が望まれる。
- 荏原の事故炉が操業停止した後、引地川下流の水質はおおむね環境基準値内に収まったこと
- 底質については5〜6月の段階でなお高濃度が検出されたこと
- 10月に底質は最高値12pg−TEQ/gと下がり、ダイオキシンが拡散されたこと
- したがって生物濃縮が更に深まる可能性があること。また、
- 水田土壌調査で1検体ながら230pg-TEQ/gの高濃度が検出されたこと
- 排出源究明調査で蓼川、一色川の水質、蓼川の底質から高濃度のダイオキシン類が検出されたこと
§2 ダイオキシン問題の当面の課題
- 荏原製作所がダイオキシン事故の原因究明、再発防止、解体作業の安全対策が不十分のまま、8月の段階で事故炉の解体とガス化溶融炉の実験再開を決めたことは、同社の経営陣がいかに猛毒ダイオキシンの危険性や有害性を軽視してきたかを証明していると言ぇる。厚生労働省が準備している「解体マニュアル」に従うことはもとより、解体作業従事者の安全性確保をはじめ、周辺住民の安全と健康、環境への影響等に万全の対策が構築されるまで解体作寮の開始を許してはならない。また、ガス化溶融炉の実験もダイオキシン発生のメカニズムと排出抑制対策が確立されるまで認められないことは言うまでもない。
このことについて、監督の立場にある国(厚生労働省・環境省)と県・市の賓任は重大である。市民もまた周辺地域住民を先頭に監視を怠ってはならないだろう。
- 引地川水系の下流域の水質調査を継続することはもとより、底質調査については調査地点・下層底質のサンプリングの双方で対象を増やして調査を続行し、底泥に潜むダイオキシンの実態把握と汚染除去対策を急ぐべきである。また、生態系の調査についても、対象生物、サンプルを飛躍的に増やして、ダイオキシン汚染の影響範囲を掌握するとともに、今後の対策に役立てることが切に望まれる。
- 人体へのダイオキシン汚染の実態を明らかにするために、血液・母乳についての、精度の高いダイオキシン類検査を継続する必要がある。
- 排出源究明調査は、12月8日発表の調査結果を踏まえて、水田土壌の汚染原因を究明することと、蓼川の汚染瀕を特定することを当面の緊急課題に据えて、国・県・市が緊密な協力のもとに推進すペきである。
- 今回の荏原ダイオキシン問題から教訓を引き出して、ダイオキシンの発生抑制、排出規制、健康被害と環境汚染の未然防止、被害に対する補償、汚染の除去と原状回復、汚染者に対する処罰といった基本問題を解決し、市民と専門家、行政によるチェックシステムを確立するために、『藤沢市からダイオキシン汚染をなくす条例(仮称)』の制定に向けて、市民の知恵と力を結集していくことが不可欠である。この条例は、焼却炉規制のみならず、ごみ減量化から廃棄物処理、最終処分場の在り方にいたるさまざまな問題の検討扱きには成案は得られないだろうし、市民・事業者・行政の納得と協力を得ることができないに違いないく。
それとともに、ダイオキシン類対策特別措置法をはじめ顔係法令の強化改正、神奈川県環境基本条例、藤沢市環境基本条例、同基本計画の見直しも市民のイキシアチブですすめる必要があると思われる。