自衛隊9月3日演習に反対する
池田五律

「防災」に名を借りた
石原都知事


「市民の意見30の会・東京ニュース」
60号(2000.6.1)より、
ご本人の快諾を得て
転載させていただきました

クーデター発生

 9月3日、早朝。Aさんは、第一京浜を神田方面に向かっていた。日曜日の早朝で交通量は少ない。月曜
が納期のプログラムを徹夜で仕上げ、帰るところだ。銀座中央通りにさしかかったAさんは、道路が封鎖されているため、右折した。遠目にも障害物らしきものがわかったし、ニコニコ笑った男の誘導に自然に従った。しかし、しばらくして、封鎖の異様さに気がついた。見かけないごつい車止め。脇に止まっていた車両は、迷彩色。そういえば、誘導していた男は、警察官ではなかった。そうだ、自衛隊だ。何が起きたんだ。Aさんは、言いようのない不安を覚えた。でも、土曜日の夜もオフィスで過ごすような生活で疲れているのだろう、見まちがいさと、車を走らせた。

 練馬区光が丘団地に住むBさん。日曜なのに早く目が覚めてしまったBさんは、窓を開けて驚いた。いつの間に・・・。Bさん宅のある高層マンションから見下ろせる駅前広場に、自衛隊の車両がたくさん止まっている。トラックから降りた自衛隊員が、整列し、次々と地下鉄・大江戸線の入り口に消えていく。怖くなったBさんは、部屋に引きこもった。

 全容が明らかになったのは、昼前であった。銀座中央通りを境に、陸上自衛隊が霞ヶ関一帯を制圧していた。練馬光が丘から都庁前に至り、都庁前を起点に都心部を囲む環状を描く大江戸線。それを使って展開した第一師団が、その環の要所を固めた。精鋭といわれる習志野の空挺団は、ヘリで都心に展開。さらに、高速道路を使って陸上自衛隊が続々と東京に送り込まれてくる。群馬・相馬が原、山形・神町、名古屋・守山・・・。東京に結集した部隊は、荒川河川敷に野営地を作り出す。野営地と東京湾を、船が行き来している。横須賀から晴海埠頭近辺に派遣された海上自衛隊艦船との間を往復しているのだ。空にもヘリの轟音がこだましている。府中の航空自衛隊基地が拠点である。大阪・八尾、宮城・霞目基地、さらには北海道や九州からも、航空隊が増援されてくる。

 市ヶ谷、防衛庁地下、中央指揮所。こうした動きを統制していた統合幕僚会議議長は、「想定以上にうまくいってるな」と笑みをもらした。

 そして、テレビの画面に石原慎太郎。彼は声高に言った。「憲法は破棄しました。」 Aさん、Bさんは叫んだ。「クーデターだ」

「防災演習」という名の
首都戒厳演習

 9月3日に、東京都が行う「防災演習」は、都とは名ばかりのものである。初の陸海空三自衛隊統合「防災演習」。陸上自衛隊第一師団を主力に、空は府中、海は横須賀を拠点として4000人の自衛隊員が動員される。その指揮は、総合幕僚会議議長が統裁官として行う。市ヶ谷に移転した防衛庁自慢の中央指揮所の初の実動演習である。その演習では、銀座中央通りを通行止めにした救助訓練、河川敷に拠点を構え海上に避難民を送る訓練などが予定されている。それと、南関東大震災を念頭にかねてから想定されている地方からの増援を加えると、上述したシミュレーションのような自衛隊の動きになる。一部で「三国人」・「外国人」による「騒擾」を想定した「治安訓練」は行われなくなったという報道がなされているが、この「防災演習」自体が「治安訓練」であり、首都戒厳体制演習なのだ。

 この演習の準備は、石原が都の参与にした志方俊之・元北部方面総監(陸将)によって進められている。また石原は、「災害復興」を名目として、私権の制限を盛り込んだマニュアルの作成を都に進めさせている。これは、有事立法を先取るものだ。加えて、石原は、4月9日に、第一師団および練馬駐屯地創立記念祭において、自衛隊を「軍」と呼んで鼓舞した。国軍化、即ち改憲を、自衛隊員を前にぶったのである。都知事の創立記念祭出席自体、初めてのことである。憲法遵守義務を負う自治体首長にもかかわらず、石原は、自己の改憲論の推進を進めているのだ。そうした文脈からすれば、9月「防災演習」は、クーデターの予行演習と言っても過言ではない。
 しかも、都職員を“合理化”し、福祉を切り捨てる一方で、3億円も「防災演習」に注ぎ込む。それでも足らないというのが本音だろう。外形課税にしても、軍事予備費とでもいうべきものを捻出するためのものととらえることが
できる。税金でクーデターの予行演習をやられてはかなわない。

自衛隊のための防災訓練

 かつては、自治体の「防災訓練」に参加し、ヘリで負傷者を運ぶといったパフォーマンスをして、自衛隊の認知を得ようとしていた。今やその段階でなく、自衛隊の自衛隊による自衛隊のための演習を行うようになった。そして、自らを軸とした演習に自治体職員や民間企業を組織していこうとしている。現に、9月演習では都営地下鉄を使うのであり、その職員は演習に動員されることになる。また、1月17日に行われた都職員の震災を想定した参集訓練では、自宅から立川基地→民間航空会社のヘリ、習志野駐屯地→消防庁ヘリ、大宮駐屯地→陸上自衛隊ヘリ、町田市民球場→陸上自衛隊ヘリといった経路で都庁に向かう訓練がなされようとした。各自治体の防災連絡システムと自衛隊基地はリンクされており、中央指揮所の下での統制に組み込まれていく可能性もある。中央指揮所は、米軍ともリンクしている。横田基地では震災を想定した「ビッグ・ボイス」という演習が行われているが、そうしたものとの連動もあり得る。
 中央指揮所を中心とした危機管理体制、有事体制の構築が、「防災」を名目に進められている。

ねらうは治安出動

 さらに、自衛隊は、「防災」名目をフルに利用して、その増強を図っている。
 例えば、昨年の東海村核事故。大宮の科学防護部隊は、役に立たなかった。それを逆手にとって、核・科学・生物兵器への対処能力を強める必要があると宣伝する。そして、朝霞基地にそれら兵器の研究本部を設置し、生物兵器を扱う部隊の
設までも進め始める。
 これらは、テロ対策とも重なる。テロ対策の一環として、小倉にゲリラ戦闘模擬訓練施設を作るなど、都市での治安出動訓練も強化されている。「防災」=「テロ対策」=「治安出動」なのだ。
 そのことも、昨年の東海村事故は物語っている。事故を受けて出された「家から出ては危険」という指示は、被曝をできるだけ少なくするにはできるだけ遠くに逃げるしかないという当たり前のことと正反対のものであった。いわば、それは、住民の安全のためではなく、パニック防止のための外出禁止令だった。それを発しておいて、自衛隊が出動するのである。民衆の安全を守る危機管理などあり得ない。住民の被害を前提として治安を優先する「被害管理」とでもいうべきものを
しようとしているのである。

反対運動への参加、協力を!

 1月17日の参集訓練では、雪のためにヘリ輸送が行われなかった。9月演習の訓練にしても、大震災に見舞われたら地下鉄が動けるわけがないし、高速道路も破損しているに違いない。想定自体が、茶番だ。
 「戦争に協力しない!させない!練馬アクション」「ストップ海外派兵・大田共同行動」「新ガイドラインに反対する!中野」などは、「やめて! 9.3『防災』に名を借りた自衛隊演習(仮)」準備会を立ち上げ、7月の結成、9月の反対運動の取り組みの準備を始めた。全国のみなさんに、この運動への協力を訴える。