[ゴラン高原PKF違憲訴訟]憲法学者の証言 2

1997年12月22日 第10回口頭弁論

(注)ページ数の割降りは、紙の裏表を合わせて「1」と数え、裏と表の間は "---------------------------" で示してあります。


      も明らかではありませんけれども、先ほど申し上げましたようなUN
      DOFの設置の趣旨と、それから、部隊指揮官の持っている権限とい
      うものを踏まえてみた場合においては、そのような射撃訓練というも
      のを、後方支援活動に参加した自衛官が行うということは、部隊司令
      官の判断からすれば、きわめて当然のことだろうというふうに考えて
      おります。
三九 それから、この政府の実施計画等を読みますと、この自衛隊の部隊の仕事は、
   例えば、甲第三考証の平成七年一二月時点での実施計画の2ページの(イ)で、
   いわゆるPKO法三条三号タに掲げる業務となっていますが、タに掲げる業
   務というのは「イからヨまでに掲げるもののほか、輸送、保管(備蓄を含む)
   通信、建設、又は機械器具の据付け、検査若しくは修理」、こういう業務の
   うち「輸送並びに機械器具の検査及び修理の業務に関する企画及び調整に係
   る国際平和協力業務」と、こういうことで、いわゆる戦争行為とは全く関係
  ------------------------------------------------------------
   ない、全然無関係だというふうになっているんですが、その次の「レに掲げ
   る業務」、レというのは「イからタまでに掲げる業務に類するものとして政
   令で定める業務」と、こういう中身はほとんど何も書いてない業務の二つに
   限定されているんですが、この政令では、ゴラン高原国際平和協力隊の設置
   に関する政令四二一号という部分では、いわゆる消防隊の仕事をすると、第
   二条を見ますと「防火及び消火に関する企画及び調整並びに火災の発生時に
   おける消火及び延焼の防止であってうんぬん」と、消防隊の仕事もするとい
   とは、書いてあるんですね。
      はい、存じております。
四〇 消防隊だと、少しは軍隊に近くなるんですか。
      つまり、そこで言う消火等の活動というのは、あの地域において民家
      でボヤが起きたときに、それを消火するとか、そういうことを想定し
      ているのかというと、おそらくは、そうではないだろうと思います。
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      具体的にあの地域において、例えば、イスラエルとシリアとの間に兵
      力の衝突等が起きて、それに関連する火災等が発生した場合のことを
      おそらくは想定しているんではないかと、私は考えております。
四一 そういうことを、この政府の実施計画というのは、この文書上では全然書い
   てないんですね。
      ええ。
四二 こういう点は、いかが思いますか。
      PKO法そのものが、かなり重要な部分で政令に任せているという部
      分がありまして、今申し上げた点も実はそうかと思うんですね。です
      から、私も、一九九二年にこのPKO法が制定されたときに、実は少
      なからずこれは白紙委任的な立法というものを許容するものではない
      かというふうに考えたり、又言ったことがありますけれども、今の点
      は正にその端的な事例の一つかと思います。
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四三 そうしますと、先生は、こういうゴラン高原への自衛隊ないしは自衛隊員の
   派遣という行為は、日本国憲法との関係ではどう考えたらいいのか、まとめ
   て話していただけますか。
      今まで私が申し上げてきたことは、まずPKO法にも違反するという
      ことを申し上げたわけですけれども、ましてや、日本国憲法の平和主
      義の観点からは許容することが出来ないものだろうというふうに思い
      ます。で、先ほど申し上げたように、私自身は、自衛隊の存在そのも
      のが日本国憲法九条に違反するというふうに考えておりますけれども、
      その点は、仮に不問に付したとしても、そのような自衛隊が海外に出
      動することによって、兵力の引き離しであるとか停戦監視等の業務に
      携わることは、やはり日本国憲法の平和主義に違反するというふうに
      考えております、それは、一九五四年に自衛隊法が設けられたときに
      参議院において海外出動に関する決議ということを行って、自衛隊は
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      いかなる名目の下であれ、外には出さないという条件の下で、自衛隊
      が作られ、自衛隊法が作られたわけでして、その趣旨にも合致しない
      だけではなくて、日本国憲法の条文との関連で言えば、私は、直接的
      には九条の一項に違反するというふうに考えております、で、九条の
      一項は、日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求
      して、国際紛争を解決する手段としては、戦争それから武力による威
      嚇、そして武力の行使をしないということをうたっているわけでして、
      つまり国際紛争を解決する手段として、武力の行使ないしは武力によ
      る威嚇は行わない。で、これは、仮にPKO活動のためであれ、海外
      に出ていって、ともかく武力の行使、武力による威嚇というのは行わ
      ないということですから、今回のゴラン高原への自衛隊の派兵という
      ものは、小銃のみならず機関銃をも保持した上で行っているわけです
      から、そのような武力の行使を想定し、前提とした形でもっての海外
  ------------------------------------------------------------
      への自衛隊の出兵と、それから、そのような武力の行使を想定した上
      での国際紛争のための一定の役割を果たすということは、日本国憲法
      の九条の第一項に既に違反していると、私自身は考えております。
              (以上  大島 公子)
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四四 本件裁判では、原告たちは平和的生存権の侵害を理由といたしまして、今、
   先生の御証言いただいた自衛隊のゴラン高原派遣への差止めを求めたり、慰
   謝料の請求をしているわけですが、この裁判と平和的生得権の関係について
   先生はどのようにお考えか、まとめてお話いただけますか。
      私は先程日本国憲法の平和主義の究極の目的は平和的生存権というも
      のを全世界の人々に保障することにその究極の目的があるということ
      を申したわけでございます。平和的生存権の中身を、結論的に要約し
      て申しますと、私は、戦争の脅威や軍隊によって生命を初めとするも
      ろもろの人権というものが侵害されることのないようにする権利とい
      うふうにとらえますので、私は、そのような平和的生存権というもの
      が憲法の前文にうたわれ、かつまたそれは九条によって具体的に裏付
      けられているその内容をそういった権利として書かれているわけであ
      りますので、このような平和的生存権というものを機軸に据えた形で
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      原告の方々が本件訴訟を提起しておられることについては、私は憲法
      上正当性があり得るというふうに考えております。
四五 逆に言いまして、本件裁判におきましての裁判所の役割というものはどう理
   解していったらいいのか、先生の御意見はいかがですか。
      先程、申し上げましたように、憲法の平和主義が、自衛隊の存在とか、
      今回の具体的なゴラン高原への自衛隊の派兵等によって、私は、大変
      著しい形で侵害されているというふうに認識しております。憲法の平
      和主義が侵害されているだけではなくて、PKO法という法律そのも
      のも逸脱した形での行為がなされているわけでございまして、こうい
      う事態は、私は、日本の立憲主義のあり方としても、あるいは法の支
      配のあり方としても、大変憂慮すべき問題だというふうに考えており
      ます。裁判所は、改めて申し上げるまでもなく、憲法の番人であり、
      また法の番人でございますので、こういう由々しい立憲主義なり法の
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      支配に対する重大な危機的な状況に対して、裁判所としての本来の役
      割というものを是非私は果たしていただきたいというふうに考えてい
      ます。もちろん裁判所がこの種の違憲状態ないしは法侵犯状態という
      ものに関与するについては一定の訴えが必要でございますし、また従
      来の議論で言えば、具体的な事件性というものが必要であるという形
      で言われてきたわけでございます。私もその議論を無下に否認するつ
      もりはございませんけれども、例えば裁判所法の三条を見てみました
      場合に、裁判所の任務は、一切の法律上の争訟について権限を持つだ
      けではなくて、その他特に法律で定める権限を持っているということ
      を規定しておりまして、この規定に基づきまして各種の客観訴訟とい
      うものが法律で裁判所の権限として付与されているわけですね。とい
      うことは、どういうことかと言えば、憲法の七六条以下が規定してお
      ります司法権の概念というものは、事件性との関係においては比較的
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      緩やかな考え方を取っているのではなかろうかと。もし、憲法の七六
      条の司法権というものが、裁判所法三条で言うところの、一切の法律
      上の争訟のみを意味するという形で理解した場合においては、裁判所
      法三条がその他法律の定める権限を裁判所は有するという形で規定し
      ていること自体が、憲法違反、七六条違反ということにもなってくる
      わけでございまして、裁判所法三条が七六条違反だという議論は寡聞
      にして私は聞いたことはございません。ということは、客観訴訟とい
      ったものも実は憲法の七六条は司法権の中で含み得るものと考えてい
      る。もちろん客観訴訟のすべてがそこに含まれるというふうには私も
      必ずしも理解していませんけれども、ある種の客観訴訟はその中に含
      まれているという形で、事件性の要件といったものをそれほど厳格に
      はとらえる必要はないのではないかという考え方を採っているかと思
      います。アメリカの憲法におきましては、碑承知のように、係争、コ
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      ントラバシーという言葉が司法権の対象として憲法上明記されている
      わけでありますけれども、日本国憲法の場合においては七六条以下に
      は、そのような事件性の要件は憲法上の必要な要件としては書かれて
      いないということも、この問題を考える場合の一つの憲法上の示唆を
      提供しているのではなかろうかというふうに私は考えております。そ
      ういうことを考えてみますと、国民の裁判を受ける権利という憲法の
      三二条が保障した権利をも充足させる形で事件性というものを考えて
      いくと。つまり、従来裁判所が考えていたように、厳しい形で事件性
      の要件を考えるということには、少なからず再検討の余地があるだろ
      うというふうに私自身は考えております。
四六 そういうことを前提とした上ですが、本件裁判を提訴した原告の人たちの気
   持ちと言いますか、皆さんが考えている不利益というものについては、先生
   はどうお考えになっていますか。
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      私はその問題を考える場合の一つの視点は憲法九条自体が提示してい
      るんではなかろうかと思います。と申しますのは、憲法九条の主語は
      日本国民となったわけですね。日本国民は正義と秩序を基調とする国
      際平和を誠実に希求して、戦争を放棄し、武力による威嚇又は武力の
      行使はこれを放棄するということでありまして、従って、主語が政府
      とか国ではないわけですね。つまり国民として、従って国民はすべて
      の人たちが入ってくるわけでございますが、すべての国民が一人一人
      戦争を放棄し、武力による威嚇、武力の行使は行なわないということ
      が憲法九条で言われていることでございます。ということは、そのよ
      うな国民の責務と同時に権利が九条で書かれている。少なくとも政府
      に対して、武力行使ないしは戦争行為に加担することのないようにす
      ることを、国民としては政府に要求する権利というものが九条のこの
      ような文章から私は解釈することは決して不可能ではないというふう
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      には考えておりますので、原告の方々が今回のゴラン高原への自衛隊
      の派兵というものは、政府の行為による戦争への加担ないしは武力の
      行使、武力による威嚇行為であるという形で、それの差止めないしは
      損害賠償請求というものを平和的生存権を根拠にして主張しておられ
      るこの主張は、憲法九条のそのような趣旨というものを踏まえた場合
      においては、私は十分に理解できるのではなかろうかというふうに考
      えております。
四七 最近、日米安保条約に基づく防衛協力の指針、いわゆる新ガイドラインとい
   うものが問題になっておりますが、これもその一つの本質的な問題点として、
   自衛隊の海外派兵が問題になっているようでございますが、このゴラン高原
   の自衛隊派遣事件と新ガイドライン問題とはどういう関連性があるのか、そ
   の点では、先生、何かお考えになっていますか。
      私は、基本的には先程申し上げたことでございますけれども、今回の
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      新ガイドラインというのも、日本における立憲主義ないしは法の支配
      というものを著しくないがしろにする事例の一つだろうというふうに
      考えてます。御承知のように、今回の新ガイドラインは周辺事態にお
      ける自衛隊の対米軍事協力というものを規定しているわけでございま
      すけれども、日本自身が武力攻撃を受けた場合ではない事態における
      自衛隊の対米軍事協力という権限というものは現行の安保条約には一
      切規定されていないわけですね。現行の安保条約は、御承知のように、
      五条におきまして、日本の施政下におけるいずれか一方に対する武力
      攻撃が行なわれた場合においては、日米は共同の軍事行動を行なうと
      いうことを規定しておりますけれとも、これは日本の施政下にある領
      域という、簡単に言えば日本の領域に対して外部からの武力攻撃が加
      えられた場合にのみ日米は共同の軍行動を行なうということを規定し
      ているわけですね。六条の場合においては、確かにアメリカが極東の
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      平和と安全を維持するために日本の基地を使用することができるとい
      うことを規定しておりますけれども、この場合においては、日本はア
      メリカに基地を提供するこどができるということを定めておりますけ
      れども、それ以上の軍事的な協力は現行の安保条約の六条には規定さ
      れていないわけですね。ですから。今回の新ガイドラインは憲法に違
      反するだけではなくて、現行の安保条約にも違反するということかと
      思うわけでありまして、確かに新ガイドラインはその基本的な考え方
      のところにおいて、これは法的な拘束力を持つものではないんだとい
      うことを一応はうたっているわけでございますけれども、しかし実体
      的にはこれに基づいた様々な措置を、法令の整備を含めて、行なわざ
      るを得ないであろうということは、これは政府自身が直接、間接述べ
      ていることでございますので、こういった現行の安保条約をも根本的
      に改変し、日本自身が直接の武力攻撃を受けている場合でない、いわ
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      ゆる周辺事態に対して日本の自衛隊が出て行くということが、条約の
      改定という手続を採らないで、一片の政府間協定でなされるというこ
      とは、私は、先程申し上げました法の支配ないしは立憲主義という観
      点からすれば、誠に由々しい事態だというふうに言ってよろしいかと
      思うわけであります。その点で、このゴラン高原への自衛隊派兵、P
      KO協力法にも憲法にも違反した形でなされているという事態と、軌
      を一にするものであるというふうに言ってよろしいかと思います。な
      お、具体的にPKO活動との関係においては、新ガイドラインが平素
      からの日米協力というものを定めておりまして、そこで積極的なPK
      O協力というものを行なうということもこの新ガイドラインでは定め
      られているわけでございまして、従いまして、新ガイドラインのそう
      いった文言を踏まえました場合においては、このような、違憲と私は
      考える、そしてまた違法と考える、自衛隊の海外出兵といったものが、
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      新ガイドライン体制の下でますます強化されていくであろうというこ
      とが私は想定されるのではなかろうかというふうに考えてます。
四八 今、先生のお話になったような問題を含めて、本件裁判の原告の人たちが、
   ゴラン高原への自衛隊派遇の次に新ガイドラインによる米軍との更に大きな
   広い意味での海外での協力というふうに、軍事的な、憲法で禁止しているは
   ずの自衛隊の海外派兵という問題がどんどん広がって行くと、こういうこと
   を本当に心配して本件裁判を起こしているわけですが、こういう裁判を起こ
   している原告たちの気持ちを、単に政治的心情とか、内心の意思に過ぎない
   というふうにして切って捨てるべきなのかどうか、この点について、本件裁
   判について裁判所が原告の皆さんの訴えをどのように扱うべきかと、こうい
   う点について先生の御意見はいかがでございましょう。
      先程、平和的生存権についての話を申し上げたわけでございますけれ
      ども、私自身は平和的生存権という権利は裁判規範性を持った具体的
  ------------------------------------------------------------
      な権利であるというふうに考えております。確かに従来の下級審の判
      例の中では、長沼訴訟一審判決を除きますと、平和的生存権は理念的
      なものである、あるいは抽象的なものであるといった考え方が下級審
      の判例の動向であったかと思います。しかしながら、平和的生存権の
      中身というものを、先程、簡単に申しましたけれども、戦争や軍隊に
      よって生命その他の人権を侵されない権利であるという形でとらえま
      すと、私自身はその中核部分に、すべての人々の生命への権利という
      ものがこの平和的生序権の中核にあるというふうに考えております。
      そういたしました場合に、これはもろもろの人権の中核であり、また
      前提であり、しかもこの生命への危険の有無については、かなりの程
      度明確な形で裁判所も判断することができる権利でございますので、
      自由権とか社会権が抽象的であるとか理念的であるとかということが
      言えないと同様に、私はこの生命への権利というものは抽象的な理念
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      的な権利とは言えなくて、極めて明確な権利であるという形で言って
      よろしいかと思います。そういった福利を保障するということのため
      に、先程未申し上げておりますように、九条は戦争の放棄と戦力の放
      棄、さらには武力による威嚇、武力の行使を行なわないということを
      定めたわけでございますから、その意味においては、原告の方々の具
      体的な権利というものの侵害の危険性があるということで、このよう
      な訴を提起されたことについては相当の合理性があるんだろうと言っ
      てよろしいかと思います。一〇〇歩譲りまして、平和的生存権という
      ものが憲法上ないしは法律上明確に認められた権利であると言えなか
      ったとしても、これは先程申し上げましたような、生命への権利と申
      しますか、生命に対する危険性を回避する権利という形でこれを構成
      いたしました場合においては、少なくとも法律でもって保護に値する
      利益というものの中には、これは含まれるのではなかろうかというふ
  ------------------------------------------------------------
      うに考えておりますので、裁判所におかれましても、そのような観点
      からする原告の方々の主張というものを門前払いされることなく、実
      体に即した審理をされることが望ましいのではないかというふうに私
      自身は考えております。
原告代理人(内田)
四九 今の証言に連なる問題ですけれども、日本の裁判所は、平和の問題、戦争の
   問題について判断したことが、長沼の一審判決以外にもあると思うんですけ
   ど、そういったことは今日の世界情勢の中で引用されるというようなことも
   あったわけでしょうか。
      私の記憶では、原爆訴訟というものが一九六三年に当東京地方裁判所
      の法廷で出されております。原告の国家賠償請求は棄却されましたけ
      れども、その内容において、原爆投下は国際法的に違法であるという
      判断がなされまして、先程、冒頭部分で証拠として出された、国際司
  _____________26________________

      法裁判所の勧告的意見というものが証拠として出されたかと思います
      が、その中で、核兵器の使用は全面的に国際法違反であるということ
      を述べた裁判官の中に、この原爆訴訟における国際法違反の下田判決
      というものが引用されております。
五0 日本の敗戦の直前に、一九四近年の八月一0日にも、日本政府は原爆につい
   て国際法違反だというふうな申入れをスイス政府を通じてしておられるのは
   知っておられますね。
      はい。
五一 今から五〇年以上も前の日本政府の申入れ、あるいは一九六〇年代の東京地
   裁の判決の一部分が、現在の核廃絶の世界の中で引用されるというような事
   態が来ているということですか。
      そうです。
五二 先程、人間の安全保障というところで、恐怖と欠乏から免れるというような
  ------------------------------------------------------------
   ことを言われたと思うんですけど、そういった問題も、日本国憲法の前文が
   更に国際社会において論じられるような状況になってきたということでしょ
   うか。
      そのとおりだと思います。
五三 そうしますと、従来こういった平和の問題等について裁判所が非常に慎重で
   あったということがあるわけですけれど、こういう国際的な流れの中で裁判
   所の役割というのも遥かに期待されるということでしょうか。
      私はそのとおりだと思いますね。
五四 先程、憲法九条について、憲法九条の主体は日本国民であるということを強
   調されたわけですけれど、同時に憲法一二条で、この憲法が国民に保障する
   自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならな
   いという条文がありまして、今回の原告等はこの一二条に基づいても訴訟を
   提起しているようなんですけど、その点についてはいかがでしょうか。
  _____________27________________

      私はそれは基本的にそのような形でお考えになっていることは正しい
      のではなかろうかと思います。先程も申し上げましたように、平和的
      生存権というのは生命への権利だということを言う場合に、それは憲
      法前文の平和的生存権が、全世界の国民の平和に生きる権利というも
      のを保障しているということでございますから、九条で、政府に対し
      て武力の行使を行なうな、戦争を行なうなということを述べているの
      は、自分たち日本国民の生命への権利が侵害されるという意味におい
      てだけではなくて、他の国々の人々の生命が侵害されることのないよ
      うにするという。その意味での平和的生存権を保障するためにも、九
      条は国民の権利として、政府に対する要求の権利として、武力行使、
      武力による威嚇を行なうなということを定めているわけでございまし
      て、そういう権利というものを実効あらしめるためには、国民の不断
      の努力が必要であるという関連になってくるのであろうというふうに
  ------------------------------------------------------------
      私は考えております。
五五 従来の九条論議というのが、国家の防衛という観点から国の自衛権があるか
   どうかというような論争が非常に多かったと思うんですけと、先程来の先生
   のお話を聞いていますと、人間の安全保障ということで、九条を人権概念と
   結合させて論ずるということでしょうか。
      そのとおりだと思います。
五六 それが人間の安全保障ということでしょうか。
      はい。
原告代理人(後藤)
五七 UNDOFという組織は国連の安全保障理事会決議に基づいて、ないしはそ
   の決議に由来する事務局長の指令に基づいて、司令官が動く組織であるとい
   うふうに承ったんですが、いいですね。
      はい。
  _____________28________________

五八 安全保障理事会の決議を握っているのは拒否権を有する五つの国ですよね。
      (うなずく)
五九 他の安全保障理事国は単なる一票に過ぎないですね。
      はい。
六〇 拒否権を有する安全保障理事国の五箇国の中で核兵器を持っていない国があ
   りますか。
      ないと思います。
六一 武器輸出によってもうけていない国がありますか。
      ないと思います。
六二 世界の国々を、先進国とか後進国とか、今は後進国ということは使わないか
   もしれない、北と南というふうな言葉で分けることがございますね。その五
   箇国の中には南の国は入っておりますか。
      どこを北、どこを南と呼ぶかということは若干問題があるかと思いま
  ------------------------------------------------------------
      すけれども、従来の使い方からすれば、南の国は安保理事会の常任理
      事国には入っていないというふうに言ってよろしいかと思います。
六三 概して言えば、北の国ばかりであるということですね。
      はい。
六四 安全保障理事会の決議を左右する拒否権を有する五つの国というのは、世界
   の国々の中では非常に偏った国々であるというふうに言えませんか。
      偏ったという表現を使うかどうかはともかくとして、先程からのお話
      にありますように、私はいわゆる核超大国、経済的にも非常に豊かな
      国々によって安保理事会の常任理事国が占められているという意味に
      おいて偏っているというふうに思います。
六五 豊かな国々であって、貧しい国々にいろいろな要因で紛争が起こったりしま
   すと、それにつけ込んで武器を売ってもうけている国ですね。
      そうですね。
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六六 UNDOFが現駐しているゴラン高原はどこの領土でしょう。
      元来はシリアの領土だと思います。そのことは、先程示されました文
      書の、一九七四年のUNDOFの設置に関する議定書、甲第二八号証
      の二の文書を御覧になれば分かりますけれとも、「当任務遂行に当た
      っては、シリアの一般的に適用可能な法律及び規制に従い」、うんぬ
      んということが書かれているわけでございまして、これは本来はシリ
      アの国内であるが故に、シリアの国内法が適用されるということかと
      思います。
六七 はっきり言えば、シリアの領土にイスラエルが侵入している、侵略している、
   侵略を維持している、それを少なくとも結果として守っているのがゴラン高
   原におけるUNDOFの客観的な役割じゃないですか。
      守っているというふうに積極的に言うことができるかどうかはともか
      くとして。その現状というものを追認しているということは言えるか
  ------------------------------------------------------------
      と思います。
六八 言い換えますと、シリアが、武力ではなくて国論に強行に訴えて、イスラエ
   ルを追い出そうとすることについて、消極的な役割を果たしているのと違い
   ますか。
      そのような側面も確かにあろうかと思います。少なくともシリアのか
      っては国内であった領域に兵力引き離しというものの線を引いている
      わけですから、結果的にはそういう形での現状固定化というものを客
      観的にはこのUNDOFが果たしているという側面はあろうかと思い
      ます。
六九 目的か手段かということは一応別としまして、少なくとも結果的にそういう
   ことになっているとすれば、このような結果を引き起こさないような、ある
   国の領土をかなり長い間、国連の決議に基づくUNDOFの名において維持
   すると、管理するというようなことを阻止するような制度的な保障というの
  _____________30________________

   は国連の中にありますか。
      現在のところは、国連としてはこのようなUNDOFの活動を通して
      兵力引き離しを行ない、戦争の再発を防ぐということを行なうに留ま
      っているかと思います。ただ、お手許の資料には全文は必ずしも掲載
      されておりませんけれども、七四年の引き離し協定の議定書の中には、
      私が見た別の資料では、これはいずれにしても兵力引き離しというも
      のであって、最終的な和平協定ではない、最終的な和平のための第一
      歩だということは、この引き離し協定の文章に実は書かれているわけ
      でございまして、その意味するところは、私はPKO活動そのものが
      そうだと思いますけれども、暫定的な停戦の役割を、しかも先程申し
      上げましたような、シリアの領域内における現状固定的な停戦という
      ものを維持ないしは監視するという、非常に限定された役割しかUN
      DOFそのものは持ってないわけですから、本来的な和平のための努
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      力というものが、国連ないしはその内外からなされるベきであるし、
      日本が本当に憲法の趣旨に基づいた国際貢献なり、国際協力を行なう
      とするならば、これとは違った形での協力を行なうべきである。例え
      ばイスラエルとパレスチナとの間の紛争解決のために、他の地域でご
      ざいますけれども、スエーデンの外務省が非常に積極的な和平工作を
      行なったという事例が近い過去にあるわけでございまして、そういう
      形での、中東における、あるいは具体的にイスラエルとシリアとの間
      の和平というものの実現ということが、私はそのための努力がなされ
      るベきであろうというふうに考えております。
七〇 このように一時凍結されたような状況にあって、一方の当事者はイスラエル
   である。イスラエルがパレスチナに対して、一方的に侵略を続けているとい
   う現実がありますよね。このような事態で、国連で何か積極的にゴラン高原
   に関しても手を打つようなことがありましたか。
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      いや、私は寡聞にして知りません。
七一 国連で何もしないとすれば、日本から軍隊である自衛隊があっちに飛ぶとい
   うことについて、日本の国内、国家権力の中で、立法、行政、それをチェツ
   クする機能を果たしている機関がありますか。
      これまでのところ、ないんではなかろうかと思います。
七二 あり得るとすれば裁判所だけではないでしょうか、どうでしょうか。
      現在の状況の中では、立法府ないしは行政府に期待することができな
      いとすれば、裁判所に期待するところが非常に大なるものがあるとい
      うふうに私は考えております。
被告指定代理人(小暮)
七三 本日の先生の御見解は、憲法九条を根拠として、平和的生存権は具体的な権
   利性が認められるというように理解してよろしいでしょうか。
      はい。直接的には憲法の前文にある、「平和のうちに生存する権利」
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      というのが直接の根拠ですが、その具体的な中身は九条でその具体性
      が担保されているというふうに考えてます。
七四 先生の御見解のように、平和酌生存権に具体的権利性を認めるという見解は、
   現在の憲法学会の中では一般的に賛同を得ているような御見解になっている
   んでしょうか。
      これは学説を、例えば人数を何対何という形で決めるわけにはいきま
      せんので、何とも正確なところは書えませんけれども、確かに通説な
      いしは多数説になっているかというと、まだその通説、多数説にはな
      っていない。しかし、極めて有力な学説であることは間違いないであ
      ろうというふうに思いますし、何よりも私は、今日のこのような、先
      程未申し上げておりますような、国際的な動向といったものも、平和
      的生存権の考え方というものを国際的に補強する流れになっているん
      ではなかろうかというふうに考えております。
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                   (以 上  高 見 澤 美 智 子)
 東京地方裁判所民事第三部

         裁判所速記官 大島公子(印)

         裁判所速記官 高見澤美智子(印)

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