編集にあたって

2000年4月9日、石原慎太郎都知事は、陸上自衛隊練馬駐屯地(東京都練馬区北町)で挙行された陸上自衛隊第一師団の創隊記念式典に参加して挨拶した。マスメディアは、その発言中の、いわゆる「三国人」発言に焦点をあてて報道した。しかし石原発言に含まれる問題は、それに留まらない。そこでまず、発言中最も問題のある部分を正確に記す。出典は、2000年4月13日付『産経新聞』であるが、読みやすくするため、いくつか読点を入れた。

(「日本は、敗戦後の五十年間、実に見事に内側からも外側からも解体された」という認識を示し、それをなしたのはアメリカであるとして)
 彼ら白人にとってみると、日本人だけが有色人種の中で唯一見事な近代国家を作ったということそのものが、意に沿わない事実だったのでありましょう。故に、この辺を非常に危険視したアメリカは、あのいびつな憲法に象徴されるように、この日本の解体を図って、残念ながらその結果が今日露呈されていることを、だれも否めないと思います。

 先ほど、師団長の言葉にもありましたが、この9月3日に陸海空三軍を使っての、この東京を防衛する、災害を防止する、災害を救急する大演習をやっていただきます。
 今日の東京を見ますと、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪をですね、繰り返している。もはや東京における犯罪の形は過去と違ってきた。こういう状況を見ましても、大きな災害が起きたときには、大きな大きな騒擾(そうじょう)事件すらですね、想定される、そういう現況であります。

 こういうことに対処するためには、われわれ警察の力を持っても限りがある。ならばですね、そういう時に皆さんに出動願って、災害の救急だけではなしに、やはり治安の維持も一つ皆さんの大きな目的として遂行していただきたいということを期待しております。
どうかこの来る9月3日、恐らく敗戦後日本で初めての大きな作業を使っての、市民のための、都民のための、国民のための大きな演習が繰り広げられますが、そこでやはり国家の軍隊、国家にとっての軍隊の意義というものを、価値というものを、皆さんは何としても中核の第一師団として、国民に都民にしっかり示していただきたいということを、ここで改めてお願いし、期待して、本日の祝辞と皆さんに対するお礼と期待の言葉にさせていただきます。頑張って下さい。


 石原都知事の発言には、現憲法を、アメリカが日本の解体を図る手段と位置づけて足蹴(あしげ)にしていること(いうまでもなく、公務員の憲法尊重擁護義務を規定した憲法99条に違反する)、「三国人」という言葉が示すように、明白な民族差別意識・排外主義に基づいて、自衛隊に治安出動を要請したこと、自衛隊を国軍として認知させる意志を露骨に表明したことが含まれていることを強調したい。

 さて、私、井上は、「東京都は戦争協力をするな!平和をつくる市民連絡会」のメンバーである。同会は小さな市民グループであるが、日本政府による新ガイドライン関連法制定の動きがはっきりして以来、青島前都知事の時代から、東京都に戦争協力をさせないための努力をつづけてきた。同会のメンバーはみな、昨春、石原慎太郎氏が都知事選に出馬表明したとき、強い危機感をもち、それ以来、彼の動向に注意し、互いに協力して、彼の言動に関する資料を収集する仕事をつづけた。
 石原都知事の犯罪的な暴言が飛び出した、まさにその4月9日、私たち「市民連絡会」は都心で、シンポジウム形式の「〈進行する都政の軍事化〉石原都知事に戦争非協力を要求する市民集会」を開催していた。私はそこでパネリストの一人だったので、会のメンバーが収集した資料をもとに、昨春の都知事選からその時点までの石原氏の諸発言を収録したメモを作成して配布した。それを基礎に、さらに調査を重ねて作られたのが、本文書である。
 石原都知事に対し、4・9暴言の撤回・謝罪や辞任を求める人びとが、この文書を活用して下さることを切に願う。

2000年6月10日