意 見 陳 述 書
2004年12月10日
東京地方裁判所民事第1部合2係 御中
原 告 小西 誠訴状の趣旨および補足意見を陳述する。
第1 自衛官及びその家族の人権・生命の擁護について
- 私は、本件訴状の冒頭でも述べたように、1964年、航空自衛隊生徒隊(少年自衛官)に入隊し、1968年、同隊を卒業して3等空曹に任官、航空自衛隊佐渡レーダーサイトに配属された。
同隊に配属されていた1969年10月、当時70年安保闘争対策として開始されていた自衛隊の治安出動訓練に反対し、同訓練を拒否するとともに、庁舎内に多数の自衛隊批判のビラ・ステッカーを貼ったとして、懲戒免職にされた。
また、同時に1969年11月、新潟地検は、自衛隊法第64条「政府の活動能率を低下させる怠業および怠業的行為を煽動した」として私を起訴した。同事件の裁判は、1975年新潟地裁で「国側の証明不十分」による無罪判決、1976年東京高裁で「審理不十分」による第1審への差し戻し判決、1981年新潟地裁で「被告人の行為は、言論活動の自由の範囲内である」として無罪判決を下され、検察側が控訴しなかったため、判決は確定した。
前記懲戒処分については、1969年12月、私は防衛庁公正審査会に不服申し立てを行い、ついで1973年、懲戒免職の取り消し―現職復帰を求めて東京地裁に提訴し、同事件は1997年3月、東京地裁で訴えを棄却された。
1969年における一連の行動の中で私が主張してきたのは、自衛隊の治安出動への批判だけではない。私はこの間、旧日本軍と連続して形成されてきた自衛隊において、自衛官の人権が無視・抹殺されている状況を徹底して改善すること、自衛隊内に人権と自由、民主主義を実現すべきことを訴え続けてきた。
これは、1969年に自衛隊から懲戒処分を受けて以降、現在に至るまで一貫した私の主張・行動である。以来30数年、私は自衛官の人権の獲得、自衛隊内への民主主義の実現、あるいは自衛隊の根本的あり方を糺す著作を20数冊刊行してきた。
この一連の主張・行動の一環として、自衛隊のイラク派兵が開始される前の2003年6月、私は、「米兵・自衛官人権ホットライン」を多くの心ある人々とともに発足させ、この団体の事務局長に就いている。
このように、私が長い間自衛官の人権問題に取り組んできたのは、もともと私が自衛隊を「生涯の仕事」として選び入隊したからである。また、自衛隊内には、かつての私の同僚・友人・後輩が多数在隊している。私の一つ上の兄・小西和夫もまた、昨年定年退職するまで航空自衛隊築城基地(福岡県)にて37年間在隊していたのである(準空尉にて退職)。
したがって、命の危険を伴うイラクに派兵される自衛官の生命・人権の問題は、私にとってはもっとも切実な問題である。第2 国会を無視し、国民多数の反対を無視した自衛隊のイラク派兵期間の延長
- 昨日、12月9日、政府はイラク派兵の1年間期限延長を閣議決定した。
私は、政府のこの暴挙を弾劾する。
今秋の臨時国会では、この自衛隊のイラク派兵延長問題について、政府はほとんど審議らしい審議をしなかった。小泉首相の「自衛隊が派遣されている地域が非戦闘地域である」という、子どもじみた主張がなされただけである。
このように国会を無視し、世論を無視して、自衛隊のイラク派兵は、なし崩し的に実際上「無期限」に延長されつつある。
とりわけ、最近の世論調査によれば、朝日新聞・NHKともにイラク派兵延長反対が70%近くにも上っている。このような国民多数の反対を無視して、政府は自衛隊のイラク派兵を強行しているのである。
なぜ国民の多数は、自衛隊のイラク派兵延長、あるいは派兵自体に反対しているのか。
第一に、このアメリカのイラク戦争自体がまったく正義のひとかけらもない戦争だからである。戦争開始―先制攻撃の口実であった大量破壊兵器がイラクになかったことも、すでにアメリカでも証明されている。このアメリカのイラク戦争こそ、まさに人類を再びみたび破壊と殺戮の戦争の惨禍に陥れようとする「前世紀の遺物」としての侵略戦争なのである。
第二に、現実に11月のファルージャ攻撃をはじめ、イラクでは10万人以上のアメリカ軍による大量虐殺が行われており、このアメリカの一方的な虐殺に国民の多くが戦争自体への拒否反応を起こしているからである。
第三に、このアメリカの戦争への日本政府の加担・参戦は、戦後日本の、戦後憲法の平和主義とまったく対立していることを、国民の多くが自覚しているからである。
そして第四に、このような自衛隊のイラク派兵がなし崩し的に続いていけば、自衛官の戦死者が必然的に生じるであろうことを認識しているからである。
現在、自衛隊の駐屯するサマワでは、今年初めの派兵以後、8回にものぽる迫撃砲・ロケット弾などによる砲撃が続いている。サマワに駐屯する自衛隊は、ほとんど毎日のように塹壕生活・コンテナ生活を強いられていることが報道されている。まさに「人道支援」とは名ばかりの、駐屯地への「閉じこもり生活」である。
第二次世界大戦後、世界中で数多くの戦争・紛争があり、例外なくすべての国々が戦死者を出してきた。ところが日本は、大戦後この「軍隊」のひとりの戦死者も出すことがなかったすばらしい「例外国家」「平和国家」である。この貴重な経験、貴重な出来事を今後も維持・継続していくことは、日本のみならず人類にとって大変に重要な意味をもつものである。第3 裁判所への要望 以上のような重要性を裁判所は考慮され、本裁判について、慎重に審理されることを要望する。
- とりわけ、本裁判が自衛隊のイラク派兵の違憲性を問うていることから、本裁判では、このイラク派兵に関する実態審理をぜひとも行っていただくよう強く要望する。
以上