2:自衛隊の独自性による障害
こまできてやっと内容が語られた「自衛隊派遣の必要性」ですが、前述のように、NGO団体でまかなえない活動にはとても思えません。
では、自衛隊がほかの官庁の組織やNGO団体とちがうのはなんでしょうか。救援に関してだけならレンジャー部隊もあります。昨年の中越地震で崖に埋まった車から危険を顧みずに小さな命を救った人々の活躍は覚えていらっしゃることと思います。その他、地震国として災害対応の組織やグループも多く、外国の救援に駆けつけているのもご存じだと思います。医療・浄水など民生部門の復興にも前述のペシャワール会を初め、国境なき医師団などの活躍も耳にするところです。世界中の様々な地域で、自己完結で活動しているわけです。では、それでもちがうのはなんでしょう。
まず素材として:武器を持っている
次に、立場です。:外国軍との連携を取れるということ。
このほかにどうしても自衛隊でなければ、ということがあれば教えてください。
つまり、軍隊としての属性以外に独自性はないのです。そして、それこそが自衛隊自身を危険にさらし、イラクの人々を危険に巻き込む原因であるのです。
今年1月25日にNHKで放送された番組があります。『ドキュメント 陸上自衛隊イラク派遣の一年』という52分の番組です。軍隊としての特徴がはっきり現れていたのでご紹介します。
まず、派遣を終えてクゥエートのアメリカ軍基地に帰ってきた隊員たちの様子が写されました。弾薬を返却して、精神療法を受けます。
「コンテナに(砲弾が)貫通したのが怖かった」
「弾が飛んでくる下にいるのがいやだった」
「祝砲を聞いて、撃たれたと思った」
「サマワに入ったとき、イラク人がみんな敵に見えた」
どんな緊張だったのか、想像がつきます。
この部隊は、およそ600人のうち、警備に130人があてられていたそうです。今までのPKO活動では、同じ規模で10人くらいだったのに。
イラクへ行くための訓練では、「手を振りながら、しかしもう片方の手では銃を放すな」と言われたそうです。
出国行事に、全員が銃を持って、というのは、初めてだそうです。
自衛隊としての活動は、人道復興支援とインフォメーションオペレーションと位置づけられました。
これは、情報戦ということです。このために参考にされたのは、旧日本軍の経験でした。中国大陸などでどのように他国の人々を統治したかという資料が自衛隊には保管されています。そこから『北支の治安戦』などの記録を参考に学んだそうです。これは確かに、民間団体ではできない相談です。世論獲得作戦の中には、もちろん日本国民・報道機関も含まれます。
それに協力した米陸軍の連絡将校、トーマス・キャシディ中佐は語ります。
「陸上自衛隊の幹部は、アメリカ軍の情報収集データに自由にアクセスできます」
これで、日本独自の情報と判断で自衛隊を派遣しているといえるのでしょうか。
さらに、訓練の場に出向いた陸上自衛隊幕僚長:森勉氏の
「しっかり射撃をすると、練度(?)が上がるとともに、戦闘員としての本能が蘇ってくると言っていたね」
という問いかけに
第4次派遣部隊の福田部隊長は答えます。
「そうです。もちろん、サマワでの1発の重みは十二分にわかっています」
お二人とも、正直な方なのでしょう。武器を持てば、使いたくなるんです。それは、自然な感情ではないでしょうか。
つまり、武器を持った部隊は軍隊なのです。人道復興支援には大きな障害です。
日本という国が、武力攻撃をしたアメリカ軍と連携しつつ武器を持って乗り込んでくる、それは、軍隊による占領とどうちがうのですか?
『軍事研究』「航空自衛隊C-130の自衛用装備」(2004年3月号87ページ)で、航空ジャーナリストの宮本勲氏は、自衛隊のC-130輸送機部隊についてこう書かれています。
「 一体、イラクでのC-130輸送機部隊の活動には危険があるのか、なのいのか?
実は、こうした問いかけ自体がほとんど意味を持たない。なぜならば、C-130による戦術空輸そのものが危険をともなう活動であるからだ。」
甲第57号証を提出します。
『軍事研究』(2005年1月号別冊118ページ)『猛暑と埃のサマーワ宿営地活動ルポ』です。ご存じと思いますが、この雑誌は基本的に自衛隊の積極的な活動を支援する立場のものです。ここに書かれているイラク人の性格などについては、記録というより、文化の違いに対する理解不足と感じています。それでも、イラクの人々に自力復興する力がない訳ではないことが書かれています。自衛隊が派遣された目的がわかりません。さらに、123ページにはこう書かれています。
「 4月8日に人質事件が発覚すると、イラク人の中のきわめて良好だった親日感情が微妙に変化したのがわかった。バグダッドで取材中、日本人というだけでからかわれ、雇っている運転手には車外に出ないよう懇願されイスラム女性の被り物をすすめられる始末。ここまで感情が変化するのには自衛隊の存在があった。イラク人は『アメリキ(米国)に原爆を落とされ我々と同じような苦しみを味わったヤバーン(日本)が何故アメリキの味方をしてイラクに軍隊を出すんだ。裏切りだ』と思っているのだ。サマーワでは絶大な支持を得ている自衛隊も、実際に接することのない地域では米軍と同じようにみなされている。」
甲第58号証を提出します。『アラビスト外交官の中東回想録』(明石書店:刊)より。
著者の片倉邦雄さんは外務省で長く国連機関やアラブ首長国連邦、イラク、エジプトなどで日本大使を務め、99年に退官、現在は21世紀イスラーム研究会代表幹事などをされている方です。その体験の中には、前の湾岸戦争で多くの日本人を含む民間人がイラク軍の人質となり、その解放に尽力されたこともありました。時には、交戦国であるアメリカの人が、危険な米大使館に近寄れずに日本大使館にかくまわれたこともあったそうです。
また、長い信頼関係から、欧米諸国の石油資本は次々に湾岸諸国の国有化されたのに日本資本のアラビア石油だけはそれを免れていたこと、それも、昨今の(イラク攻撃以前ですが)外交の失策から、危うくなってきたことなども書かれています。
片倉さんは、イラクの人々の抵抗を戦国の一向一揆の人々にたとえます。
「これを一口に『テロ』『悪の根源』と非難したり、世界のグローバル化に取り残された後進地域の挫折現象とみくびたりすることはできない。そうすることは、グロ−バル化の波に自立的発想を溺れさせるだけであり、もっと嘆くべきは、忌むべき暴力の悪循環に対する長期的視野に立った対症療法を見失うからである。」(205ページ)
また、自衛隊派遣について(甲第58号証の4)
「また、『イラクはイスラーム教の国の中で一番民主国家になる可能性が高い』という『ニュー・ブッシュ・ドクトリン』の政策策定社の希望的観測をまる呑みにした観測も多かった。現在起こっていることに焦点を合わせると真に読みの浅さに落胆せざるをえない。」(212ページ)
と書かれています。
また、『外務省人事の死角』(251ページより)(甲第58号証の5)では、現地に通じている有能な人々が重用されず外交の貧困を招いていることが書かれています。
前回引用した猪口さんもこの片倉さんも、政府の立場で働いてこられた方ですが、その現場での誠意ある仕事から、武力では紛争の解決にならないことを充分理解し、語られてきました。
残念ながら、この国の行政の長は、その人々の努力も思いも無にするばかりでなく、自国や他国の人の命を軽んじる政策に突き進んでおります。巻き込まれるのはごめんです。
甲第59号証を提出します。国会議事録サイトより転載しました。
2003年の7月に大阪市立大学の松田竹男教授(国際法律家協会理事)が7月1日の衆院イラク特別委員会で、イラク特措法案についておこなった意見陳述です。
国際法律家協会のホームページよりの転載です。ここで、「武器使用は戦闘行為」として以下のように述べられています。
「 なお、法案第一七条は、自己または自己と共に現場に所在する他の自衛隊員等の生命または身体を防衛するため必要な場合には武器使用ができる旨規定していますが、イラク側の攻撃またはレジスタンスが正当な戦闘行為であるとすれば、これに対する反撃行為を自衛あるいは正当防衛と言うことはできません。それ自身もまた同格の戦闘行為です。火中の栗を拾いにみずから飛び込んできた者には、自衛や正当防衛を口にする資格がないのです。
このように考えてきますと、自衛隊のイラク派遣は、国際法上の合法性を担保されていない軍事行動への参加であり、憲法第九条が禁じる武力の行使に当たると考えられます。イラクの復興支援に協力支援することは必要ですが、それは自衛隊の派遣ではなく、非軍事的な方法で行うことが適切であろうと考えます。」
■アメリカ・イギリスのイラク武力攻撃の違法性
自衛隊派遣の原因となり、また、自衛隊のイラクでの地位を保障している多暫定統治の主体となった両国の戦争政策について検証します。
1:アメリカ・イギリスのイラク武力攻撃は、 侵略である
以下の国連決議に照らして、明らかに侵略であると判断します。
侵略の定義に関する決議
(1974年12月14日国連総会決議3314)
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第一条(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であ って、この定義に述べられているものをいう。
第二条(武力の最初の使用)
国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。
第三条(侵略行為)
次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。
(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵略若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合
(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
(c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖
(d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍若しくは空軍又は船隊若しくは航空隊に関する攻撃
(e) 受入国との合意にもとづきその国の領域内にある軍隊の当該合意において定められている条件に反する使用、又は、当該合意の終了後のかかる領域内における当該軍隊の駐留の継続
(f) 他国の使用に供した領域を、当該他国が第三国に対する侵略行為を行うために使用することを許容する国家の行為
(g) 上記の諸行為い相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与
第四条(前条以外の行為)
前条に列挙された行為は網羅的なものではなく、安全保障理事会は、その他の行為が憲章の規定の下で侵略を構成すると決定することができる。
第五条(侵略の国際責任)
政治的、経済的、軍事的又はその他のいかなる性質の事由も侵略を正当化するものではない。
2 侵略戦争は、国際の平和に対する犯罪である。侵略は、国際責任を生じさせる。
3 侵略の結果もたらせられるいかなる領域の取得又は特殊権益も合法的なものではなく、また合法的なものととし承認されてはならない。
第六条(憲章との関係)
この定義中のいかなる規定も、特に武力の行使が合法的である場合に関する規定を含めて、憲章の範囲をいかなる意味においても拡大し、又は縮小するものと解してはならない。
第七条(自決権)
この定義中のいかなる規定も、特に、第三条は、「国際連合憲章に従った諸国家間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言」に言及されている。その権 利を強制的に奪われている人民の、特に植民地体制、人種差別体制その他の形態の外国支配化の下にあ る人民の、憲章から導かれる自決、自由及び独立の権利を、また国際連合諸原則及び上記の宣言に従いその目的のために闘争し、支援を求め、かつ、これを受け入れるこれらの人民の権 利をいかなる意味においても害するものとするものではない。
第八条(想定の解釈)
上記の諸規定は、その解釈及び適用上、相互に関連するものであり、各規定は、他の規定との関連において解されなければならない。
2:武器を持った米軍人の感覚
今年2月の報道よりご紹介します。
- 「撃つのは楽しみ」 米海兵隊中将が問題発言
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050204-00000037-kyodo-int
【ワシントン3日共同】イラク、アフガニスタンで師団司令官を務めた米海兵隊マティス中将が「(敵を)撃つのは楽しみだった」と公の場で語っていたことが分かり、ハギー海兵隊司令官(大将)は3日、口頭で注意したことを明らかにした。
-後略-
共同通信) - 2月4日「行政府によるイラク戦争関連の合意についての判決」
本日、9月8日水曜日午後の評決により、憲法法廷は3件の違憲の訴えにつき以下のように決定した。訴えは、2003年3月19日にイラク戦争に関して行政府が行った合意に対し、ルイス・ロベルト・サモラ・ボラニョス、弁護士協会、及び護民官の三者によってなされ、憲法と永世・積極的・非武装中立宣言、国連、国際人権規約に違反するとの内容であった。本合意及びそれに付随するいっさいは無効となる。最後に、憲法法廷は行政府に対し、米国政府に対してホワイトハウスのホームページに掲載されている有志連合のリストから我が国の名を削除するための必要手続きをとるべきであることを指示する。
評決はソラーノ・カレーラ判事ら七人の満場一致で行われた。
判決原文は次の通り
憲法、国連、コスタリカが受け入れた国際人権規約に違反するとの結論をもって、二〇〇三年三月一九日に、行政府がイラク戦争及びそれに付随するすべての行為について行った合意を無効とする。米ホワイトハウスのウエブ・ページに掲載されている有志連合のリストに我が国の名が掲載されていることに対し、共和国政府は米政府に対して必要な措置をとれ。この判決は司法報告、政府広報紙「ラ・ガセタ」に掲載せよ。以上、通告する。
国連人権規約について、外務省サイトより転載します。
- 国際人権規約は、世界人権宣言の内容を基礎として、これを条約化したものであり、人権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なものです。社会権規約と自由権規約は、1966年の第21回国連総会において採択され、1976年に発効しました。日本は1979年に批准しました。なお、社会権規約を国際人権A規約、自由権規約を国際人権B規約と呼ぶこともあります。
コスタリカとは裁判の制度がちがうことは承知しております。それでも、法にかなうかどうかの判断はされるべきだと思います。
4:戦争の大儀について
そもそもの原因となった大量破壊兵器疑惑については、すでに偽りであったことが明らかになりました。
甲第60号証と甲第61号証を提出します。この疑惑を振りかざしたアメリカの情報機関の責任を追及する独立調査委員会の最終報告書の発表を受けての報道です。そして、間違った情報を受け取った日本が、独自の情報網も分析能力もなく依存したまま無責任な判断をしたことの責任も問うています。独自の情報による主体的な判断という小泉首相の発言はどう繕うつもりでしうか。
されに、これらのアメリカ政府の行動が単なる間違いであるのかどうか、意図的な情報操作と世界の世論誘導ではなかったのか。国連監視検証査察委員会の委員長であったハンス・ブリクス氏の著書『イラク 大量破壊兵器 査察の真実』から引用します。これは、先に紹介した片倉氏の著書にも引用されている本です。
甲第62号証の1は、この間を通じての動きの概要です。
2で、「キノコ雲が立ちのぼるまで座して待つ必要はない」と主張する、コンドリーザ・ライスアメリカ大統領補佐官に対してブリクス氏はこう語ります。
「戦争を単独で決断したり先制攻撃をする広範な権利を持っていると米国が主張すればどうなるか? 当然ながらほかの国々も同じ権利を主張するはずであ。その結果は明らかだ。武力行使を規制している国連憲章は損なわれて氏編むだろう。」
3では、2003年2月8日に国連のコフィー・アナン事務総長の呼びかけが書かれています。
「自衛のためではなく、国際平和と安全へのより幅広い驚異に対処するために国家が武力行使を決意する場合、国連安全保障理事会によって付与される唯一の正統性に代わるものはない。世界中の国家と国民はこのような正統性および国際的な法の支配に根本的な重要性を認めているのである。」
4では、アメリカの武力攻撃が具体性を帯びる中、査察委員会や各国が平和的解決への努力を続けていたことを描いています。かたくななイラクに譲歩しやすい方策を考えたり、具体的に項目をあげての達成基準作りなどです。それでもアメリカは、武力攻撃支持の国連決議を得ようと各国の切り崩しにかかります。経済援助をちらつかせての脅迫じみた交渉です。
5でも、そのやり方は非難されています。主体的な判断を主張する小泉首相は、これを知らなかったのでしょうか。それとも、ここにあるような何らかの取引があったのでしょうか。結局、支持が得られないとわかってアメリカとイギリスは新決議案を取り下げざるを得なかったのです。提案することさえできなかったのは、否決されるより反対が大きかったと言うことではありませんか。
6では、解決へ向けての希望を託す国々の要望で作業を続ける査察委員会が、攻撃を避けて査察団がイラクから引き揚げたあとでも努力していたことが書かれています。363ページより引用します。
「それでも安保理の多くの理事国は作業計画の提出を望んでいた。間違いなくそれは、安保理自体が規定したしかるべき道理に従って査察活動が今も継続中であり、中断は査察制度そのものの失敗によるものではないことを世界に示したかったからだ。査察活動を中断させた原因は米国と英国による不当な武力行使であると、世界に訴えたかったのである。」
7では、この戦争を始めるのに大量破壊兵器疑惑が、もっともふさわしかったにすぎない事が語られています。
これだけの理由で国を破壊され、家族を殺され、今もゲリラ活動と多国籍軍双方の攻撃にさらされ続ける人々がいます。解決の目処さえ立っていません。
その人殺しに手を貸すことになったこの国の私たちは、この攻撃と自衛隊という武器を持った人々の参加に正統性を全く認めることができません。すぐ引き上げてください。
先に引用した『軍事研究』(2005年月号別冊)でも、『連合軍統治失敗の教訓と自衛隊の国際貢献』(甲第63号証)、『イラクの危険・自衛隊の危険、終わりの見えない治安戦を探る』(甲第64号証)として、占領統治の失敗を語り、今後に危機を募らせています。自衛隊が活躍していれば応援したいという人の目にも失敗と映っているのです。もはや、占領統治の成功をいえる人は誰もいないはずです。そしてそのことは、本当は、武力攻撃の強行からわかっていたはずのことなのです。