軍備による“自立”

 講演などでよく「近代史の原理はなんですか」と訊かれることがある。その答えは一つしかない、「帝国主義」です。あの時代、帝国主義は善悪、正邪の言葉で語られるものではなく、「植民地になるか」「植民地を持つか」、どちらかの選択肢しかなかったのです。帝国主義を全うできない国は一流国になれなかった。ミアーズ女史のいうとおり、その原理の中で日本は生きただけだ。ピースといってもまかり通る時代では決してなかった。今でも同じことだ。



 日本が将来本気で再軍備して強烈な自衛国家になることはさておいて、中国を中国にとってもいい形の分裂国家に仕上げるのは、再軍備に要するカネに比べれば些細な投資で済む。それができれば、資本も技術も日本の系列にすることも可能だろう。



 技術力の点でいえば、前にも指摘したように日本には底力がある。たとえば、高速増殖炉の開発は今後も続けるべきです。すでにフランスは開発を中止しましたが、この技術は役に立つときが必ず来る。日本はいつでも核兵器をつくる技術をもっているんだという姿勢を見せることは重要なことです。
〜中略〜
何であれ、いつでも軍事技術に転化できる技術力を持っていることは国家として重要なことです。

〜中略〜

 防衛庁は対潜哨戒機P3Cの後継機を日本の自前でつくると言っているが、そうした前向きな姿勢はとても大事なことだ。たとえばどんなドッグファイトにも勝てるFSX戦闘機を開発し、仮想敵国の中国にどんどん輸出すればいい。開発することで日本の技術は改善されるし、日本のほうが同機種のさらに優れた新型戦闘機を持っていれば、その性能の利点を知っているだけに、相手はうかつに手を出すことはできない。優秀な武器をつくって外国に輸出することこそ、もっとも確かな安全保障なのです。


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『勝つ日本』より
 石原氏を支持する人は、中国に関する彼の発言を中国内の少数民族の人権問題ととらえていることがあります。でも、この発言(“分裂国家に仕上げる”)からはどうしても他国に対する干渉と、かつての「八紘一宇」に通ずるおごり(“資本も技術も日本の系列に”)が感じられます。
 「帝国主義を全うできない国は一流になれな」い、「今でもそれは同じ」だから、中国市場を他国に先を越されないように我がものにするというのでは、人権も何もあったものではないでしょう。
 後半は、いつもの“先手必勝”の論理です。日本の技術だけがそんなに“優秀”なのでしょうか?

 ・他国がもっと“優秀”な武器を作ったら?
 ・それがエスカレートしたら?
 ・日本に向けられなくても、他の国の人に向けて使われたら?

 というとがまるっきり考えられないのは不思議です。
(2001年 文芸春秋:刊 石原慎太郎・田原総一朗 共著)