国会ではイラク復興支援特別措置法案とともに、テロ対策特措法の有効期間を二年延長する改正案が提出され、こちらは継続指針木となる模様である。
テロ対策特措法は、9.11テロ事件の興奮が覚めやらぬ2001年11月2日に成立した。当時、米国では「報復」戦争に反対する者は非国民として弾劾されるような状況があった。
いま米国ではアフガン報復攻撃の妥当性が問われている。ビン・ラディン氏は行方不明。アル・カイダと9.11テロの関連性は、グアンタナモ米軍基地に拉致したアフガン人「捕虜」を尋問しても明らかにならない。多国籍軍が擁立したカルザイ政権は、同軍が撤退すれば直ちに崩壊することが明白だ。何のための戦争であったのか、という深刻な問いは、日本のテロ特措法にも問われなければならない。なぜならテロ特措法は、アフガンを攻撃・占領する多国籍軍の後方支援を目的に成立したものであるからだ。
自衛隊はテロ対策特措法下で何をしてきたか。
テロ対策特措法は多国籍軍と国連を支援して、
を行うことを決めている。もっとも目立つのは海上自衛隊による協力支援活動としての洋上補給活動である。
海上自衛隊の発表によれば、補給艦「はまな」「ときわ」「とわだ」は、本年6月30日までに計265回の燃料洋上補給活動を行った。補給先は米国艦190回、英国艦14回のほか、フランス、ニュージーランド、イタリア、オランダ、スペイン、カナダ、ギリシア、ドイツの各艦とまことに多国籍となり(対象国が増えるごとに閣議決定が行われている)、計258回、補給量は約31万2000キロリットルに及び、その総額は100億円を超えた。すべて無償提供、プレゼントだった。
燃料補給の間、補給艦は相手艦とパイプでつながれたまま併走する。その間の護衛のためと称して護衛艦がつく。話題になったのは2002年12月派遣以降の護衛艦にイージス艦が加わったことだった。イージス艦はデータリンクにより米軍との高い共同作戦能力を持つためである。
海上自衛隊はこのほか協力支援活動として、補給艦「とわだ」による物品の輸送、輸送艦「しもきた」による建設用重機等の輸送を行っている。また被災民救援活動としては、掃海母艦「うらが」による毛布・テント・給水容器等の輸送(2001年11月25日出港)も行っているが、わざわざ日本から運ぶより現地調達の方がずっと安くついたとの批判も浴びている。
航空自衛隊は、米軍横田基地、嘉手納基地、グアムを結んで協力支援活動すなわち米軍の人員および物品の輸送を、計189回行った(03年6月24日衆院本会議、小泉首相答弁)。
この間、救難救助活動(多国籍軍の戦闘行為で遭難した軍人の捜索・救助・輸送)は、多国籍軍側からの要請がなく、行われていない。
戦闘行動には参加していないものの、派遣された自衛官のうち2名が死亡している(03年6月25日衆議院特別委員会、今川正美質問)。1人は過労死、1人は事故死といわれる。
これらの自衛隊の活動は、主に米軍向けの宅配便とガソリンスタンドの業務を担わされているだけだから、士気は上がらない。艦内での時間外飲酒で03年1月までに25人が処分され、さらに6月には約50人が同様に摘発されている。しかし士気低下よりもはるかに重大なのは、以下の疑惑である。
第一に、自衛隊は米軍の「戦術指揮下」で行動している、すなわち集団的自衛権を行使しているという疑惑がある。02年6月16日付『朝日新聞』は、洋上補給活動が始まる一週間前に海上幕僚監部の派遣チームがバーレーンの米中央軍第五艦隊司令部のムーア司令官と協議した際、自衛艦が米海軍第53任務群司令官の戦術指揮下に入ることを容認していたと報じた。『週刊読売』7月21日号によれば、防衛庁は朝日報道に対して「事実ではない」「提訴も辞さない」と抗議文を送ったというが、今なお提訴はなされていない。また、バーレーンの米軍基地内にある「友軍調整センター」に海上自衛隊の連絡将校が01年末から派遣されているのは事実である。
第二に、自衛艦の活動海域であるアラビア海の大半は「戦闘行為が行われることがないと認められる」地域ではなく、米軍の規定する戦闘地域=コンバット・ゾーン内に入っている、という問題がある。石破防衛庁長官の国会答弁(03年6月25日)は、コンバット・ゾーンとは米軍が出動手当をもらえる指定地域にすぎないかのように説明した。しかし米軍文献によれば、コンバット・ゾーンとは「作戦実施のために戦闘部隊から要求される地域」であり、「常に死の恐怖と戦っている」地域である。現に出動した海上自衛隊の護衛艦は、常に敵来襲に対処する訓練を行っている。そもそも攻撃される危険のない海域なら護衛艦は不要なのである。
第三に、海上自衛隊はイージス艦やP3C哨戒機の派遣要請をしてくれるよう米軍に申し出たという、制服組独走の問題がある。02年5月6日の『朝日新聞』が報じたもので、海上自衛隊幕僚監部が4月10日に在日米海軍のチャプリン司令官を横須賀基地に訪ねた際の話である。自衛隊が実績作りを焦ったこの件は、有事三法案を審議していた衆院特別委員会で追及されたが、うやむやとなった。
第四に、本来はアフガン対策で出動した自衛隊が、イラク戦争に協力したのではないかという疑惑がある。2月25日に「ときわ」はオマーン湾で米補給艦に給油し、同日中に同補給艦が空母「キティホーク」に給油した。「キティホーク」は当時、アフガン作戦とイラク作戦の双方に係わっていた(5月15日参院外交委員会での石破答弁)。また米海軍海上輸送団の機関誌『シーリフト』六月号は、「ときわ」が「イラクの自由作戦」に参加中の米給油艦「ジョン・エリクソン」にペルシア湾で給油している写真を掲載した。
5月22日に米海軍横須賀基地機関紙『シーホーク』インターネット版は、「ときわ」の給油活動、「きりしま」「はるさめ」の通信能力が「イラクの自由作戦」で同盟軍の艦船を大いに助けた、との自衛隊曹長談話を掲載した。翌日、この記事は不注意に基づく誤りだったとの米軍からの緊急発表があった(5月23日『毎日新聞)。
また輸送艦(というより戦車揚陸艦)「しもきた」はタイからカタールに向けて建設用重機を運んでいるが、当時の米軍はイラク戦争の準備に余念のない時であり、サウジアラビアの意向で使えなくなった空軍基地の代替基地を、急遽カタールに建設していた。
これらの疑惑を残したまま、テロ特措法を延長して自衛隊が中東で米英を中心とする多国籍軍を支援し続けることは、アラブ諸国の人々にとって、日本は敵だとする認識を強めるだけだろう。
なお7月に入って、防衛庁はイージス艦派遣については「こんごう」の交代艦は送らないことを決めた。4隻あるイージス艦のうち「ちょうかい」が長期整備中、最初にインド洋に送った「きりしま」も整備中のため、8月に「こんごう」が帰る前に「みょうこう」を派遣すると、稼働できるイージス艦が日本に一隻もなくなってしまうからである。これまで一年半余にわたり、イージス艦に限らず輸送艦にせよ補給艦にせよ掃海母艦にせよ、最新鋭、最大級の艦を遠くアラビア海に派遣してきたことは、本来の自衛の能力を大幅に低下させていたことになる。今にも北朝鮮からミサイルが飛来するかのように宣伝する人々は、政府と自衛隊を「国賊」として糾弾すべきであろう。
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