小泉内閣はアフガニスタン戦争支援のためのテロ特措法につづいて、イラク戦争支援のためのイラク特措法を整備しようとしている。
いうまでもなく、これらは「9・11中枢同時テロ」に対するブッシュ政権の対応である「対テロ戦争」への日本政府の協力・加担政策の実施にほかならない。アフガニスタン戦争はその第一幕であり、イラク戦争はその第二幕であると同時に、昨年9月に発表されたブッシュ政権の公式な国家戦略である「国家安全保障戦略」(ブッシュ・ドクトリン)の適用第一号である。
アフガニスタン戦争は現在も進行中であり、テロ特措法にもとづく日本政府の軍事協力――海上自衛隊の洋上燃料補給と航空自衛隊の空輸協力はペンタゴンの文書「同盟国の貢献報告」(2002年6月)で「進行中の戦闘作戦(ongoing combat operation)に対する歴史上初めての支援」であるとして高く評価されている。
イラク戦争はネオコン(新保守主義者)が「第二次湾岸戦争」と呼ぶがごとき性格ももつとはいえ、基本的には「ブッシュ・ドクトリン」の初適用の戦争であり、現在は「主要な戦闘は終結」(5月1日、ブッシュ米大統領の言明)してはいるものの、アメリカは「いまだ戦争状態」(7月4日のブッシュ米大統領の言明)にあるとの認識である。
イラクの現地はどうかと言えば、米英軍による軍事占領下にあって、占領軍による掃討作戦が各所で実施されているというのが現実である。福田官房長官の表現によれば「戦地」にほかならない。
現在、洋上・航空で実施している自衛隊によるアメリカ軍への兵站支援作戦を、今度は兵站支援の内容を追加するとともに、場所も陸地を加えて実施しようというのが今回のイラク特措法なのである。自衛隊が実施を予定している兵站支援作戦の内容はイラク特措法(「メニュー法」だと石破防衛庁長官は表現している)によれば、
- 医療
- 輸送
- 保管
- 通信
- 建設
- 修理
- 若しくは整備
- 補給
- または消毒 である。
このうち何を実施するかは、米英軍の「ニーズ」によるとしている。
石破防衛庁長官や福田官房長官らは、なぜ自衛隊なのか? について、素手の民間人では危ないので各国は軍隊を派兵しているとの説明を国会でしている。このことは、武器を持って武装していないと危ないということであり、武器使用を当然の前提としていることにほかならない。
今回の自衛隊の派遣について、石破防衛庁長官は「ROE」(rules of engagement=交戦規則)を付与すると明言しているのはこのためである。この「ROE」は防衛庁用語では「部隊行動基準」という名称にしている。内容はどのような状況で、どのような武器を使用するかを定めたもので、これが実現すれば自衛隊史上で今回初めてのこととなる。これまでの自衛隊の海外の軍事行動(PKO活動を含む)では、個人の武器使用について次官通達などの形式で定めていたが、今回は部隊としての武器使用の基準を初めて付与することとしたのである。
自衛隊が戦後初めて、戦死者・戦傷者を出す、あるいは「敵」の殺傷を実施することが想定される事態となったのである。
では、こうした自衛隊のイラク派兵は何を根拠としているのか?イラク特措法では、法案の目的として四つの国連安保理決議を並べているが、それは政府高官によれば、「イラク戦争は国連決議という正当な根拠に基づく戦争。政府はそれを正当な根拠で支持し、その結果の復興に協力するという立場を示すため」(「朝日新聞」6月24日付)であるという。
しかし、国連決議一四八三は、米英軍の「軍事行動の合法性やその結果としての米英占領当局の正当性には直接触れていない」(国際法学者・藤田久一氏「毎日新聞」6月18日付夕刊)という。
では、本当の根拠は何か? それは「日米同盟」だという以外ない。
この日米同盟であるが、重要なことは、「9・11米中枢同時テロ」以降、アメリカは「同盟」概念をはっきりと変化させているということである。
このことはブッシュ政権下で初めての「国防報告」(02年8月、国防総省発表)が明快に次のように記述している――
- 「国防戦略はアメリカの同盟とパートナーシップを強化し、新しい形の安全保障を発展させる努力を求めている」
「(この同盟とパートナーシップの)基礎となっているのは、一国家はその国外での効果的なパートナーシップと取り決めに進んで貢献できることができて初めて国内が安全であるという認識である」
国外での軍事作戦に積極的に貢献することが「同盟」の証(あかし)なのだとの認識こそ小泉首相が今回もまた行動で示そうとしていることなのである。
これまでの同盟概念を前提とすれば、このことは「同盟」プラス「コアリション」ということとなる。テロ特措法に基づき、フロリダ州タンパの米中央軍に連絡将校として勤務していた大塚一佐(海)は外務省の広報誌「外交フォーラム」(03年8月号)に掲載されたインタビューで、「一般には、条約に基づき義務を伴う長期にわたる同盟に対し、特定の任務・目的に対する自主参加型で、一定の期間を限った枠組み」を「コアリション」と説明し、これからの安全保障のトレンドは「同盟・プラス・コアリション」だと述べている。
冷戦期、アメリカの軍事戦略の必要上から生み出された自衛隊という名の日本の軍事力は、冷戦の終結と冷戦後の時期の終結である、新たなブッシュの「対テロ戦争」時代にふさわしく、PKO(国連平和維持活動)を越えた、多国籍軍への、国外における軍事協力の道に踏み出しはじめているのである。
イラク特措法の審議の過程で、ポスト・イラク特措法としての自衛隊の海外における軍事行動のための「恒久法」の整備が課題として浮上してきたのは、こうした「同盟」概念の変質、日米同盟の変質に起因している。
イラク特措法に基づく自衛隊の軍事行動は、事実上の多国籍軍への参加であると言って過言ではない。
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