著・訳者名:内海愛子、岡本雅享、木元茂夫、 佐藤信行、中島真一郎 本体価格:1000円 体 裁: A5判 / 縦組 / 並製 / カバー 頁 数:144頁 刊行年月:2000.06
内 容 構 成
序●排斥か、共生か 石原発言とは何か【佐藤信行】 1●人種差別撤廃条約からみた東京都知事発言 外国人への差別・敵意の扇動と助長【岡本雅享】 2●「第三国人」と歴史認識 占領下の「外国人」の地位と関連して【内海愛子】 3●検証 石原発言-警察庁の来日外国人犯罪分析批判 人種・民族差別や偏見からの脱却を【中島真一郎】 4●自衛隊の治安出動を期待する石原都知事 防災演習に名を借りた自衛隊中心の緊急事態演習の ねらいは?【木元茂夫】
今年(2000年)年4月9日、石原慎太郎・東京都知事は陸上自衛隊練馬駐屯地での創隊記念式典で次のように語った。 「この9月3日に陸海空三軍を使ってのこの東京を防衛する、災害を防止する、災害を救急するという大演習をやっていただきます」 「今日の東京を見ますと、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪をですね、繰り返している。もはや東京における犯罪の形は過去と違ってきた」 「こういう状況を見まして、もし大きな災害が起こった時には大きな大きな騒擾 事件すらですね想定される。そういう現況であります。こういうものに対処するためには、なかなか警察の力をもっても限りとする」 「ならばですね、そういう時に皆さんに出動願って、都民のですね災害の救急だけではなしに、やはり治安の維持も、一つ皆さんの大きな目的として遂行していただきたいということを期待しております」 石原氏が自ら「軍隊」と呼ぶ自衛隊員の前でなしたこの発言は、当日夕方から翌日にかけてテレビや新聞などマスコミによって大きく報じられた。そして、これを知った多くの日本人や外国人、市民団体や民族団体などから厳しい抗議を受け、批判の嵐は海外にもおよんだ。 しかし石原氏は、今もってこの発言を撤回することを拒み、発言の中の「三国人」を訂正しただけである。しかも石原氏は、4月9日以降も、さまざまなレトリックを弄しては「外国人犯罪の増加」「騒擾事件の可能性」といったフィクションを撒き散らしている。それにもかかわらず、マスコミなどは追及の矛を収めてしまい、石原発言を支持するという声と呟きが日本社会の底辺を覆い始めているかのように見える。 だが、私たちが何よりも銘記しなければならないことは、次のきわめて単純な命題である。 「東京都に限らず、すべての地方自治体の長は、震災など災害に際して、国籍や在留資格の有無を問わず外国籍住民を含む全ての住民を被害から守るために行動する責務があり、災害に際して住民にパニックにならず冷静かつ理性的に行動す るように訴えるのがその務めです」(移住労働者と連帯する全国ネットワークの声明、4月12日)。 たとえ石原発言を支持するという者であれ、この命題を誰も否定することはできまい。しかし都知事としての石原氏は、自らの発言でこれを放棄してしまったのである。このことは繰り返し確認されなければならない。「もし、ヨーロッパのどこか大きい首都の首長が公の場所で、『不法に入国する外国人が災害の事態に騒ぎをおこす不安があるから、そのときは君たちに出動してもらって秩序の維持をたのむ』と、軍隊に呼びかけたならば、その人物はたちまちデマゴーグの非難をあびて、間違いなくリコールされるであろう」(熊田亨「デマゴギー」『東京新聞』5月2日) 。 本書は、4月9日の石原発言および関連発言を検証し、この発言がデマゴギーに満ちたものであり、外国籍住民に対する差別と排斥の扇動・助長行為であること、そのことによって彼が政治的願望(自衛隊の治安出動)を実現しようとしていることを明らかにすることを目的に急きょ企画された。なぜなら、石原氏が撒き散らすデマゴギーとその軍事的野望こそ、私たちがこれまで在日韓国・朝鮮人や移住労働者たちと共に、日本社会が克服すべき課題として取り組んできたものであり、とうてい座視することはできないからである。 石原発言とは、一政治家の、不用意な失言に留まるものでない。石原発言に対する批判作業は、私たち日本人が、すでに四世・五世に至る在日韓国・朝鮮人、台湾人、中国人および移住労働者とその家族たちと共に、21世紀の日本社会をどのように構想するのかに関わる、すぐれて歴史的・現在的課題なのである。そしてこの検証・批判作業とは、「民衆意識に地殻変動が起き、そこに彼[石原]独特の情緒的宣言葉がしみこんでいく。政治への絶望感につけ込み、民衆の底暗い本音を代弁して、意識下に外国人を排除したい人たちを助長している」(辺見庸、『朝日新聞』4月21日)というそこに、深く切り込んでいくことでもある。
(佐藤信行)