一 前提となる事実
証拠(甲二の21、三ないし七、三八、三九)及び弁論の全趣旨によれば、本
件派遣の経緯について、以下のとおり認められる。
1 一九四八年のイスラエル国建国以来、四次にわたる中東戦争を経て続いて
いたイスラエル国とシリア・アラブ共和国との間の紛争については、一九七
四年五月、両国間で、兵力引き離し協定が締結された。これを受けて、国際
連合の安全保障理事会決議第三五〇号に基づき、国際連合平和維持活動(以
下「国連平和維持活動」という。)として、シリア・アラブ共和国南西部の
ゴラン高原地域における両国間の停戦監視及び兵力引き離し等に関する合意
の履行状況の監視を任務とする「国際連合兵力引き離し監視隊」(the United
Natinal Disengagement Observer Force.以下「UNDOF」という。)
が設立され、同年六月から活動を開始した。UNDOFは、設立以来、活動期間
を半年ごとに更新されてきており、各国から派遣された約1000名の要員及び
国際連合職員等が活動している。
2(一)政府は、平成七年一二月一五日、「ゴラン高原国際平和協力業務の実施
について」及び「ゴラン高原国際平和協力隊の設置等に関する政令(平成
七年政令第四二一号)」(以下「設置等政令」という。)の閣議決定を行
い、平成八年一月一五日、ゴラン高原国際平和挽力隊を設置し、これにU
NDOFの司令部業務分野及び我が国のUNDOFに対する揚力を円滑か
つ効果的に行うための連絡調整の分野における国際平和協力義務を行わし
めるとともに、自衛隊の部隊等により食料品等の日常生活物資等の輸送等
の後方支援分野における国際平和協力業務を実施することとした。
(二)平成七年一二月一五日の閣議決定で決定された本件実施計画によれば、
ゴラン高原国際平和協力業務の実施に関する事項の概要は以下のとおりで
ある。
(1) 国際平和協力業務の種類及び内容
ア 次に掲げる業務であつて、UNDOF司令部において自衛隊の部隊
等以外の者が行うもの(自衛官二名)
a 国連平和協力法三条三号イからへまで及びタに掲げる業務並びに
レに掲げる業務として設置等政令二条各号に掲げる業務のうち、こ
れらの業務に関する広報に係る国際平和協力業務
b 国連平和協力法三条三号タに掲げる業務のうち輸送並びに機械器
具の検査及び修理の業務に関する企画及び調整に係る国際平和協力
業務
イ アa及びb、後記り並びにエに掲げる業務のうち、派遣先国の政府
その他の関係機関とこれらの業務に従事するゴラン高原国際平和協力
隊又は自衝隊等の部隊等との間の連絡調整に係る国際平和協力業務で
あって、自衛隊の部隊等以外の者が行うもの(必要な技術、能力等を
有する者六名)
ウ 国連平和協力法三条三号タに掲げる業務のうち、輸送、保管、建設
並びに機械器具の検査及び修理に係る国際平和協力業務
エ 国連平和協力法三条三号レに掲げる業務として設置等政令二条各号
に掲げる業務に係る国際平和協力業務
右ア及びイに掲げる業務は、国連平和協力法二条二項の規定の趣旨を
損なわない範囲内において行う。
右ウ及びエに掲げる業務は、国連平和臨力法二条二項の規定の趣旨及
び附則第二条の規定の趣旨を揖なわない範囲内において行う。
(2)派遣先国
イスラエル国、シリア・アラブ共和国及びレバノン共和国とする。た
だし、フィリピン共和国、ヴイエトナム社会主義共和国、タイ王国、マ
レイシア、インド、スリ・ランカ民主社会主義共和国、モルディヴ共和
国、オマーン国、サウディ・アラビア王国、アラブ首長国連邦及びエジ
プト・アラブ共和国において、前記(1)のウ及びエに掲げる業務のうち附
帯する業務としての物資の補給及び前記(1)のウに掲げる業務のうち輸送
の業務を行ぅことができる。
(3)国際平和協力業務を行うべき期間
平成八年一月一五日から同年八月三一日までの間(なお、後に実施計
画が変更されたことに伴い、順次延長され、現在も右業務が継続して行
われている。)
(4)自街隊の部隊等が行う国際平和協力隊の業務に関する事項
ア 自衛隊の部隊等が行う国際平和協力業務の種類及び内容
前記(1)のウ及びエに掲げる業務
イ 国際平和協力業務を行ぅ自衛隊の部隊等の規模及び構成並びに装備
a 規模及び構成
1 前記(1)のウ及びエに掲げる業務を行ぅための陸上自術隊の部隊
(人員四三名)
2 (1)に掲げる陸上自衛隊の部隊のための物資の補給及び前記(1)の
ウに掲げる業務のうち輸送の業務を輸送機(CH−130H)
により行ぅための航空自術隊の部隊(人員六〇名)
b 装備
1 武器 九ミリメートル拳銃九丁、六四式七・六二小銃三二
丁及び六二式七・六二機関銃二丁
2 車両 バス等五両(なお、後に実施計画が変更されたこと
に伴い、車両数が追加されている。)
3 航空機 輸送機(CH-l30H)二機
4 その他 自衛隊員の健康及び安全の確保並びに前記(1)のウ及
びエに掲げる業務に必要な装備
(三) 本件派遣における業務の実施の状況
(1) 司令部業務
UNDOF司令部は、ゴラン高原に設けられた兵力引き離し地帯の東
側に所在し、各国から派遣された約九〇名の軍事構成員を含む約二一○
名により構成されている。
軽部三等陸佐ほか一名の司令部要員は、平成八年一月三一日に日本を
出発し、同年二月一日にシリア・アラブ共和国に到着し、UNDOF司
令部要員の一員として国際平和協力業務に従事した。具体的には、輸送
及び重機材整備の業務に関する企画及び調整の業務並びにUNDOFの
活動に関する広報の業務を行うとともに、平成八年七月以降は、これら
の業務に加えて、重機材整備以外の整備、保管、物資の調達及び給食の
業務に関する企画及び調整の業務並びにUNDOFの活動に関する予算
の作成の業務を行った。我が国の司令部要員は、他国の司令部要員と共
に国連の施設内の宿舎に居住し、一般社会とは隔絶された生活環境のも
と、必要に応じて我が国からの物資の補給を受けながら生活した。
(2) 輸送等の後方支援業務
UNDOFの活動に必要な後方支援業務は、我が国の部隊及びカナダ
の部隊からなる約二一〇名の後方支援大隊により行われている。
佐藤三等陸佐以下四三名からなる陸上自衛隊の第一次ゴラン高原派遣
輸送隊は、平成八年一月三一日から日本を出発し、同年二月八日までに
全員がシリア・アラブ共和国に到着し、このうち三−名が兵力引き離し
地帯の西側に、一二名が兵力引き離し地帯の東側にそれぞれ所存する国
連の施設内に各国部隊と共に配置され、食料品等の日常生活物資等の港
・空港等からの輸送、UNDOFの補給品倉庫における物資の保管、活
動地域内の道路等の補修、道路等の補修に必要な重機材等の整備等の業
務を実施した。
これらの要員は、一般社会とは隔絶された生活環境のもと、必要に応
じて我が国からの物資の補給を受けながら生活した。
(3) 航空自衛隊は、C-一三〇型輸送機を平成五年五月から一一月にかけ
て日本とイスラエル国間において運航し、司令部要員並びに輸送隊のた
めの物資の補給を行うことにより、現地での円滑な活動を支援した。
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