報告2 池田五律

PDFファイルはこちら

 学者なりジャーナリストとして専門に勉強しているわけではないので、身近に自分の知りえたところでのお話になると思います。不備もあるかと思いますが、よろしくおつきあいお願いします。

 この豊島公会堂のある池袋から東武東上線の急行で15分くらいのところに、朝霞という駅があります。その朝霞市、その手前の和光市、新座市、東京都側では練馬区にまたがって自衛隊の朝霞駐屯地があります。いまここで日米共同指揮所演習「ヤマサクラ45」というものが行われています。これは、自衛隊の各方面隊の持ち回りで行われている演習で1978年の旧ガイドラインを受けて、82年からだと思います。林茂夫さんなどがもうその当時から、海外での日米の共同作戦をにらんだ演習だと指摘している演習です。日米あわせて4000名近い人間が、いまその演習をしているさなかです。

 指揮所演習というのは、コンピューターでの戦争シミュレーション・ゲームを、司令部レベルの人間たちが行うものです。ですから4000名近くといっても、本当のときだったら数倍もの部隊が動くということですね。演習には戦術レベルとか部隊行動の戦闘レベルとかいろいろな規模のものがあるのですが、方面隊レベルになると、戦略レベルの指揮所演習になります。

 統裁官という役割の人間が日米から出ます。その統裁官が、あらかじめ作ったコンピューター・ゲームの部分部分の情報を各参加者に画面上で渡して、シミュレーション・ゲームをして、うまく指揮ができた人間、できなかった人間が評定されるという仕組みです。

 そういう演習は実動演習にも応用されて、演習を通して見つかった欠点をただして、また新しい戦争計画が練られていく、というものです。

 今回のヤマサクラ45に参加しているのは、陸上自衛隊だけではありません。航空自衛隊や海上自衛隊、そして統合幕僚本部の人間も参加しています。その意味では、日米の統合・連合演習と言っていいものです。アメリカ本土からは陸軍の第1軍団、座間に拠点がある第9戦域支援コマンド、そして沖縄から第3海兵団などが参加しています。

 注目に値するのが、統裁官にアメリカ本土から来る第1軍団の司令官が今回初めてついたことです。座間にある第9支援コマンドは、司令部があるだけでふだんは部隊がいません。つまり有事来援する部隊の司令官が統裁官になったということです。5年前にも朝霞でヤマサクラ35というのが行われたんですが、もうそのころから、州兵とか予備役が参加しています。そういう意味でも有事来援の訓練なわけですね。

 その第1軍団とか沖縄の第3海兵団は、韓国とのフォール・イーグルという米韓合同演習にも参加している部隊で、朝鮮半島有事の際には投入されることがあらかじめ決まっている部隊です。松尾高志さんからいただいた『星条旗』紙、米軍の広報紙みたいなものですが、そのホームページに出たものを見ますと、ミサイル防衛、人道支援、邦人救出、といったものも共同演習で行う戦争シミュレーション・ゲームの中に組み込まれているとのことです。ということは、かなり朝鮮半島有事を念頭に置いたものではないかと予測されるわけですね。

 とくにいま、ラムズフェルドが94年の核危機とかのときの朝鮮有事の戦争計画を改めて、在韓米軍在日米軍を縮小・合理化しつつ有事の際には長距離緊急展開するという新たな戦争計画を立てています。これは先制予防攻撃戦略に対応したものでもあるとされていますが、いわば先制予防攻撃を仕掛ける際に有事来援と称して日本に進出してくるそういうのを念頭に置いたシミュレーションです。

 朝鮮半島で有事が起こる、これは周辺事態の一類型ですが、そのような周辺事態が日本有事に波及するという状況を想定して、この間の有事立法は作られています。そこで想定されているのは、正規の部隊が大量に日本に上陸してくるというような冷戦期のものではなくて、不審船が出没し、そこから武装工作員が送り込まれ、原発を爆破する等々のゲリラ活動が行われる、などという事態ですね。そういうシミュレーションうで演習がいま行われています。

 しかし、もろに朝鮮有事の戦争ゲームではありません。たとえば4年前に伊丹で行われた西部方面隊のヤマサクラでは、九州北部に敵部隊が上陸して大阪方面に進出してくるのを止めるという、そんなシミュレーションでした。

 バーチャル・リアリティー。ゲームなんかでよくありますね。精巧にできた仮想現実を通して、いろんなシナリオに適用できるような訓練を行う。ですから、文字通り朝鮮半島を想定して、朝鮮半島を舞台とした戦争シミュレーション・ゲームがされているわけではない。しかしそこで行われる演習自身は、朝鮮有事を念頭に置いたものがプログラミングされている、というものです。

 ですから、別の言い方をすれば、いま日米でやっているシミュレーション・ゲームでつちかったノウハウは朝鮮半島有事だけではなくて、もっとグローバルに、いろんなところで起こるものでも使えるわけですね。

 単純な話、いま朝霞駐屯地の和光側のあたりを歩いていただくと、ものすごいテント群ができているのが見られます。鉄条網で囲まれたテント群です。その中で日米の兵士たちが、戦争シミュレーション・ゲームを一生懸命やっているわけですが、その陣地を構築すること自体がひとつの演習なわけですね。それから基地周辺の敷地内では、警備の自衛官が不動の姿勢で外部を警戒しています。これも演習の一環としての警戒・警備です。ひとつの訓練の中には、いろんなものに応用できるものが組み込まれています。

 いまイラクに送り込まれつつある北部方面隊は、去年、ヤマサクラをやりました。持ち回りですから、次は東部方面隊が行くのではないか。沖縄の第3海兵団はイラク戦争に参加しましたし、再投入されるとも言われる部隊です。そういうふうにこの演習が使われていくのではないかと思います。

 さらに、日米合同だけではなくて、自衛隊自身が対テロ作戦、そして海外への展開を念97 頭に置いたことを、いろいろと考えています。たとえば、ちょっと遡りますけれども、年にアジア通貨危機がありまして、インドネシアでスハルト政権が倒れるという事態がありました。そのときに邦人救出でシンガポールあたりまで航空自衛隊が行って、一部部隊はインドネシア本土まで調査のため乗り込んだわけですけど、それなどは自衛隊独自の行動でした。アメリカと日本との国益で、両方に国益があるところだったら共同作戦になるわけですけど、日本にとっては死活的でもアメリカにとってはあまり死活的ではない、そういう地域もあるわけで、ゆくゆくは日本独自でもかなりのことがやれるようにしていきたいということが念頭にあるわけです。

 朝霞駐屯地には市街地戦闘訓練の訓練場も作られています。一つの町のようなものですね。ここで都市での対テロ・ゲリラの訓練をする。いまイラクで掃討作戦をやっているアメリカ兵の状況がテレビに写りますけど、そういうことを自衛隊自身がやる、そういう訓練もやっているわけです。

 朝霞には、核・化学・生物兵器の研究本部も置かれています。そういう意味では朝霞駐屯地というのは、対テロ戦争の拠点中の拠点ということになります。それから、PKO部隊というのはだいたい小平の自衛隊の駐屯地で語学研修とかをやります。小平は昔で言うと陸軍中野学校、諜報本部に値する部隊のいるところです。小平で語学を勉強したり地域の状況を学ぶ。そして朝霞で錬成訓練をやって、部隊を整えて出て行く。朝霞はそういう海外派兵の拠点にもなってきました。

 みなさん基地というと沖縄とか横須賀、都内でも横田とか、そういうイメージが強いかと思いますが、豊島公会堂近辺はいろいろ基地があるんですね。東武東上線に東武練馬という駅を降りていただいて、南にちょっと歩くと、練馬北町駐屯地があります。第1師団の第1普通科連隊、近衛兵中の近衛兵の部隊が駐屯しています。その部隊と習志野の空挺団と、さいたま市の化学防護部隊で、対テロ、海外派兵の専門部隊をつくろうという動きもあります。

 それから北区のほうに行きますと補給統制本部がありますいまの戦争では補給統制ロジスティック、これが非常に大きな意味を持ちます。そういう形で、身近なところを見ていただいても、いろいろ再編が進んでいます。

 自衛隊は侵略対処を主な任務にしてきましたが、95年の防衛大綱見直しで、侵略対処と各種事態対処の2本立てになりました。今年中とも来年とも言われていますが、再度の防衛大綱の見直しでは、その各種事態対処を主な役割のほうに格上げすると言われています。各種事態というのは、テロ、ゲリラ、邦人救出等々です。

 その各種事態、アメリカ軍の場合だと小規模緊急事態というような言い方をしているんですが、そういうものが主な脅威と規定されるようになったのは冷戦後です。冷戦後に自衛隊であれ米軍であれ、その存在意義を作り出すために言い出した面もあります。その各種事態を引き起こすのは誰かというと、国家ではなく、アルカイダのようなテロ・ゲリラグループであったり、果てはコンピューターの中枢にウイルスを送り込む、そして政治や経済の中枢を麻痺させるような攻撃をする、そういうテロが予想される。それらの各種事態を予防する危機管理をするということは、どこにコンピューターおたくの少年がいるかもしれませんから、徹底した個人管理の徹底ということになります。

 ですから、どうも有事立法というと武力攻撃事態法とか国民保護法制というのが思いうかぶわけですが、片方で組織的犯罪対策法以来、一貫して治安弾圧関係の法律が強化されてきました。組織的犯罪対策法自身、アメリカの94年にできた「一般的テロ対策及び効果的死刑法」というのがひとつのモデルです。そのときから対テロ、それからテロ組織へのマネーロンダリングを対象にした法整備がされてきたんですね。治安弾圧関係の共謀罪の新設とか、そういった動きも、対テロ時代の有事立法として注意を払っていかなければならないと思います。

 そういう対テロ戦争の時代に自衛隊の任務がどうなるかということなのですが、自衛隊はやっぱり海外での活動が主になるのではないかと私は思っています。アメリカを見ていただいても、国内のテロ対策というのは警察が軸となって、連邦危機管理庁を母体にした米国土安全保障省が統括しているわけですね。警察が対応できない場合に軍隊が出てくることになります。

 海外派兵がこれからどんどんふくれていくと思うんですが、たとえばいまよくテレビに出る、佐藤なる北部方面隊の隊長がいますね、イラク派兵部隊の。彼は実はゴランPKO第一次派兵部隊の部隊長でもあった。8年間の間にかなり出世したわけです。そういう意味では、危険な海外勤務というものは、自衛隊の中でひとつの出世コースになっている。

 それから、死傷した場合の補償が一億円とか言われていますけれども、他にも民間保険があります。富国生命という会社がありますけれども、これは戦前は徴兵保険だった。今。。でも自衛隊の駐屯地の中に窓口があったりします一説には3億円出ると言われています1月1日に小泉首相が靖国神社に参拝したのは、戦死するのが当たり前、戦死を納得させる社会にするということです。自衛隊員に海外に行って死ぬかもしれない危険なことをさせることによって、国家を改造していく。自覚的な隊員のなかには、その気で行く者も登場してきています。そういう時代だと考えていただければいいと思います。

 この前、イラクでイタリアの警察軍が名もの死傷者を出しました。あの警察軍とは25いったい何かと、ちょっと調べてみますと、軍に所属して憲兵の役割をするのと、日常的には警察と同じような任務を行う部隊です。これは対マフィア対策で、それから年代70には左翼テロ対策もやっていた。いわば治安対策の中心部隊ですね。そういった対テロ戦争が考えられている中で、国民はどうなるかということに、話を移していきたいと思います。

 戦争というと、やっぱり総力戦体制、国民総動員、徴兵の強要と、こういうイメージが一般的なわけですね。ところが現代の戦争というのは、非常にプロフェッショナルの戦争になっています。昔のようにそのへんの農家の次男、三男、あるいは大学生をとっつかま、、、えて三八式歩兵銃の操作を覚えさせて連れていけばいいというような戦争ではなくて非常に高度な技術を習得した人間でなければならない。

 逆に言うと、自衛隊の中にはそういう高度な技術のないところもある。とくにコンピューター技術とか。そういうものをピンポイントで徴用・徴発する、自発性をくすぐって、自衛隊が持っていない技能を持った人を予備自衛官補として組み込んでいくことが考えら
れています。社会人や大学生のみなさん、あなたの技能を災害ボランティアとかに役立てませんか、夏休みに1カ月訓練すれば予備自衛官になれますよ、と。非常にプロの戦争になるからこそ、社会の中にいるさまざまな特殊な技能を持った人が、ピンポイントで組み込まれていく。

 それから、軍需産業の強化です。今度はミサイル防衛計画の一環でパトリオット・ミサイルのシステムを導入することになりました。首都圏を中心に配備すると言われてますから、たぶん入間に配備されることになります。ミサイル防衛をめぐっては、日米の共同研究、開発研究が行われていて、それが開発配備の段階に行く動きの中で、武器輸出三原則の見直しの動きがあるわけですね。

 軍需産業というと戦車や大砲とかを思い浮かべますが、現代の高度な軍事技術を支えているのは、かなりの部分が民需品だったりします。炭素繊維を一瞬のうちに固める技術がなければ戦闘機の翼はできません。だから私たちの目から見たときに普通の民需産業だと思っているような業種の方も、実は民需技術の軍事転用という形で組み込まれていく。それは日頃から防衛秘密、産業秘密を守るという意味で、日々の労働者の管理につながっていきます。

 また新自由主義的な合理化と同じように、軍事に関してもどんどん民営化、アウトソーシングがなされています。イラクに展開している米軍の物資を運ぶのは、民間航空だったりします。今でも自衛隊の艦船のメンテナンス等で、関連する造船会社の石川島播磨の従業員の方が出向という形で湾岸方面に行かされているようです。罰則を科さなくても市場経済原理、そしてその中で会社の命令という形で軍事協力が強いられていく。そういう動きが広がっていっていることも、踏まえておかなけければならないと思います。

 それから、先ほどもお話がありましたけれど、国民保護法というのは保護ではないわけですね。

 自助自救、自分のことは自分で救ってくださいというのが基本です。だから自主防災組織を作れと。そして避難民誘導、隔離収容、監視。国民保護法制を先取りするシュミレーションを作っている鳥取県のホームページを見ますと、自衛隊と警察の共同で検問所をつくる。自主防災組織が社会秩序の維持に当たり、テロ分子がボランティアと称して組織のメンバーに紛れ込むかもしれないから、それについても監視する。そんな先取り的な動きがあります。

 それから、国民保護法制のなかで、僕がいちばん大きく問題だと思っているのは、ふだんから自治体レベルでの基本計画を作っておけということです。これは災害基本計画と同じような形なんですね。平時からどこの事業所がどんな物資を保管し、誰を何人ぐらい出すかの計画を自治体レベルで作っておけ、ということです。

 先ほど、防災であれば、という区別がなされていましたけれど、いま向こう側が考えているのは、その区別を取っ払うことです。武力攻撃事態災害という概念を出してきています。これは戦災のことですが、戦災とは言いません。武力攻撃事態災害に対処しなければならない、だから災害基本計画の見直しで、核・化学・生物兵器対処の訓練もしなければならない。そんなことになります。
東京ではビッグ・レスキューという、石原知事が志方元北部方面隊総監の入れ知恵でやった大演習がありました。銀座通りに装甲車が出たというので、みなさんも覚えておられると思います。あのスローガンを見ていただければ非常にはっきりしていて「ビッグ・、レスキュー2000首都を守れ」です。都民を守れとは書いてありません。首都機能を守る、それが政経中枢師団の役割ということになります。

 いま自衛隊はさまざまに「組織の個性化」と称して、第1師団は政経中枢師団、相馬ケ原の第旅団は空中機動展開部隊、佐世保の相浦の部隊は離島対処部隊、などというよ12うに、個性化をはかると言っていますが、その狙いは対テロ・ゲリラと、政経中枢を守るというものです。もともと軍隊に国民を保護するなどという役割はありません。

 そういう考え方の根元にあるのが、安全保障と危機管理という考え方です。安全保障という考え方が当たり前のように流通していること自身、これは問題だと思います。安全保障という言葉は、戦後アメリカで生まれた言葉です。戦争は終わったけれど、パール・ハーバーのようなことが起きる潜在的脅威があるかもしれない、だから平時から安全保障を考えなければいけない。危機管理は、冷戦時代に米ソ核戦争のシュミレーション・ゲームをいっぱいつくる中から、起こりうるリスクに対して、起こった場合にその被害を最小限にするリスク・マネージメントをやっていかなければならないということで生まれてきた言葉です。だから、起こるのは仕方がない、起こったものの被害を最小限にする。そのためには政経中枢を守る、そういう考え方です。

 国会審議の中で土井たか子さんが、危機管理という考え方そのものを問題にしようとしたときに、小泉首相が「備えあれば憂いなしを否定する政党があるとは思わなかった」と一言でかたづけましたが、その危機管理、安全保障という概念をわれわれ自身が受け入れるべきなのかどうか。その原理に立ち返った議論が必要だと思います。

 危機が現にある、もし北朝鮮がミサイルを撃ってきたらどうするんだ、などという話もあります。多分にそうい言うこと自身が不安をあおる情報戦です。先ほど各種事態とか小規模緊急事態とか言いましたけど、これからの戦争で大きなのは情報戦だというふうに、自衛隊も米軍もさかんに言っています。情報戦とは謀略戦のことです。不安をあおって、そして国民を統合する。これは年代に第三世界に対して行われた低強烈度戦争でつち80かわれた手法とも言えます。

 ですからわれわれは、彼らが、こんな危機があったらどうするんだ、こんな危機もありうるぞと、不安をあおるメディア操作を行ったとしても、それにちょっと距離をおいて考えていくべきではないか。

 僕自身の立場は、どんな事態になっても戦争非協力を貫くということです。ドイツの場合は、国会で決まったことに対しても個人の抵抗権、拒否権を定めているそうです。危機になったら守ってやる、危機になったらこうしてやる、危機のときにはこうしなさいと言われても、放っておいてくれという、いわば自由主義の立場です。

 自由主義とか民主主義とか、いわば体制の概念になっているものを、もう一度私たち自身の手に取り戻すことがすごく重要になってくるんではないかなと、予感にしかすぎませんけれど、そう思っております。

 ということで、問題提起に代えさせていただきます。


平権懇トップページへ