原本番号 平成九年民第八五〇号の一 速 記 録 平成九年一二月二二日 第一0回口頭弁論 事件番号 平成八年第行(ウ)二0号 証人氏名 山内敏弘 原告ら代理人(山本) 甲第二六号証を示す 一 これは経歴書ですが、これは、先生にお書きいただいた先生の経歴ですね。 はい、そうです。 二 現在は、一橋大学法学部の教授ということで、御専攻は。 憲法です。 甲第二三考証の一、二ないし甲第二五考証を示す 三 これは、甲第二三考証の一、二が包括的核実験禁止条約、甲第二四考証の一、 ------------------------------------------------------------ 二が対人地雷全面禁止条約、甲第二五考証が国際司法裁判所の核兵器の使用 に関する勧告ですが、先生はこれらの文書はご存じですね。 はい、知っております、 四 最近締結されたり出された条約や勧告なんですが、これらが寄って立っ考え 方と、日本国憲法の平和主義との関係ということについて、先生はどのよう にお考えか簡単にお話しいただけますか。 結論的に申しますと、これらの条約であるとか勧告的意見の寄って立 つ考え方と日本国憲法の平和主義との間には、きわめて近い親和性が あると思います。別の言い方をしますと、こういった条約とか勧告的 意見が指し示す方向は、日本国憲法の平和主義がその理念とするとこ ろに一歩一歩確実に近づいているというふうに言ってよろしいかと思 います。 五 まず、甲第二三考証の包括的核実験禁止条約ですが、この条約は、その第一 _____________1________________ 条の「基本的義務」というところを見ますと、「1締約国は、核兵器の実験 的爆発又は他の核爆発を実施せず並びに自国の管轄又は管理の下にあるいか なる場所においても核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止し及び防止す ることを約束する。」ということが最初の条文になっていますが、こういう 条約が結ばれたということは、いわゆる冷戦下では夢のように考えられてい たのではないかと思いますが、その点では、先生はいかが思っていますか。 そのとおりだと思います。但し、このような条約が締結されるに至っ た背景は、私は冷戦時代にも既に存在していたというふうには思いま す。例えば、一九七八年の国連の軍縮特別総会の最終文書などを見ま すと、兵器一般、取り分け核兵器の増強は、国際的な安全保障にとっ てプラスになるかといえば、むしろそうではなくてマイナスになるん だというような指摘、あるいは、この人類は、現在大きな歴史的岐路 に立たされていると、で、この核軍拡競争をやって滅亡への道を歩む ------------------------------------------------------------ か、あるいは徹底的な軍縮への道を歩むか、その大きな選択の岐路に 立たされているということが、一九七八年段階の軍縮特別総会の最終 文書で出ておりますし、それから、ある意味においては、既に六〇年 代から七〇年代、八○年代にかけて、世界の各地域において、非核地 帯条約を作る動きがございまして、六〇年代においては、中南米地域 においてトラテロルコ条約という非核地帯条約が作られますし、八○ 年代の半ばには、南太平洋地域においてラロトンガ条約という非核地 帯条約が作られております。又八○年代の後半においては、アメリカ とソ連との間に、中距離核戦力の全廃条約が締結されております。そ ういった冷戦下において、既にこういった核軍縮への動きといったも のが、冷戦の崩壊とともに更に明確な形を取り、それが、言ってみれ ば、この書証として出されております甲第二五考証の一九九六年にお、 ける国際司法裁判所の勧告的意見となって表れてきたわけですし、こ _____________2________________ の勧告的意見の中で、最後のところで核保有国に対する、言ってみれ ぱ、核軍縮のための交渉というものを、勧告的意見は明示的に要請し ていたわけです。こういった流れを踏まえて、この包括的核実験禁止 条約になったというふうに、私は理解しております。 六 甲第二五考証、国際司法裁判所の一九九六年七月八日付けの「国連憲章第9 6条第一項に基づく核兵器の使用・威嚇の違法に関する国連総会決議49/ 75に答える、勧告的意見」と、書証としては、その最後の結論部分だけ出 しておりますが、結局、この勧告的意見の結論部分というのは、どういうこ とを言っているか、紹介していただけますか。33ページを見てください。 これは、結論的には、核兵器の威嚇または使用は、一般的に武力紛争 に適用される国際法、とりわけ人道法の原則および規則に反するとい うことを、結論的には述べたものだというふうに言ってよろしいかと 思います。 ------------------------------------------------------------ 七 そうしますと、現在、今度の総会決議では、核兵器そのものの全廃条約につ いても交渉を開始すべきであるというような総会決議がなされているという ことは、ご存じですか。 はい、知っております。 八 こういうふうに核兵器の問題については、世界の考え方、国際社会の考え方 というのは、大変、その意味では、憲法に近づいているというふうに私は理 解しているんですが、先生はいかがお考えですか。 全くそのとおりだと思います。おそらくは、二一世紀のそれほど遠く ない段階において、核兵器の保持そのものについても全面的に禁止す るような条約が作られるというふうに、私は期待しております。 九 それから、今度は、普通の兵器の問題ですが、つい最近一二月三日にカナダ のオタワで署名式が行われた、対人地雷全面禁止条約というのはご存じです ね。 _____________3________________ はい、知っております。 一〇 甲第二四考証ですが、まずこの禁止条約の意義というものについては、先生 はどうお考えですか。 既に一九七七年に、ジュネーブ条約の追加議定書というものが締結さ れまして、そこで過度のあるいは不必要な苦痛を与えるような兵器の 使用は禁止するということが取り決められまして、この条約には、世 界の二一〇か国以上の国々が既に加入しているわけですけれども、こ ういった形でもって、通常兵器についても過度のあるいは不必要な苦 病を与えるような兵器の使用は禁止するということが、冷戦下におい ても、一般的な国際法の考え方になったというふうに言ってよろしい かと思いますけれども、そのような考え方を具体的に対人地雷につい て適用し、対人地雷の全面禁止ということを明らかにしたのが今回の 条約であるというふうに言ってよろしいかと思います。で、前文のと ------------------------------------------------------------ ころに書いてありますけれども、無実の市民が毎週対人地雷で数百人 単位で殺傷されていると、そういった犠牲者というものをなくするよ うにするために、この条約が作られだということが書かれているわけ でして、やはり通常兵器についても、そういった観点から徐々に削減 ないしは撤廃するということの方向性というものが、この条約によっ て、国際的に確認されたというふうに言ってよろしいのではないかと 思います。 甲第二七号証を示す 一一 この国連開発計画の「人間開発報告書1994」という冊子があるわけです が、この中で人間の安全保障という新しい考え方が紹介されておりまして、 最近は日本でも大分この人間の安全保障というものが紹介されているわけで すが、一言で言うと、これはどういうものだというふうに先生は理解なさっ ていますか。 _____________4________________ 基本的には、従来の安全保障関連の根本的な転換というものを提示し ていると、そういうふうに言ってよろしいかと思います。つまり、従 来の安全保障というのは、国家の安全保障というものが中心とされ、 しかもその場合に、軍事力によるところの国家の安全保障を確保する という考え方が、従来の安全保障の基本的な特質であったというふう に言ってよろしいかと思いますが、冷戦の終結とともに、又国際社会 において生起する様々な紛争原因というものを考えてみたときに、そ のような国家の安全保障を中心として、又軍事力を中心とした形でも って安全保障を考えるという発想では、もう役に立たないということ で、国家の安全保障から人間の安全保障へ、しかも、軍事力中心の安 全保障から持続的発展への権利を中心とした形でもって安全保障観念 というものを、根本的に転換すべきであると、で、その前提には、核 の安全保障というものによって、本当に地球上の一人一人の人間の安 ------------------------------------------------------------ 全というものが確保されるかというと、そうではないんだという認識 を踏まえて、このような新しい安全保障観念というものが提示された ということかと思います、で、しかも考慮さるべきは、この報告書は 国連開発計画という国連の専門機関が公に出した文書の中で、そのよ うな新しい安全保障観念が提示されたということでして、私はこのよ うな安全保障観念というのは、いわば日本国憲法の平和的生存権を中 軸とするところの安全保障観念と基本的に共通するものがあると言っ てよろしいかと思います。 一二 それの24ページの一番左側の段落の真ん中辺りに「普遍的な生存権の要求を 認めることから姶まる。」という言葉がありますね。 はい。 一三 この辺りは、今先生のおっしゃった日本国憲法の前文、平和的生存権とほと んど同じような言葉を使っているわけですが、中身的にも同じだと考えてい _____________5________________ いですか。 はい。私はそのようにとらえてよろしいかと思います。ついでに申し ますと、その同じページの下のほうを見ますと、「『人間の安全保障』 には二つの主要な構成要素がある。恐怖からの自由と、欠乏からの自 由である。」という言葉がありまして、これをも踏まえますと、日本 国憲法の前文で言っているところの平和的生存権と、少なからず重な っているというふうに言ってよろしいかと思います。 一四 今まで、特に最近の世界における平和とか安全保障とかいう問題の考え方、 大きな流れがどこにあるのかということを御証言いただいたんですけど、こ こで改めて日本国憲法の平和主義というものの意味内容というのを、先生は どういうふうにお考えか、お話ししていただけますか。 私は、日本国憲法の平和主義には三つの大きな柱があるというふうに 考えております。一つ目は戦争放棄、二つ目は戦力不保持、三つ目は ------------------------------------------------------------ 平和的生存権です。で、この三つは相互に密接な関係があるわけでし て、私は、平和主義の究極の目標は、平和的生存権というものを全世 界の人々に保障するというところに日本国憲法の平和主義の究極の目 的があって、そのために日本としては、一切の戦争を放棄し、又その 戦争の手段となるところの戦力を一切放棄するというのが、日本国憲 法の平和主義の大体の意味内容であるというふうに私は理解しており ます。 一五 先ほど、世界の大きな流れの中で、軍事力による安全保障というものについ ての考え方が変わってきている、というふうにお話しになったと思うんです が、この軍事力による平和とか安全保障という問題について、日本国憲法は どういうふうに考えているか、もう一回改めて説明していただけますか。 日本国憲法は、基本的には、軍事力によらざる安全保障の考え方を採 用しているというふうに言ってよろしいかと思います、で、前文にお _____________6________________ いても、日本国民は、その平和を希求するいわば国際社会の人々の公 正と信義に信頼して、我らの安全と生存を確保しようとしたといった 趣旨の文章がありますし、それを踏まえて、憲法九条は、一切の戦力 の不保持というものをうたっているわけです。で、私は、九条が一切 の戦力の不保持を規定しているということは、その制定過程からして も、その文言からしても、又他の条文との関連からしても明らかでは ないかというふうに考えておりますので、日本国憲法は、軍事力によ らざる平和、あるいは安全保障ということを想定しているというふう に言ってよろしいかと思います、 一六 そういう中で、いわゆる自衛力論とか自衛権論ということが、それの反論と してよく言われるんですが、これについて簡単にお話ししていただけますか。 いわゆる自衛力論というのは、一九五四年に自衛隊が設置されてから 政府が取ってきた、今日でも取っている憲法解釈かと思いますけれど ------------------------------------------------------------ も、このような憲法解釈は、実定憲法上の根拠を持たないものである というふうに言ってよろしいかと思います。なぜならば、自衛力論と いうものの議論というものを若干見てみますと、何が自衛力かといっ た場合に、それは、自衛のための必要最小限度の実力で、戦力にいわ ば該当しないものだというふうに言うわけですけれども、それでは、 日本国憲法で禁止されている戦力は何であるかという形で問いただし ますと、それは、自衛のための必要最小限度の自衛力を越えるものが 戦力であるという説明の仕方をするわけでして、これは一種のトート ロジーではなかろうかというふうに考えております。しかも、このよ うな自衛力論の下で認められております自衛力というのは、客観的に は確定出来ないのであって、時々の国際情勢とか軍事科学技術の水準 によって可変的なものであるということになって参りますと、これは およそ憲法上の限界がなくなってくるわけでして、政府の自衛力論か _____________7________________ らすれば、憲法で禁止された戦力を持っている国は、アメリカとかロ シアとか中国など、非常に限られたものになってしまうと、これは長 沼訴訟の一審判決がそのように述べていたわけですけれども、その政 府の自衛力論からすれば、世界のほとんどの国が軍隊を持っていない という、大変奇異な結末になってしまうわけなんです。これは国際常 識にもこれは合致しない。そして、又憲法の九条の条文にも合致しな い解釈だろうと、私は考えております。 一七 それでは、そのような日本国憲法の平和主義が、なぜ憲法に書き込まれたの か制定されたのか、その背景について簡単にお話ししていただけますか。 いろんな背景要因があるかと思いますが、一つは、二度の世界大戦を 通して、国際社会においても戦争が原則的には違法化されたという背 景があろうかと思います。で、取り分け第二次世界大戦において、長 崎・広島において、核兵器が、原子爆弾が投下されたという、この核 ------------------------------------------------------------ 時代というものに対する反省と、それから、そのような核戦争を起こ してはならないということに対する決意を踏まえて、私は、この日本 国憲法の平和主義が制定されたと、日本国憲法の前文では、直接的に は、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにす ることを決意したというふうにはっきりうたっていますから、やはり 過去の太平洋戦争における、正にその政府の行為として行われた戦争 というものが、アジア諸国の多くの何千万人にも人々を、そして日本 国内で言っても、三〇〇万人以上の貴重な命を戦争によって奪ってし まったということに対する反省を踏まえて、もう二度と自衛の名目の ためであれ戦争は行わないと、戦争のために使われる軍隊は持たない ということを決意して、日本国憲法の平和主義が作られたものだとい うふうに私は理解しております。 一八 で、この日本国憲法を、戦後五〇余年になりますが、日本人はどのように受 _____________8________________ け止めてきたのか、そして、今後、日本人はどのように受け止めていくだろ うかという点については、先生の御意見はいかがですか。 率直に申しまして、この半世紀の間、日本国民が、一般的にこの日本 国憲法の平和主義をどのように受け止めてきたかといいました場合に、 少なからずそのあいまいな受け止め方をしてきた部分があることは否 定しがたいと思います。で、現実に自衛隊は、一九五四年から今日ま で存続し、増強の一途をたどっておりますし、又一九五一年に締結さ れました安保条約の下でアメリカ合衆国の駐留を、日本は今日に至る まで認めておりますし、最近では、いわゆる新ガイドラインというも のが締結されて、新しい安保体制へと突入しているわけです。ですか ら、そういう意味においては、日本国民の平和主義に対する対応の仕 方に少なからずあいまいな点があったことは、私は、いなめない事実 だろうというふうに思います。しかしながら、他面において、この繰 ------------------------------------------------------------ り返し独立講和以降主張されてきました九条改憲論、これは、今日並 々勢いを増しているわけですけれども、そういった改憲論が九条に焦 点を当てた形で、繰り返し展開されてきたにもかかわらず、今日でも なお九条は改変されてはいない。最近の新聞の調査によりますと、九 条については、国民の七割方は、これは改正すべきではないというふ うに考えておるという世論調査も示されておりますので、私は、その 意味においては、九条の示す平和主義の理念については、大方の国民 のコンセンサスが今日においても存在すると、そして、国際社会の冷 戦以降における新しい軍縮への動向あるいはその安全保障関連の新し い転換というものを踏まえてみました場合においては、私は、日本国 憲法の平和主義が国際的にも通用力あるいは普遍性を持ちうるもので あるという方向で、多くの国民が益々確信をしていくであろうという ふうに考え、かつ又期待しております。 _____________9________________ 一九 それでは、本件ゴラン高原への自衛隊の派遣の問題に移ります。まず最初に 端的に本件ゴラン高原への自衛隊の派遣ということについて、先生は、事実 関係をどのように認識されているか、簡単にお話ししていただけますか。 私は、ゴラン高原におけるPKO活動は、いわゆるUNDOF(アン ドフ)という形で言われておるものですけれども、七四年から今日に 至るまでこのようなPKO活動が展開されているわけですけれども、 これは、本質において、UNDOFという略称そのものが、国連の兵 力引き離し監視軍と日本語に翻訳致しますと、そういう名前かと思い ますけれども、その名前が示しますように、正に兵力引離しのための いわゆるPKFであるというのが、その実態だろうと思っております。 したがって、そのような実態を持ったUNDOFに対して、自衛隊が その兵を送るということは、基本的に日本国憲法の平和主義に合致し ない、のみならず、現行のPKO法にも少なからず矛盾する内容のも ------------------------------------------------------------ のとなっているというふうに私自身は認識しております。 二〇 今の御証言いただいた部分の基礎的な根拠になる文書ですが、 甲第二八号証、甲第二九考証の各一、二を示す まず甲第二八号証は、どういう文書か説明していただけますか。 このTMCアセー研究所という、これは、オランダのハーグにある研 究所で作られたものですけれども、このPKO関係の基本的な文書が 資料として納められているものですが、その中で、これは特にUND OFについての設立についての基本文書その他を収録したものかと思 います。 二一 甲第二九考証は、どうでしょうか。 これは、国連広報センターが発行しておりますPKOについての概要 を記した有名な本です。日本でも和訳が初版等についてはございます が、これは、昨年、一九九六年に出されました第三版、最新版のブル _____________10________________ ーヘルメットです。国連自身が出している文書です、その中で、特に UNDOFについて記した記述です。 二二 それらの文書の中で、先ほど先生がおっしゃいましたけれども、UNDOF、 国連兵力引き離し監視軍の目的というものは何かというのは、どういうふう に書かれておりますか。 この一九七四年のイスラエル及びシリア兵力引き離し協定の議定書、 これが、UNDOFの設立についての基本文書ですが、その冒頭部分 で、この協定におけるUNDOFの目的は、停戦維持のため全力を尽 くすこと、又、それが滞りなく遵守されるようにすることであるとい うふうに書いてあるわけでして、したがって、兵力引き離しと停戦の 維持、並びに停戦の監視ということが、このUNDOFの基本的な設 立目的であるというふうに言ってよろしいかと思います。 二三 今の目的ですけれども、PKO法の三条の三号に、国際平和協力共同業務の ------------------------------------------------------------ 分類がありますね。 はい。 二四 先生は、UNDOFの目的というのは、そのPKO法の中のどれに当たると お考えですか。 三条三号のイ及び口に該当すると思います。イでは、正確な条文は覚 えておりませんけれども、兵力引き離し並びにその停戦監視が書かれ ておりますし、口では、緩衝地域等における巡回警らということが書 かれているわけですので、このUNDOFのこのような設立目的とい いますか、それは、文字通りPKO法の三条三号のイ及びロに該当す る活動を行っているというふうにとらえてよろしいかと思います。 二五 その国連の基本文書の中で、甲第二九考証の一一ページに、UNDOF、国 連兵力引き離し監視軍の設置の経過が書かれていると思いますが、先ほど、 先生にお話しいただいたんですが、結局、安保理決議に基づいて設置された _____________11________________ わけですね。 はい。 二六 簡単にそれ説明していただけますか。 それは、この一〇ページから一一ページにかけて書かれているとおり かと思いますけれども、中東情勢、取り分けイスラエル、シリア間の 緊張状態、戦争状態というものを停止させるために、これが設けられ たかと思いますが、ただ、このUNDOFが設置された目的は、あく までも兵力の引き離しと停戦の監視ということでして、最終的な和平 協定そのものではないと。ですから、最終的な和平のための便法でし かないんだということが、ここで重要なことなんだろうというふうに 思います。で、そのために、この必要な権限というものをUNDOF は行使することが出来るわけですけれども、これは、先ほどの一九七 四年の基本文書のところを見たほうがよろしいかと思いますけれども、 ------------------------------------------------------------ その中で、UNDOFは機動力を持ち、そして、一応防衛的な性格を 持つ武器を保持することが出来ると、そして、このような武器は自衛 のためにのみ用いられるということが書いてあるわけですけれども、 これは、言ってみれば、部隊の安全というものを確保するための武器 の保持と、それから自衛のための武力行使というものを認めていると、 で、そのような趣旨でこのUNDOFの活動権限というものも決めら れている。更に言うならば、これは、安保理の下で設けられたもので すので、あるいは、これは甲第二九考証の二の12ページのほうをご覧 いただければ、一番下の「UNDOFの機構」のところに書いてあり ますけれども、「当監視軍はいかなる時も国連の排他的な指揮と支配 の下にある。軍の司令官は安全保障理事会の同意のもとに事務総長に より任命され、事務総長に対して責任を持つ。」ということも書かれ ておりますので、これは、全く国連の排他的な、直接的には事務総長 _____________12________________ の排他的な権限下で、更に具体的には軍の司令官の具体的な指揮・支 配下においてこの活動が一体的になされるというものが、このUND OFの基本的な性格なり権限なり組織・機構であろうというふうに言 ってよろしいかと思います。 二七 そのブルーヘルメットの一二ページから一四ページにも、UNDOFの機構 とか構成について書いてあると思いますが、同時に、政府のほうで発行して います「ゴラン高原国際平和協力業務の実施の状況」、 甲第四考証を示す この報告書は、目を通されたことありますね。 はい、あります。 二八 その後ろのほうに、UNDOFの組織・構成の図面がありますが、今、先生 のおっしゃったように、司令官の下に歩兵大隊が二つと後方支援大隊と書い てありますね、そういう組織で約一二〇〇名から一四〇〇名で構成されてい ------------------------------------------------------------ ると、こう書いてありますが、したがって、これは、全体として一つの軍隊、 約一〇〇〇名規模の一つの軍隊だと考えていいわけですね。 全くそのとおりだと思います。で、名前そのものが、言ってみればオ ブザーバー・ホーシーズということでもって示されますように、これ は軍隊でございます。 二九 何か政府の説明を聞いていると、ゴラン高原に派遣された自衛隊は、輸送と かそういう任務だけに行くんであって、なんか軍隊に行くんじゃないみたい な雰囲気があるんですが、その点は、先生はいかがお考えですか。 それは、基本的に間違っているんじゃないでしょうか。 三〇 それでは、そのゴラン高原に行っている自衛隊員の業務の中で、特徴的なも のが二つあると思うんですが、一つは司令部業務というところに二人の方が 参加しているようですが、このUNDOFの司令部業務というのは、どうい うことでどういう仕事をやっているのかということは、先生はどうお考えに _____________13________________ なっていますか。 一応政府の実施計画では、司令部業務に派遣された者が、司令部で行 う仕事は、この広報と、それからその後実施計画が改定されまして、 予算の作成もその司令部業務の一つとして加えられたというふうに記 憶しておりますけれども、一応その実施計画の表面的な規定からすれ ば、司令部の中の広報活動と予算の作成ということだと思いますが、 しかし、いずれにしても、先ほど申し上げました全体としてのUND OFという軍事組織の一番中枢部分に司令部業務というものがあるわ けですので、したがって、その司令部の一翼を担っている広報なり、 取り分け予算の作成というものは、このUNDOFのいわば軍隊組織 としての活動というものを基本的に支えている、そういう意味合いと いうものを持っているというふうに言ってよろしいかと思いますので これは、先ほど申し上げましたように、UNDOFの組織そのものが ------------------------------------------------------------ 全体として日本のPKO法の三条三号のイ、ロに該当するということ でありますから、形式的に、これがその広報とか予算の作成だからイ、 ロには該当しないという理屈は、到底成り立ちようがないというふう に言わざるを得ないかと思います。 三一 その点で確認しておきますが、この司令部業務については、いわゆる平和協 力業務実施計画においても、 甲第三号証、甲第三〇号証を示す まず甲第三号証を見てください。「ゴラン高原国際平和協力業務実施計画」 ですが、「ゴラン高原国際平和協力業務の実施に関する事項」「国際平和協 力業務の種類及び内容」という部分ですね。 はい。 三二 そこで、いわゆる司令部業務を指しているアですが、「次に掲げる業務であ って、UNDOF司令部において自衛隊の部隊等以外の者が行うもの」とい _____________14________________ う中に(ア)とありますね。ここを見ますと、「国際平和協力法第3条第3号イ からへまで及びタに掲げる業務並びに同号レに掲げる業務」ということで、 明確にイからタまで全部入っていると、こう読んでいいんですか。 はい。そう読まざるを得ないんじゃないんですか。但し、おそらく一 応は、この国側の見解は、これら業務のうち、これらの業務に関する 広報にかかる国際平和協力業務ということなので、これは専ら広報に 限定していると。だから、このイ、ロには該当しないという説明の仕 方をあるいはするのかもしれませんけれども、しかし、これら業務の うちということですから、イからロに掲げる業務の中に広い意味にお いては入っているということを、この国際平和協力業務実施計画その ものが認めているというふうに言ってよろしいかと思います。 三三 甲第三〇号証ですが、同じ実施計画ですが、甲第三号証のほうが平成七年一 二月付けの実施計画なもんですから、先ほど先生のおっしゃった司令部業務 ------------------------------------------------------------ ですが、平成七年二一月時点では、まだ広報だけだったわけですね。 はい。 三四 それが、この甲第三〇号証のゴラン高原国際平和協力業務実施計画の601 ページですが、で、602ページに、司令部業務の中身が、先生が先ほどお っしゃったように広報及び予算の作成となっているわけですね。 はい。 三五 これが変わったのが、このあとですね。 はい。平成八年六月二五日の閣議決定で、これが付け加えられており ます。 甲第四号証を示す 三六 平成八年六月ですから、この実施状況では、まだ広報だけですね。 はい、そうです。 甲第六号証を示す _____________15________________ 三七 平成八年の二一月の実施状況の報告、3ページに「司令部業務の概要」とあ りますが、そこには、広報以外にも予算に関する業務が入っていますね。 はい。それに関連して言いますと、こういう形で実施計画をこれから もおそらくは変更していく可能性があると思います。したがって、当 初は広報だけだったものが、予算の作成というものが加わったと。で、 今後司令部業務の中のいかなる業務が更に追加されるかということは 私は決して予断を許さないと、この二つに今後とも限定されるという ことは、必ずしも断言出来ないんではなかろうかというふうに、私は 考えております。 三八 それから、ゴラン高原に行く自衛隊のもう一つの業務は、いわゆる部隊とし てやる業務、実施計画でいいますと、輸送等の後方支援業務というふうにな っているようですが、この点については、先生の御意見はいかがですか。 基本的な私の認識は、先ほど申し上げたとおりです。で、UNDOF ------------------------------------------------------------ 全体が正に兵力引き離し監視軍として存在しておりますので、その軍 の全体的な兵力引き離しと停戦監視、あるいはそれに必要な巡回警ら といった活動の一環として、輸送等のいわゆる後方支援活動ないしは 兵站活動といったものがなされている。で、その両者を切り離すとい うことは、これは不可能であるというふうに言ってよろしいかと思い ますので、したがって、輸送業務という言葉から、これは、PKO法 の三条三号のイ、ロには該当しないという説明は、これはきわめて形 式的な説明で、実態にそぐわないものだというふうに言ってよろしい かと思います。ついでに申し上げますと、これは、私確認したわけで はありませんので、いずれかの段階において確認していただければと 思いますが、新聞の報道するところでは、実際にこの現地の司令官は 自衛隊の部隊の人たちに対しても、例えば、射撃訓練等々をやらせて いるという報道もありますので、実態は、それが真実かどうか必ずし 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