[ゴラン高原PKF違憲訴訟]中東問題研究者の証言 2

1998年3月20日 第11回口頭弁論

(注)ページ数の割降りは、紙の裏表を合わせて「1」と数え、裏と表の間は "---------------------------" で示してあります。



       ます。
93  それは、実現してきたわけでしょうか。
       ところが、実際問題、現実を考えると、イスラエルは占領地から撤退
       することを拒否し続けてき、又日本政府を含めた国際社会が、例えば
       入植地の建設を中東和平の実現に障害だということでやめるように言
       っても、これを続けてくるということで、例えば、日本政府の要求も
       常にほごにされてきたというのが、これまでの経緯といいますか、歴
       史ではないかと考えております。
94 よく分からないんですが、国連の様々な決議をする。日本政府もその決議に
  従って声明を出すと、しかし、そういったことにもかかわらず、イスラエル
  がずっと自国の政策を押し通すことが出来るというのは、何かそういうよう
  な環境があるんでしょうか。
       これは、まずアメリカが重要なかぎを握っていると。これはよく指摘
  ------------------------------------------------------------
     されることなんですけれども、米国内のいわゆるユダヤロビーなんで
     すけれども、非常に重要な外交に、アメリカの外交そのものに大きな
     影響力を持つと、で、このいわゆるロビーがアメリカの中東政策に大
     きな影響力を持つということで、アメリカ自身もそういったロビーの
     意志を無視して、中東外交を取らなかったということがあると思いま
     す。で、ヨーロッパのほうですけれども、ヨーロッパは、やはり日本
     と同じスタンスで事あるごとにイスラエルの行動を非難するというこ
     とは回避してきましたけれども、やはり厳しい実力行使といいますか、
     そういう施策を取れなかったのは、一九世紀以降の反ユダヤ主義、ヨ
     ーロッパで多くのユダヤ人が犠牲になったということで、その当事者
     がヨーロッパの人間だったということで、そういう中で特にドイツも
     そうだと思うんですけれども、後ろめたさというとあれですけれども、
     その辺の自分たちの過去の歴史が重荷になって、イスラエルに対して
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     強力に政策を取れてこなかったということだろうと思います。
95  その何かイラクのフセイン大統領に対する態度と比べて、ダブルスタンダー
  ドのような気もするんですけど、それは、どうなんでしょうか。
       これは、ゴラン高原だけでなくて、西岸・ガザにおける占領というこ
       ともそうですけれども、正にイスラエルに対して取っている行動とい
       いますか、政策と、例えば、イラクの政策を比較すればよく分かりま
       すけれども、イラクはクウェートに侵攻し、これは、一九九〇年八月
       二日だったかちょっと記憶が定かではないんですけど、これは国際世
       論の大きな非難を受けると、で、イラクに対しては、即刻クウェート
       から撤退しろと、で、これは言ってみれば、もちろんイスラエルの占
       領というものは、双方の戦争の結果として占領があったということで、
       イラクにおけるクウェートの侵攻は、一方的にイラクが侵攻したとい
       うこともあるので、その辺は同一視することは出来ないということの
  ------------------------------------------------------------
     前提はありますけれども、ただ、占領という現実を考えたときに、そ
     の占領をやめて撤退をしろと、この撤退をしない例えばイスラエル、
     これに対しては、三〇年を過ぎても未だに占領をし続ける。ところが
     イラクに対しては、クウェートから撤退しないと、これに対しては武
     力行使をし、一九九一年には湾岸戦争へと発展すると。その辺の接し
     方に大きな違いがあるということです。ここに大きなダブルスタンダ
     ードというんですけど、対応の違いがあると思います。
                                 (以上    大 島  公 子)
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(休憩後)
原告代理人(内田)
96 休憩前は、国連、あるいは国際社会のイスラエルに対するダブルスタンダー
  ドということをお話していただきましたけど、先程、イスラエルとシリアの
  国境の問題と、停戦ラインの問題、イスラエルが停戦ラインを国境よりも踏
  み出してきてしまっているというような証言をしていただいたんですけど、
甲第四〇号証の三八二ページを示す
97  登中近東アフリカ局長のスピーチというのが載っておるんですけれど、これ
  を証人は見られましたか。
       はい。
98 三八四ページのところで、彼がイスラエルとシリアの国境線のことについて
  述べているところがありますね。
       はい、ございます。
  ------------------------------------------------------------
99  三八四ページの第四段目からのところですね。
       はい。
100 和訳が間に合いませんので、後でつけますけれど、ここの部分を読んで解説
  していただけますか。
       ここでは、今日、日本人は同様に、これはプロセスとありますけれど
       も、和平プロセスに、物理的に、あるいは実際的にインボルブされて
       いると、かかわっているということになると思います。我々、四五名
       の軍事要員というんですかね、及び司令部要員は、一九九六年二月ゴ
       ラン高原に、今展開されているUNDOF、これは国連兵力引き離し
       軍ということになりますけど、に合流したと。そして、今日、イスラ
       エル・シリア国境にいると。そういうくだりでございます。
101 停戦ラインに展開しているのを、イスラエル・シリア国境だというふうに言
  っているわけですね。
  _____________21________________

       この文脈からではそのように認識しているのではないかと考えられま
       す。
102 そういう場合に、今の停戦ラインが、そのままの状態がずっと続くと、ます
  ますそこが国境だというふうな言が強くなっているということでしょうか。
       それは、話また変わりますけども、日本のマスメディアも、この点に
       関して、例えばゴラン高原、あるいは中東ゴラン高原という名称を使
       って、あそこが占領地かどうかという、極めて最も重要な問題につい
       ては、その記述を、意図的か、あるいは無知なのか分かりませんけれ
       ども、削除していると。読む側にとっては、あの地域が、いわば自衛
       隊が派遣、あるいは派兵されている地域というのが、六七年にシリア
       からイスラエルが占領したその地域だということを、暗に、その辺の
       歴史的な極めて重要な事実を、あいまいな形にして報じている、そう
       いう問題だと思います。その流れと、例えば、こういった外務省のア
  ------------------------------------------------------------
     ミダフの幹部が、この辺の重要な認識というか、重要な点を非常にあ
     いまいな形で述べているくだりというのは、外務省に限らず、日本の
     そういったマスコミの中にもよく見られることで、非常に問題視され
     なければならないというふうに私は考えております。
103 そうすると、PKOが当初の目的から、それは解決のための前提だったんだ
  けれども、そのこと自体が目的になってしまって、変質しているということ
  ですかね。
       ええ、非常にその辺重要だと思うんですけれども、七四年に設立した
       当時は、両国の軍隊の戦闘、あるいは戦闘を防止する意味で展開した、
       そういったUNDOFの活動が、実際、現実においては、それ以降イ
       スラエルが入植地の活動を展開し、また八一年には自分の領土である
       という宣言をし、自分の領土にしていると。ですから、ある意味では
       イスラエルが占領している領土と、シリアとの間に展開している、と
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       いうことは、要するに、イスラエルの占領をある意味では正当化して、
       それを既成事実に荷担するものにUNDOFが変質しているというこ
       とを物語っているんじゃないかというふうに思います。
104 先程の登中近東局長の談話の中に、UNDOFに合流したというようなくだ
  りがありましたね。
       はい。
105 スタッフオフィサー、司令部要員も含めて。
       はい。
106 日本政府は後方支援であって、PKO活動、兵力引き離し活動にきているん
  じゃないんだということを国内的に言っているわけですけれど、しかし、先
  程の外務省の高官の発言では、これは合流なんですね、UNDOFに。
       ええ、そのように解釈、外務省としてはそのように考えていると考え
       るべきではないかと思います。
  ------------------------------------------------------------
107 日本政府としては、中東・アラブの問題について、どういうような役割を果
  たすべきであるというふうに先生はお考えでしょうか。
       その前に、日本政府はUNDOFへの自衛隊の派兵は中東和平の実現
       を支援するというか、そのために出すのだと言いながら、ここが非常
       に重要な点だと思うんですけれども、実際は、停戦ラインを守ること
       によって、イスラエルの占領に荷担し、イスラエルの自国の領土化と
       いう、そういった政策を支えてきているんだという、その辺が非常に
       重要な点で、このイスラエルによる、例えば占領の長期化、継続化、
       自国化、こういったものが、中東の情勢に、より大きな不安定要因を
       導くものであるということを考えますと、政府の言っている中東和平
       のためのUNDOFへの自衛隊の派兵は、結局のところ、むしろ中東
       情勢の不安定要因を導く、あるいはその不安定化をより助長するもの
       になっているということが最も重要な点ではないかというふうに思っ
  _____________23________________

       ています。
108 そういう中東情勢の解決に役立たないと。むしろ逆だと。
       逆だと、はい。
109 にもかかわらず、このゴラン高原への自衛隊の派遣ですけど、政府はなんか
  派遣できるところはないかということで、あっちこっち探していて、そして
  派遣したというようないきさつもいろいろ指摘されておるんですけれど、そ
  の辺の政府のねらいというのは、先生はどういうふうにお考えでしょうか。
       これも湾岸危機、湾岸戦争で大きく、一つの外交政策の転換点になっ
       ているんではないかと思うんですけれども、これは国際的な貢献、日
       本が湾岸危機、湾岸戦争において、多くの出資を、戦争を支えるため
       に多くのある意味では税金を払ってやりながらも、日本の貢献が国際
       社会ではほとんど認められなかったと。そういう現状に対して、いか
       に国際貢献を国際的に認知できるのかというところで、具体的に、人
  ------------------------------------------------------------
     間を出すと。それも幾つかの点はあると思うんですけれども、まず、
     どういうところに出すかと。国際社会において歴史的に非常に注目を
     集めてきた中東であるということが一つ重要な点であるし、そこで自
     衛隊なりを出すことによってやることが一つの重要な宣伝になるとい
     うことがあったと思います。また、ゴラン高原を選んだ背景には、七
     三年の第四次中東戦争以降ほとんど戦闘状態がないということが、自
     衛隊の、国内の世論に反対する世論を押さえ込むことができるのでは
     ないかということで、ゴラン高原への派兵を決めたのではないかと。
     もう一点、重要なことは、国際貢献をするということ、この先に見え
     るものが、日本が、これも湾岸危機、湾岸戦争以降大きく論議されて
     きた問題ですけれども、国力に見合った国際的な地位、これは言葉を
     換えれば、日本の国連安全保障理事会の常任理事国入り、これが重要
     な政治課題、あるいは外交課題として、政府、特に外務省は位置付け
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     ている。その政策を押し進めるためには、国内的にも、国際的にも、
     国際的な貢献を具体的な形で提示する必要がある。そういう流れの中
     で、UNDOFへの自衛隊の派兵ということが決められ、そして実施
     に移されたのではないかというふうに考えております。
110 そうしますと、中東における紛争解決のためにということよりも、むしろ国
  内的な、日本の国際的な地位を高める、端的に言えば、安保理の常任理事国
  入りをするための、自衛隊ゴラン高原派遣ということになるわけですか。
       はい。その重要なステップとしてUNDOFへの自衛隊の派兵はあっ
       たというふうに考えております。
111 証人は、被爆二世というふうに聞いておるんですけれど、そうですか。
       はい、そうです。
112 日本国憲法に対する思いというのはいろいろあると思うんですけれど、そう
  いう日本国憲法を持つ日本の、国際社会における果たす役割ということから
  ------------------------------------------------------------
  考えますと、中東に対してはどういう役割を果たすべきだと思いますか。
       これは短く述べること自体非常に難しいんですけれども、私の母は一
       九四五年八月に広島で被爆しておりまして、被爆二世としての私自身
       を考えたときに、いろんな複雑な思いが幼少のころからあったんです
       けれども、戦争を二度と起こしてはならない。これはもちろん広島や
       長崎において被爆し、その二世、三世が生まれ、そして生きる。その
       中で、いろいろ社会的な困難に直面した人間もいっぱいいたであろう
       し、現在もいる。そういう中で、どのようにしたら、平和を求め、そ
       して維持できるのか。私考えるのは、被爆したということで、被爆者
       の被害者意識だけではなくして、自分にとって、被爆者もまた戦時中
       においては、銃後の母なり、いろいろな言い方あると思うんですけれ
       ども、直接戦争にかかわらなくても、日本の、日本軍のアジア大陸へ
       の侵略ということに荷担してきたと、そういう被害者としての立場と
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       同時に加害者でもあったという、そういうことを常に意識しなきゃな
       らない。ところが、非常に残念なことに、日本の場合、いまだに加害
       者としての立場が、残念ながら鮮明になっていない。これは日本、あ
       るいは日本人として、侵略をした、例えば朝鮮半島、あるいは中国大
       陸、あるいは東南アジア、そういったところにおける戦争責任がいま
       だにあいまいにされている。そういう中で、そういう戦争責任の問題
       をはっきりと表明する中で、戦争をくい止める、そういう考えも強化
       されて行くでしょうし、また、私は、例えば日本の常任理事国入りに
       対しては反対をするんですけれども、それはなぜかと言いますと、日
       本がいまだに戦争責任を、日本、あるいは日本人として完全にしてい
       ないという、そういう問題があるからこそ、日本が常任理事国になる、
       そういう立場にはいまだにないんだということを認識しなければなら
       ない。そのように強く考える者です。
  ------------------------------------------------------------
113 日本の国のあり方についての先生のお考えは分かったわけですけれども、中
  東の問題、アラブの問題について、解決のために日本政府ができること、そ
  して、しなくちゃならないことというのは、どういうふうにお考えなんでし
  ょうか。それは自衛隊を出すことなんでしょうか。それとも他の方法なんで
  しょうか。
       まず前提となるのは、前の山内教授の証人のときの発言にもありまし
       たけれども、自衛隊は憲法に違反している。自衛隊自身が存在するこ
       と自体が、日本の平和憲法においては矛盾する存在なんだということ。
       ですから、ゴラン高原派兵というものも非常に重要な問題ですけれど
       も、まず自衛隊の違憲性というか、日本国憲法に矛盾した存在である
       ということが、まず前提として考えなきゃならないことだと思います。
       そういうことを考えますと、まず自衛隊の存在自体がおかしいし、ま
       たその自衛隊をゴラン高原に派兵すること自体は、断じて認められる
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       ことではない。また、先程私も指摘しましたように、自衛隊を現地に
       出すということが、いわばシリア・イスラエル間の停戦ラインに出す
       ということが、決して中東和平に結び付かず、それどころか、かえっ
       て地域情勢の不安定化を助長するものであるということ。ですから、
       まず自衛隊は速やかに撤退しなきゃならない。その下で、日本はどう
       したらいいのかというふうに考えますと、今まで日本経済、あるいは
       日本の社会の生命線である、例えば原油の安定供給、その下で常に政
       策が語られてきたわけですけれども、それがそうであるならば、そし
       て中東の包括的な和平を真に望むのであれば、イスラエルという侵略
       国家を常に監視し、そしてイスラエルに対して常に圧力を加える。歴
       史的に見て、例えばイラクのクェート侵攻に際しては、武力抗争とな
       る、そこまでしろとはもちろん私は言いません。ただ、現在でもイラ
       クに対しては国連による厳しい経済制裁が行なわれている。なぜ、イ
  ------------------------------------------------------------
     スラエルに対してこのような政策がとれないのか。真に中東に和平を
     もたらすということは、どうすればいいかと。やはりイスラエルが六
     七年の戦争で占領したところから全面的に無条件に撤退し、そして周
     辺諸国と平和を持つと。そういうことが前提であるわけですから、そ
     れに向けて、日本の政府、あるいは外務省が取る政策というのは、イ
     スラエルに対して厳しく対処する、それしか平和の道もないでしょう
     し、日本の取るべき道もそれ以外には考えられないというふうに考え
     ております。
114 先程、自衛隊のゴラン派遣は国連安保理の常任理事国入りをねらったもので
  あると。いわば内向きの目的のためにというのが最初にきているということ
  を言われたわけですけれども、最近の、例えば日米新ガイドラインの問題と
  か、あるいはごく最近のPKO法のいわゆる改正、括弧付きの改正ですけれ
  ども、武器使用についての指揮官の判断というのが、なってきておりますね。
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  そういったふうに、ゴランの派遣がますます自衛隊の軍隊としての活動を強
  める方向に行っているんでしょうか。
       はい。これについては活動を、まず基本的に重要なことは、派兵の事
       実、派兵がどうなのかという問題を議論することなくして、今議論さ
       れていることは、どういうふうに武器を持ち、使用するのかという形
       で、問題の本質が、そういう中でぼかされているんじゃないか、常に
       そういう疑問を持って見るべきではないかと。もう一点としては、一
       つの細かな動きを見ますと、自衛隊の活動がより対地域紛争に向けた
       日米共同防衛のガイドラインに基づいて、日本もしかるべき事態が起
       こったときには、アメリカの後方支援、あるいはそれ以上の活動を展
       開できるような布石として、現在の自衛隊の派兵があるし、また置か
       れている自衛官の活動範囲というものは、そういう先のことを見越し
       た上での活動であるというふうに見るべきではないかと思います。で
  ------------------------------------------------------------
     すから、そういう意味では、非常に活動の範囲が拡大され、より今後
     もそういう議論がなされてくるんではないかというふうに危惧してお
     ります。
115 議論のあり方といいますか、議論のあり方について証言していただきたいん
  ですが、裁判の場で、こういうふうにこの問題を訴えているわけですけれど
  も、なかなか他の場所でこういった問題を議論するということは難しい状況
  になってきている。先程、安保理の常任理事国入りの問題が出ましたけれど
  も、例えばドイツにおいても同じような問題が起きているわけですね。
       (うなづく)
116 ドイツは正に、ホロコーストの問題等もあって、非常にイスラエルの問題に
  ついては微妙な問題だと思うんですけれども、ドイツにおける軍隊の活動の
  仕方についての議論なんかは参考になりますでしょうか。
       そうですね。ドイツもEUの枠内で、例えば、ボスニアヘルツェゴビ
  _____________28________________

       ナへの派兵というようなこと、これはEU域内における軍事的なプレ
       ゼンスというんですか、そういう、いろいろと世論の批難はありなが
       らも、ドイツの場合はEUという後ろ盾があって、現実にEU内で、
       域内で、ああいう問題が発生してきたということがあって、軍隊を出
       している。国内にもいろいろと世論はある。その辺についてドイツは、
       ただ日本と大きな違いは、例えばドイツ国内の教育、あるいはユダヤ
       人を含めた、いわばナチズムが行なった、何というんですが、日本語
       を忘れてしまったんですけれども、ナチズムが虐殺をしたのは、ユダ
       ヤ人に限らず、例えば社会主義者や共産主義者に対しても虐殺をして
       いる、そういったナチズム下における虐殺に対して、あるいは行為に
       対して、いまだに教育の場で、あるいは実際に補償をし、戦争の問題
       を国内の中で議論している。ところが、これに対して日本の場合はそ
       ういうことをほとんど、あるいはその逆に、例えば南京虐殺はなかっ
  ------------------------------------------------------------
     たというような発言が政治家の口から平気で出るような、そういう意
     識風土というか、その辺が遅れているし、これは教育の遅れもあるだ
     ろうし、あるいはマスメディアの責任もあると思うんですけれども、
     非常にその辺の遅れを考えれば、ドイツと日本を比較することはおか
     しいのではないかと。ただ、ドイツが大国だから常任理事国に入る資
     格があるというふうには私は考えません。ドイツも戦争責任、幾ら現
     在果たそうとしているとはいえ、常任理事国になろうとすること自体
     に疑問を私は感じております。
117 ドイツ国内と日本国内を比べた場合に、国内ではこの種の問題については議
  論のなされようが違うということですかね。
       大きく違うというふうに考えております。
甲第三七号証を示す
118 これを見られたことがありますね。
  _____________29________________

       はい。
119 PKO、「この道はシリアにもイスラエルにも通じている」という国連平和
  維持活動、PKOのポスターの一部なんですけれども、輸送部隊のルートを
  見ますと、イスラエルを通るだけでなくて、レバノンとか、いろいろ通って
  行っているわけですね。
       はい。
120 先程、ゴラン高原は比較的現在は表面的には、武力的には封じ込められてい
  ると、落ち着いているというようなお話でしたけど、この輸送ルートとか、
  こういったのは危険性はどうなんですか。
       ダマスカスとゴラン高原間は、基本的にはそれほど大きな、シリア国
       内は治安も非常に維持されておりますし、問題ないかと思います。た
       だ、レバノンのほうは、七五年にレバノン内戦が発生して、九〇年ま
       でレバノン内戦が継続すると。この過程で国が分裂状態になってばら
  ------------------------------------------------------------
     ばらで、いまだに民兵が存在し、民兵が武器を持って活動するという
     ような状況にあるわけです。特にレバノンですと、南レバノンは先程
     私言いましたように、イスラエルが実質的に占領している、そういう
     中で、レバノン側の抵抗組織、特にヒズボラという、シーア派の過激
     な急進的な組織があるんですけれども、彼らが対イスラエルの攻撃を
     する、これに対してイスラエルが反撃するという形で、日常茶飯事に
     死傷者を出すような大きな事件が発生している。ですから、そういう
     意味では、レバノンは内戦が、例えば九〇年に一応の終息はしたもの
     の、いまだにレバノン内戦の発生要因、これも非常に複雑な要因があ
     るわけですけれども、これが全く解決したわけではない。むしろ、ほ
     とんど解決してない。ですからレバノンの内戦がまたいつ勃発するか
     も分からない。そういう意味では、ここではシュトゥーラと書いてあ
     りますけれども、例えばこのレバノン域内、レバノン国内における情
  _____________30________________

     勢というのは、非常に不安定なものがいまだにあるというふうに考え
     ております。   
121 そういう危険なところを通過して輸送をしているということですかね。
       はい、そういうことになると思います。
甲第四一号証を示す
122 これは日本の総理府広報室の、中東のゴランで、自衛隊、よくやっていると
  いう内容の宣伝の新聞ですかね。これを見ると、非常に結構なことをやって
  いると、国際貢献に役立っているというような内容なんですけれども、先程
  の先生の証言ですと、イスラエルの占領の固定化に役立っているだけだとい
  うことなわけですか。
       はい。固定化だけでなくして、地域の情勢の不安定化の要因になって
       いるというふうに考えるべきだと思います。
甲第一〇号証を示す
  ------------------------------------------------------------
123 「ゴラン高原周辺の近景」という写真なんですけれども、九二年に先生が撮
  られたものですか。
       そうです。ほとんど九二年かと思います。
124 写真の下に解説が書いてあるんですけれども、これ、見ておられますね。
       はい。これは私自身が書いたものです。
125 特に訂正することはありますか。
       ございません。
126 一枚目の写真は、これは何ですか。
       これは占領地、シリア被占領地ゴラン高原内のイスラエルの入植地、
       エリアドという入植地の入口に立っていた看板です。
127 二枚目は入植地の風景ということですね。
       はい。
128 三枚目に有刺鉄線の張ってある写真がありますけれども、これはどういうあ
  _____________31________________

  れですか。
       この有刺鉄線の向こう側は、地雷源になっているので危険であると、
       いわば入ってはならないということの標示です。この向こう側に、U
       NDOFが活動を展開している地帯が帯状に長く広がっているという
       ことです。
129 地雷を真中にはさんで、停止活動をしているということですね。
       そういうことです。
130 それがシリアの占領地の中ということですね。
       そうでございます。
原告代理人(山本)
甲第三七号証を示す
131 ここに書いてある地図の中で、輸送ルートは緑の線のようですね。
      はい、そうです。
  ------------------------------------------------------------
132 赤い線で書いてあるのは、これは何ですか。
       これは国際的に認知された国境線です。
133 日本政府はこの線を認めているんですか。どうなんでしょうか。
       そういうふうに解釈してよろしいかと思います。
134 このポスター自身は、作成者は、ポスターの一番上のほうに書いてあります
  が、総理府国際平和協力本部事務局で作られたポスターなんですね。
       はい。
135 このポスターに書いてある地図を見ますと、日本政府もこのゴラン高原部分
  は、イスラエルがシリアの領地を占領しているんだという事実自体は認めて
  いるというふうに理解していいんですか。
       はい、そのように理解してよろしいと思います。
甲第四一号証を示す
136 総理府の広報室が出している広報紙でも、国境線は今お示ししたポスターと
  _____________32________________

  同じところで引かれているわけですね。
       はい。
137 我々は誤解していて、兵力引き離し地帯の、図面で言えば一番左側といいま
  すか、左側が国境線だったみたいな言い方を、僕は聞いた覚えがあるんです
  けれども、いわゆる国際的に公認されている国境線というのは、兵力引き離
  し地帯よりも、更にこの地図で言えば、左方。
       はい、そうです。
138 そういうところに行くわけですか。
       はい、そうです。
139 この辺、先程もちょっと御証言されましたけど、国境線がこういう位置にあ
  るんだということは、日本のマスコミはほとんど報道しないですね。
       そのように感じております。ここでは、中東ゴラン高原、PKOとい
       うふうになっておりますけれども、ここのタイトルだけでは、言葉の
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     遊びになるとあれなんですけど、正確にシリア被占領地ゴラン高原、
     なぜ中東という名前、シリア被占領地という言葉が長くて中東という
     言葉を使っているのか、その辺の言葉のあやというとあれですけれど
     も、正確にもっと使って、ここは占領下にあるんだということを強調
     すべきではないかと私自身は考えます。
140 一番最初に御証言があったように、イスラエルとしてはここを、自分の国が
  発行する地図には、自国の領土というふうにもう書いているわけですか。
       地図ではそうでございます。
141 地図では自国の領土になっちゃっているわけですね。
       はい。
142 国際社会に対する公式な態度は、イスラエルは何と言っているんですか。
       これはの八一年ゴラン高原併合法案の可決を見れば明らかですけれど
       も、イスラエルの領土になっていると、イスラエルは考えております。
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143 そのイスラエルがこれは我が国の領土だよと言ったイスラエルの態度につい
  て、国際社会、もしくは国連総会、そして日本の政府は、どういう態度を取
  っているわけですか。 
       先程触れたかと思うんですけれども、国連安保理理事会ではそれを批
       難する、それを認めない決議案が提出されたと。ところが、これはア
       メリカの拒否権発動によって葬られてしまったと、そういう経緯があ
       ります。
144 日本政府はその点についてはどういう態度ですか。
       日本政府は認めないという立場に立っていると、八一年当時はもちろ
       ん認めないという立場に立っておりました。
被告代理人
145 ございません。
裁判官(増田)
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146 先程証人は、UNDOFというのは中東和平に貢献しているのではなくて、
  むしろ中東情勢の不安定化を助長しているのではないかと、そういう見方を
  されているということでしたね。
       はい。
147 そのUNDOFの活動に対するシリア政府の評価というんですか、現段階に
  おいて、UNDOFの活動に対して、シリア政府がどういう評価をしている
  のか、それについてもし御存じであればお話しください。
       私、シリアに四年ほどいたんですけれども、その間の印象ですと、U
       NDOFの活動はイスラエルとの戦闘を防止する役割を持っていると
       いう認識は持っていたというふうに考えております。ただ、私がシリ
       アに滞在したのは七七年から八一年。その以降、私自身の研究のテー
       マがシリアだったものですから、調査では数回行っておりますけれど
       も、ゴラン高原の問題は私自身の専門ではないので、はっきりしたこ
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       とは言えませんけども、現在シリア側が、非常にこう、私の感じると
       ころでは、イスラエルとの戦争が起こればシリアが破れることは歴然
       としている。そういう中で、どうしても戦争は避けなきゃならない。
       これはシリアのまず重要な政策の一つである。ですから、イスラエル
       とは戦闘を交じえることはできないと。それを防止している意味にお
       いては、これはここで評価できる。ところが、実際に入植地活動が展
       開して、これは私が述べたようなことになると思いますけれども、入
       植地がどんどん拡大されて、実質的にそれをUNDOFの活動が、入
       植地の活動をあるところでは、実質的にその活動を維持する、防波堤
       になってしまっているということで、問題はありながらも、いわゆる
       停戦ラインにおけるUNDOFの活動を一方的に拒否できない、非常
       にジレンマに立たされているのがシリアの立場であり、政府の思い、
     あるいは国民もその辺は考えている、そのような思いでいるんじゃな
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     いかというふうに私は思います。
                              (以 上    高 見 澤  美 智 子)

東京地方裁判所民事第三部

        裁判所速記官          大 島  公 子

        裁判所速記官          高 見 澤  美 智 子
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