憲法代25条の生存権
憲法25条は、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定している。
この規定は、当初単なるプログラム規定であるとする判例・学説があったが、生存権の裁判規範性を積極的に認めた朝日訴訟一審判決(S.35.10.19k行集11-10)を契機として、抽象的権利説や具体的権利説が次第に台頭してきた。具体的権利説をとる山内敏弘教授は、憲法25条の生存権の権利内容を、
- 文字通り人間としての生命ぎりぎりの維持を求める権利、言い換えれば生命権の保障、
- そのような生命の維持を踏まえた上で「最低限の生活を営む権利」の保障、
- そのような権利の保障を踏まえた上で、さらに健康で文化的な生活を営む権利の保障--ここでは、単に物質的な意味での最低限度の生活のみならず、文化的な意味でも精神的な意味でも良好な生活を営む権利の実現が企画されている---
の三つに分け、違憲審査基準についてもそれぞれの意味内容に応じて三様に構成することが可能であるとしている。(山内敏弘「人権・主権・平和」日本評論社78〜80頁)
上記分類による3:健康で文化的な生活を営む権利は、単に生命の維持にとどまらず、文化的・精神的な意味での良好な生活を営む権利であり、たとえば環境権を13条と共に25条に基づき憲法上の権利とする学説は多数存在する。
憲法前文の「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」は、憲法13条と共に25条によって保障される権利といえる。すなわち健康で文化的な生活を営むためには、軍事力によって脅かされたり、防衛費増大によって生活が圧迫されることがあってはならないのであって、憲法25条は平和的生存権の根拠となる規定といえる。
8 平和的生存権の具体的侵害
原告の被害は、第一にテロによる生命の危険にさらされていることである。
小泉首相はアメリカがイラク攻撃を始めるとき、イギリスに続いて真っ先に支持を表明し、米英占領軍に自衛隊を参加させた。占領軍が多国籍軍に名を変えるや、国会はもちろん内閣にさえ諮らずブッシュ大統領に対し自衛隊の多国籍軍参加を約束した。
そのために、日本はテロの標的として名指しされ、スペインのような列車爆破のごとき悲惨な事件がいつどこで起き、多数の死傷者が出るかもしれない危険性が高まっている。
そして現実に、香田証生さんは、小泉首相が自衛隊撤退要求を即座に拒否したために殺された。日本政府がこのような態度をとっている限り、日本国内でも同じ事が起きるだろう。原告及び自衛隊が軍隊として殺すことに荷担してからは、殺されてからは遅い。確実な根拠に基づく不安は、それ自体深刻な被害なのである。
また原告の暮らす熊本県もテロの危険性が具体的に高まっている、熊本港、八代港、三角港に昨年テロからの保安対策との理由で立ち入り制限が設けられた。それは高さ2Mくらいのフェンスとその上に行動を遮断する有刺鉄線が張られた。その前に立つと何となく不安と恐怖を感じるのである。全国の主な湊でテロ対策がとられた。湊の地アックの人々はもちろん原告もフェンスのテロの不安をかき立てられている。またその湊の広場は市民のイベント広場でもあり、市民が魚釣りを知たり、子どもの遊ぶ憩いの場であった。この事は平和的生存権の侵害であり、憲法13条・25条にも違反している。フェンスについての新聞記事、市民の投書、原告の調査報告書、現場の写真等を書証として提出する。(甲1号証〜5号証を添付)
また湊だけではなく、原告が日常通行する道路の側のバイパス工事現場にも「テロ対策警戒実施中」の立て看板がある。原告はその道を通行するたびに、思わず車のハンドルをにぎりしめてしまう。怖いと思うのである。このようにテロの危険は原告の身近になっているのだ。(書証甲6〜7号証添付)
原告は戦争体験のない戦中派である。しかし戦後の生活の中で戦争の悲惨さを知る機会が多かったし、戦争体験者の声をたくさん聞いてきた。そして「日本は新憲法を作ったから戦争はしない国になった。」という大人たちの喜びの声を聞いて育った。戦争によって殺されることもないと信じ、平和憲法に守られて幸福な未来を夢見て少女時代を過ごし、そして結婚して子どもを産み育てて来たのである。戦争体験者の女性たちから聞いた「お国のために」と、子どもを戦争に送り出すという悲しくつらい母親になることはないと信じて子どもを産み育ててきた。国の違憲行為をこのまま許していけば、子どもたちや孫たちの将来に徴兵制がみえる。原告は子どもたちや孫たちを戦争に送り出す日など決してこないと信じてきた。国はその原告の期待を裏切った。このことは期待権の侵害である。
原告に対する人格権侵害
自衛隊のイラク派兵により、原告は自らの人格価値そのものを傷つけられていると共に、生命・身体の自由を脅かされている。
イラク戦争への参加によって、スペインマドリッドでの列車爆破テロをはじめ、国際的なテロの土壌が拡大している。そのため、イラクやその周辺国だけではなく、その他の海外で活動し生活する日本人が、自衛隊派兵国の一員だということでテロの標的にされる可能性が顕著に増大している。また、日本国内でもテロの標的にされる可能性が出てきている。(書証1〜7号証)。すでにアルカイダ系の武装グループは、日本に対してテロの標的にするとの声明を挙げている。まさに自衛隊派兵によって、日本国民全員が、自己の生命・身体の自由を脅かされているのである。
そして、原告の具体的な被害はそれだけにとどまらない。原告は、平和憲法に誇りを持ち、平和憲法の下で教育を受け、平和憲法の価値を体現しようと生きてきた。その意味では、非武装、戦争放棄の平和憲法の精神が自己の人格の核心をなしてきたのである。それにもかかわらず、自衛隊が戦後初めて戦地に派兵されてしまったということで、原告は、まさに、自己の人格を否定されたという強烈な衝撃を受けているのである。この点においても、原告の人格権侵害は著しいのである。
小括
原告が第2章の原告にかかる被害で述べたようにテロへの被害は日常の生活の中で屡々感じるようになった3月は道路工事が集中するが、国道3号線を熊本市内に向かっていたら道路工事中の現場に「テロ警戒実施中」の立て看板が何カ所もあった。3月になると道路工事が多くなることは昨年もあった。しかし、その時にはそんな立て看板はなかった。
また原告の住む○○町の隣の○○地域では、休耕地の田圃で時々熊本の陸上自衛隊第8師団が演習を行っていた。ところが最近はその回数が多くなったと住民は不安を訴えている。その自衛隊がこの秋にはイラクへ派兵されることが決まった。
熊本市民は平成17年3月18日に自衛隊の派兵差し止め訴訟を起こした。
以上からすると、絵gんこくの平和的生存権、人格権を最大限保障するために、また新たな犠牲者を一人として出さないためにも、一日も早い派兵差し止め決定が出されるべきである。
以上