詩もどき「ほんとの卒業式」

2004・6・20  長谷川 孝

ほんとの卒業式

卒業証書授与式。
 あなたが、この学校を
 そつぎょうしたことを

 校長のわたしが国家に代わって
みとめてやりましょう。

なにかの聖域としての
    高い段の上で

りっぱな装いの校長が
   うやうやしく与えてくれる

りっぱな紙。
聖域は

りっぱな旗がなにかの輝きを与えるために掲げられ
りっぱな歌も荘厳さもために動員され

式の主役はこの聖域だと
   最敬礼と気をつけを

ほんとの主役たちに要求しています。

二回、三回と見た夢の中に

手づくりの
   ほんものの
卒業証書がありました

 ずっしりと
  内側からの
   輝きを放っていました

目が覚めて
 <一人ひとりの みんなのわたしの 卒業証書だ>と
  叫びそうになりました。

 <わたしは、この学校を卒業することを、 ここに宣言します。
   それを認めるのは、ここで学んできたわたし自身です>

そう宣言する卒業証書
   卒業宣言証書――なのです。

卒業証書授与式のネガフィルムが

逆回しで映し出されました。

 黒地に白の旗の前で
   白い服の校長がうやうやしく

 卒業生から立派な紙を
   ありがたそうに受け取っていました。

卒業生はみんな
 <卒業してやったぞ。これで
   校長はじめ教職員の人たちは、
     無事にお役目を果たしたことになる。おめでとう!>と

どうどうと
主役として輝いていました。

一九四五年八月十五日を境に
ほんとはなくなったはずの

 卒業証書授与式。

ほんとはその時から<卒業宣言式>に
変わっていなければならなかった。

わたしは この学校で 学んだ
だから わたしの意思で
この学校を 卒業していく

  ――それでいいのだ。



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