原告陳述書(1)(甲12号証)
2004年11月12日
原 告 杉山百合子
私は、地震が大嫌いです。小さい頃に見た、地割れに人が引き込まれる映画を思い出して、揺れるたびにうちを飛び出したくなります。先日の新潟中越地震でも、いつまでもやまない地震に現地の方々は本当に怖い思いをしていらっしゃると思います。私は、1995年の阪神大震災のときに助け合って被災を少なくした地域の人々に学びました。横浜では、毎年1月に「防災は友だちづくりから」というスローガンを掲げて、当時のボランティアが中心になってイベントを行っています。首都圏直下型・南関東・東海・東南海など複数の地震のおそれを抱える南関東にあって、地震の被害も助け合いによる復興も、人ごとではありません。連帯による備えを自ら作り続ける行動を深く学び続けたいと思っています。
ところで、その4年前の同じ1月に起こされた湾岸戦争のときも、私は最初の攻撃を知ったときに「怖い!」と思いました。本当に、知った瞬間に、怖いと思ったのです。もし、この攻撃に加担している日本に怒りを持った人々がこの国を攻撃してきたら私はどうすればいいのか。当時、子どもたちはまだ小さく、年寄りを3人抱え、自分は下肢障碍で走ることもままなりません。本当に、怖いと思ったのです。アメリカの攻撃に協力する、人殺しの手助けをすると決めた人たちは、良心の呵責どころか、それが、憎まれる行為だという認識さえ、あったのでしょうか。私にとって、イラクに落とされる爆弾一つ、イラクの人を撃つ銃弾一つが、この日本に向けられる憎しみになって返ってくる恐怖におびえていました。
なぜ、こんな恐ろしいことを平気でやれるのか、わかりませんでした。そうして、思ったのです。攻撃する人は、自分が殺される恐怖を感じたことがないのではと。その想像力がないのではと。
攻撃することで利益を得る人、攻撃に加担することで利益の分け前にあずかる人、そういう人が平気で人殺しの手伝いをするのではないかと思いました。そこで私は、人殺しに加担させられた痛みと共に自分の恐怖への代償も求める思いでイラク攻撃への血税拠出撤回を訴えた裁判に参加しましたが、敗訴しました。
ついでに言えば、このときも、アメリカ政府は今回の「大量破壊兵器疑惑」と同じく、嘘の証言を作りあげて世論を戦争へと導いたことは既に実証されています。私たちは、何回、うそつきの人殺しにつきあわされたら済むのでしょうか。もうたくさんです。
いま、イラクにいる自衛隊員のご家族はどんな思いで現地の状況を見守っているのか、政治を担当する方々には、外国の方への想像力が欠如していても、せめて自国の国民のにだけでも思いを届かせていただければこんな事態には至らなかったろうと、残念でなりません。イラクの現状を伝えるメールニュースを証拠として提出します。(甲第13号証)
裁判官の皆様、単純に申し上げます。ブッシュ大統領とそれに従う小泉首相をドラえもんのジャイアンとスネ夫に例える言い方を聞かれたことがあると思います。その場合、私は、スネ夫に小遣いを取られたのび太です。隣町のけんかに横やりを入れるジャイアンにスネ夫がパチンコを買って与えました。その小遣いを提供したのび太である私は、ジャイアンの横暴に加勢したと見られて仕返しを宣告され、おびえる日々を送っています。スネ夫に落ち度はないのでしょうか。しかも、ジャイアンのパチンコでケガをした隣町の子どもたちが、「けんかに加わってもいないのに」と、毎日のようにのび太の学校や家に被害を訴えに来ています。のび太である私は、知らん顔をしていられるでしょうか。その心の痛みを、なかったものと言えるでしょうか。仕返しが正しいとは誰も思いません。でも、隣町の子どもからすれば、ジャイアンにはかなわなくてものび太なら簡単なんです。私だって、その立場に立ったら、のび太の足をけっ飛ばすくらいするかもしれない。そののび太の被害の究極の姿が、今のイスラエルであり、かつて、満州国に取り残された日本人女性や子どもたちだったわけです。武力で平和がもたらされるなら、徹底的に武力攻撃で相手を制圧し、住む権利さえ奪い続けるイスラエルは、相手のことさえ考えなければ世界一平和になっていいはずです。でも、実際はどうなっているでしょうか、イスラエルが平和だと言える人がいるでしょうか?
ドラえもんに助けてもらえないのび太が潔白を証明するには、ジャイアンのパチンコの前に立ちはだかるか、パチンコを取り上げるしかないではありませんか。
私は、この文章を作成するにあたり、先日まで、最後はこのように終わるつもりでした。
「行政の任に当たる皆様は、どうか、手を尽くし、言葉を尽くし、心を尽くして、私たち国民を守ってください。ただ、武力だけは使わないでください。それが、私が願うことです。」と。
けれども、10月末に起きた、イラクでの人質事件に対する小泉首相の対応を見て、少なくとも総理大臣には、それが期待できないことだと理解しました。
誘拐犯に向かって、「犯罪に屈するわけにはいかないから身代金は払わない」と言い放つ親がどこにいるでしょうか。小泉首相のやったことは、それと同じことです。
はじめ、香田さんと間違われて運ばれたイラクの方のご遺体について、私は、官邸・内閣官房・外務省・法務省・防衛庁に「どうぞ自衛隊の方が付き添ってご遺族の元へお返ししてください」と要望しましたがいまだに回答はありません。
さらに、その際の記者会見での谷川秀善外務副大臣の発言には、同じ日本人でいることが恥ずかしくなりました。「遺体はしょっちゅうあるそうですからね」と、副大臣はいわれました。まるで、そこに転がっている石のことでも話すかのように。犠牲になっているイラクの人々やそのご遺族への配慮も、その加害の一端を担っていることの責任感も、人道への配慮も微塵も感じられませんでした。これが、イラクに人道復興支援という名目で国民を派遣している国の副大臣の言葉なのでしょうか。
イラクの現状は、日々悪化しているとしか言えません。各国にいるイスラムの指導者たちが、イラクの人々に「外国の軍隊への徹底抗戦」を呼びかけたそうです。現地で軍隊と見られている自衛隊がその標的からはずされることは考えられません。日本政府の皆さんは、この上、自衛隊員の命も米軍の人質として差し出し、「テロに屈するわけにはいかないから撤退しない」というのでしょうか。たった今も、何人の人が殺されているのか、多分日本政府には調べる手段も調べるお気持ちもないと思いますが。
それでも、裁判に訴えたのは、言葉は通じると思うからです。司法や行政に関わる皆さんにも日々の暮らしがあり、弱者の立場に立つご家族もおありだと思います。力のないものが頼るのは武力ではありません。力のない者同士の連帯しかないのです。その気持ちに想像力を届かせてください。いっしょに、武力を使わない解決へ知恵を絞ってください。
今や、自民党内にも、派遣延長への異議が吹き出しています。11月9日、古賀・加藤・亀井の3氏が小泉首相に延長取りやめを進言したニュースはご存じと思います。古賀氏は、「自衛隊員の安全と国民の安全は一体だ」といわれました。
法律を学ぶ多くの方に基本書の一つとして広く読まれているという憲法の本を教えていただきました。芦部信喜さんという方の書かれた『憲法』という本です。(1999年3月発行 新版 補訂版 岩波書店:刊)その初版はしがきで、憲法を学ぶにあたって心がけることの第二点にこの様に書いてありました。釈迦に説法ですが引用させていただきます。
「第二は、近時憲法の教科書は昔と違って浩瀚(こうかん)となり、憲法の一般理論のほか人権についても統治についても、微に入り細にわたって論じられている場合が少なくないので、細部に目を奪われることもありうるが、それらの問題を考える場合でも、近代憲法の本質や制度の沿革、趣旨ないし目的を骨太に理解し、憲法のバックボーンを踏まえた議論が望まれることが多いことである。そこで、憲法が、国家権力を制限し一定の権能を各国家機関に授権する法、制限し授権することによって人権を保障する法、であるところに本質がある点に思いを至し、そういう観点から憲法の意味やその現代における問題状況を検討し、国家権力の濫用から憲法を擁護するための制度的装置のあり方を探求する心がまえをもつことが、必要になろう。憲法における立憲主義・自由主義・民主主義などの関係を理解することの重要性がよく説かれることには、それなりの理由が十分あると言える。」
この言葉に力を得て、訴訟を続けます。
ひるがえって被告から提出された文章を読むと、ただひたすら、「法律に違反と書いてないから違反じゃない」と言い逃れするだけのように思えて残念でした。「今までの法律では国際貢献できないから」といって、次々と怪しげな法律を作り出したのは今の内閣と国会です。なぜ、自信を持って「これは違反でないだけでなく立派な平和のための政策だ」と受けて立ってくれないのでしょうか。被告は逃げないでください。増して、原告である私の言い分を聞き終わる前に結審を求めるような行為には走らないようお願いいたします。
裁判長、私の求める賠償額1万円について、もちろんこれで被害があがなわれるわけではありませんが、支払われるとすれば、この金額に象徴される政府の謝罪が、私にはどうしても必要なのです。ご理解下さい。
今回は、あえて、一番被害に遭われているイラク現地の方々について詳しくは触れませんが、派遣の違法性を論ずるにあたり、不可欠と思うので、今後陳述する予定です。
法律の勉強などしたことはありませんが、法律に則った解決方法があるものと信じ、また、この国の司法は、私たち国民の権利を守る、実現するその手助けをして下さるものと信じて裁判に臨みます。日本の法律が、人を殺すためではなく人を生かすためにあるのだと信じて一生懸命勉強して立証します。よろしくお願いします。
今後、私はこの損害について訴訟での解決を求めるにあたり、次の順番で述べていく予定です。
- 原因である自衛隊のイラク派遣が違法であることの立証
- そのことによって引き起こされている私の損害
- 今後、予想される危険とそれが現実であることの立証
- 私の損害が法的根拠をもってあがなわれるべき性質のものであることの立証
- 私の損害が法的救済によって回復されることの立証