日本をアピールするために

 とにかく、政治家が軽蔑されるはずだよ。たとえば湾岸戦争は誰のおかげで勝ったんだ? 日本のおかげだよ。中曾根康弘の独断決裁で、日本の戦略関係の技術もアメリカだけには渡してもいい、ということになって、それであの戦争準備を始め、ブッシュは勝てた。で、その話を僕は中曾根さんにしたんだけれど、ペンタゴンの最終報告書にこう書いてあった。「われわれはこの戦争で石原が『「NO」と言える日本』で言ったことが百パーセント正しいと証明した」とね。日本の軍事技術のおかげで、いかにアメリカの兵士が地上戦で死なずにすんだかも書かれている。三人が地雷を踏んで死んだだけで、第二のベトナムにはならなかったわけです。

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『石原さん、総理になってくださいよ』
テリー伊藤氏との対談より
 つまり、この人の頭の中にあるのは死闘の現場に決して近づくことのない人々の、机上の戦略の勝ち負けであって、その中でいかに“日本が”勝ち残るか、ということなのですね。
 湾岸戦争においてはクウェートの人々のことでもなく、未だに経済制裁に苦しむイラク国民のことでもなく、後遺症に苦しむその国民や各国兵士たちのことでもなく。また、ベトナム戦争は、ただ負けたことが“アメリカの失敗”であって、勝ちさえすればよかったことなのでしょう。
 国際政治の場で、他国の戦争を利用して自国の価値をアピールしようというやり方が「軽蔑されない政治家」のやることだとは思えませんが。
(『新潮45』2001.5月号 新潮社 発行)