ほんとの卒業式
卒業証書授与式。
あなたが、この学校を
そつぎょうしたことを
校長のわたしが国家に代わって
みとめてやりましょう。
なにかの聖域としての
高い段の上で
りっぱな装いの校長が
うやうやしく与えてくれる
りっぱな紙。
聖域は
りっぱな旗がなにかの輝きを与えるために掲げられ
りっぱな歌も荘厳さもために動員され
式の主役はこの聖域だと
最敬礼と気をつけを
ほんとの主役たちに要求しています。
二回、三回と見た夢の中に
手づくりの
ほんものの
卒業証書がありました
ずっしりと
内側からの
輝きを放っていました
目が覚めて
<一人ひとりの みんなのわたしの 卒業証書だ>と
叫びそうになりました。
<わたしは、この学校を卒業することを、 ここに宣言します。
それを認めるのは、ここで学んできたわたし自身です>
そう宣言する卒業証書
卒業宣言証書――なのです。
卒業証書授与式のネガフィルムが
逆回しで映し出されました。
黒地に白の旗の前で
白い服の校長がうやうやしく
卒業生から立派な紙を
ありがたそうに受け取っていました。
卒業生はみんな
<卒業してやったぞ。これで
校長はじめ教職員の人たちは、
無事にお役目を果たしたことになる。おめでとう!>と
どうどうと
主役として輝いていました。
一九四五年八月十五日を境に
ほんとはなくなったはずの
卒業証書授与式。
ほんとはその時から<卒業宣言式>に
変わっていなければならなかった。
わたしは この学校で 学んだ
だから わたしの意思で
この学校を 卒業していく
――それでいいのだ。