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ではどういう研究をやったのかということですけれども、概略はご存じと思いますのではしょりまして、歴史的な経過を追っていきますと、三つの分野に分けて研究をしたわけです。 |
周辺事態と日本有事 |
現在の段階ですけれども、ではなぜ森首相、小泉首相が国会での演説で、有事法制の法案化を検討すると意思表示をしたことをもって、内閣官房で作業がスタートしたのか。私はこれまでの手順で言いますと、安全保障会議の議決あるいは閣議の議決がなければ、政府レベルでの有事法制の法案化は、たぶん手続き上できないのではないかと思っていたのですが、実はそうではなかった。つまり、行政改革の一環で内閣総理大臣の権限強化をやったわけです。 内閣法の改正がそれに当たるわけですが、首相の閣議の発議権が明確になりました。内閣官房の総合調整機能が強化されたわけです。ですから、ここで国家システムがひとつ変わっておりまして、首相の意思表示をもって実務レベルでのスタートが可能になるという、そういうメカニズムがここで働いたのではないか。ですから、行政改革というのは、ガイドライン路線とワンセットで動いていると思います。 では、なぜ今年なのか。これは九七年に新ガイドラインに変わった、シフトしたことに起因していと思います。新ガイドラインでは「立法上の措置を義務づけられるものではない」という旧ガイドラインの文章をそのまま置いたんですが、その後ろに新しい一行があるわけです。「しかしながら、具体的な政策や措置に適切な形で反映されることが期待される」という文章を足した。義務づけはないが期待されているからやる、ということです。 もう一つは、新ガイドラインは旧ガイドラインの「極東有事」を「周辺事態」と言い直しまして、強く前面に押し出したものになった。法整備についても、この周辺事態についての法整備を先行させまして、その手当てが終わったので日本有事の法整備に移行した。 時間的なズレは、周辺事態の手当てを先行させたことに関係があると思います。 では周辺事態というもののをどう考えるか。私は普通の言葉に言いなおすと、アジア太平洋地域で戦争が起こる、在日米軍がそれに参戦する、それに対して自衛隊が、武力行使をしない範囲での作戦行動で対米支援をする、自治体、民間も加わる。そういう戦争です。この周辺事態での自衛隊の行動は、個別的自衛権の行使ではないというのが日本政府の見解です。ですから新しい法律が必要になったわけで、そのために周辺事態法を作り、自衛隊法を改正して、あるいはACSAを改正した。周辺事態での自衛隊の作戦行動を、米軍と戦争をしている当事国がどう判断するかということは、日本政府の見解とはまた別個の問題になると思います。 いずれにしても、周辺事態の法的な手だてが終わったので、次の段階の日本有事の有事法制の手だての段階に入ったのが今だということです。政府が「わが国への武力攻撃が発生した場合のものである」と言っているわけですから、日本有事の法的な措置というわけです。この場合は当然、個別的自衛権の発動になります。 新ガイドラインでは、周辺事態と日本有事とを分けて記載しております。周辺事態には相互協力計画で対処する。日本有事には共同作戦計画を作成して対処すると、別個に書いてあります。けれどもちゃんと読むと、二つは別のものではなくて、リンクしてワンセットになっているわけです。具体的に言いますと、新ガイドラインでは、二つのケースを考えている。一つは、周辺事態が日本有事に波及する、そういうシナリオが一つ。もう一つは、周辺事態と日本有事がいっぺんに同時に起こるというシナリオです。したがって新ガイドライン下での戦争というのはアジア太平洋地域での戦争で、そのための法的な措置が必要となっている。 ですから抽象的な意味で日本を守るという法整備ではないのです。なぜ日本に対する武力攻撃が発生するかと言えば、それは日本政府がアジア太平洋地域で米軍の実施する戦争に加担するからです。 なお、防衛庁ではいま平時と戦時のグレーゾーンである領域警備というものについて、法整備が必要だとしていて、自衛隊法の改正を考えております。これは早ければ今度の国会に出るのではないか。それから、防衛白書に記載はありませんけれども、ACSAのもう一回の改正、日本有事にいまのACSAは機能しませんから、有事ACSAへの改正の可能性がある。あるいは、戦時ホストネーション・サポート協定がたぶん必要になってくると思います。これらはまだ防衛庁は言っていませんし、新聞報道もありません。 よく有事法制は日本有事のものではないという人がいるのですが、それは私は正確ではないと思います。日本防衛のための有事法制ではないということが間接的には言えますけれども、防衛庁がいま進めているのが日本有事のためのものではない、個別的自衛権発動のためのものではないというのは、ちょっと無理がある。 例えば、こういう説明をする人がいます。周辺事態法九条では自治体・民間への協力要請に止まっている。それをやらせるためには自衛隊法一〇三条を使わなければならない。だからそのための法整備をやっているんだと言うのですが、これは明らかに事態が違います。周辺事態の場合はあくまでも周辺事態法の九条を適用する。自衛権が発動されれば自衛隊法一〇三条が適用される。そういう形です。ですから、周辺有事が日本有事に波及してくる、あるいは周辺有事と日本有事が同時に起こる、このことを想定することが大事だと思います。 |