報告4 竹中正陽
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みなさんこんにちは外国航路船員の竹中といいます。
私は主にタンカーとか鉄鉱石石炭などを日本に運ぶ船にずっと乗っております。船員の目から見た有事法制に対する現状をお話しして、皆さんの討論の素材にしてもらいたいと思います。
まず何よりも強調したいのは、日本の皆さんの生活のほとんどが、外国からの物資によって成り立っているということです。石炭・石油のほぼ百パーセント、鉱石も小麦もほぼ百パーセントに近い。それをわれわれの手で運んでおります。こうした皆さんの生活は、この50年で成り立ってきた。これが有事になったらどうなるのかというと、はっきり申しまして国民の利益は絶対に考えられないということが第一点だと思います。有事法制を考える、計画する、そのこと自体が国民の利益に反している。とうてい国民は最終的にはついていけなくなる。今は多くの国民はついていってしまっているわけですけど、現実生活からして絶対に認められなくなるというのは、間違いないだろうと思います。
皆さん方は、恐らくこの有事法制反対の運動で、地域や職場では少数派だろうと思いますけれども、間違いなく近い将来は生活実感からして多数派になってくる。そういう面では皆さん、勇気を持ってどんどん運動を進めていってもらいたいと思います。
外国航路に限って言いますと、日本の大型船は簡単に言って1000隻あります。そのうちの100隻ちょっとが日の丸をつけた日本の船ですね。日本籍船といいます。900が便宜置籍船というパナマなんかのフラッグをつけた船。この1000隻が日本の皆さんの荷物を運んでおります。ほかに1000隻が外国用船といって、外国の船で日本に荷物を運んでいます。合計2000隻の大型船で皆さんの生活物資を運んでいるわけですけど、この2000隻を守ることは、有事では絶対に不可能です。
世界中のどこの港にも、日本に荷物を運ぶ船が入っている。これを有事にすべて守るなどとうてい考えられません。そういう意味で、皆さんの生活は有事になったらすでに守れないというのが、この50年の日本の社会の現実です。それをまず認識してほしいと思います。
いま通常国会に国民保護法制というのが上程されようとしており私たちの所属する、20団体が反対運動を広げております。もちろん、この反対運動をどんどん広げていきたいわけですが、実は職場の現実としては、職場の中で声を上げることがほとんどできておりません。従事命令に従ってものを運ばなければいけないような場合、下船する自由が保障されているのか、就労拒否ができるのか。これは現状では千代田丸事件の最高裁判決で保障されておりますけれども、有事になったら個人的な拒否権は抑制される、これは間違いないことだと思います。
これに対して労働組合が、個人個人の労働者に就労拒否権を獲得することを要求して労働協約の中に書かせていく、こういった運動は今のところほとんど行われておりません。
また労働組合自身が会社の従事命令に対して、また国の従事命令に対して、拒否権とは言わないまでも発言権が得られるのか。これも抑制されるでありましょう。それに対して運動するということが、残念ながら私たちの所属の海員組合でも、現状ではほとんどできていません。これからの課題であろうと思います。
現在の有事法制反対の運動でかなり欠けているなと思うのは、市民運動の皆さんと労働組合の、本当の結合です。簡単に言ってしまうと、お母ちゃんは反対運動に行って気勢を上げているけれども、お父ちゃんは職場の中で何も声を上げられないで、命令に従っていくだけだというのが、私たちの周りの現状です。
かつてイラン・イラク戦争のころ、私たちの組合は個人の就労拒否権を勝ち取ることができました。当時の運輸省と交渉して、組合の発言権も勝ち取ることができました。皆さんご存じないかもしれませんけれども、イラン・イラク戦争の時には米軍が日本のタンカーを守るという提案をしてきたわけです。日本の政府が、日本の船会社・海員組合に対してしてきた。これを真っ向から断ったのは、日本の船会社なんです。ところが今、日本の船会社はなかなかそういう声を上げられない。
海上交通法では国内輸送に限って、国土交通大臣が海運企業に対して従事命令を出すことができるんです。これを外国航路の船会社でもという提案を7、8年前にしてきたわけですが、このとき真っ向から反対したのは、当時日経連会長だった根本です。こうした海運企業が、いま有事法制の中ではほとんど声を上げられなくなっている。その背景には、私たち従業員が声を上げることができない、労働組合の力が弱いということがあります。
個人としての拒否権をどう確立するか。そういうことも併せて、有事法制反対の課題にしていきたいと思います。