三田村 伸
今回提訴いたしました三田村 伸と申します。まず表明しておきます。私は訴状にも書きましたように、1967年にこの日本国に出生し、そしてごく普通の公立の小・中学校を卒業し、その後私立の高校・大学に進学し、いわゆる平均的な日本国民としての教育を受けてきた者です。特段に優等生であったわけでも、また逆に特に不良であったわけでもない生徒として、そしてごく平均的なサラリーマン家庭の子とし育ちました。
いわゆる学生運動のようなものにも参加したことはなく、かといって特別に「遊び人」であったわけでもなく学校時代を過ごし、卒業後は普通にサラリーマン生活に入った、ごくごく普通の平均的な日本国民であります。
その私が、何故に今回のように国を相手に提訴に踏み切ったか、その理由はは以下に陳述する事情によります。
- 連日伝えられているファルージャへの爆撃や各地での米軍や新生イラク警察へのゲリラ的攻撃を見ても明らかなように、現在なおイラク国内は戦闘状態にあり、この事実は「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」の第二条第3項 「対応措置については、我が国領域及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる次に掲げる地域において実施するものとする。」の文言に明白に違反していること。
現に自衛隊が駐屯しているサマワにおいても、本年4月29日付けの共同通信によれば自衛隊の駐屯地近くに迫撃砲弾が2発着弾する事件が発生しています。更に本年5月11日付けのやはり共同通信によれば、自衛隊と同じく同地に駐屯していたオランダ軍に対して手榴弾による攻撃がなされ1人が死亡、1人が負傷する事件が発生しております。
これを見ても、私のような素人の目から見てもあまりにも明白なほどサマワもまた戦闘地域となっている、と判断せざるを得ないのが現状である。法が想定していた前提条件が崩壊したにもかかわらず、なお自衛隊を駐屯させ続けるのはまさに法の曲解と言うべきであり、行政府がこのように法の解釈も運用も改めようとしない以上、もはやこれを正すには法を司る「司法府」による判断を仰ぐ以外に方法はない、との判断に私は到りました。
日本国は国を運営するために三権分立(法律用語ではぶんりゅうと読みますが)の制度を採用しており、司法は法律の判断を通じて立法・行政の他の2つの権力の暴走を抑え、国民の自由と権利の保護の役目を果たす、と言う内容を私は小学校時代の社会科の授業および中学時代の社会化の公民の授業で教科書と副教材から学んだことを記憶しております。
よって、そうした日本国のその時代時代における平均的な教育を受けた一日本国民として、行政権による法の蹂躙という暴走を食い止める判断をして頂くべく、こうして司法権の発動をお願いすべく提訴した次第です。
このページトップへ
- また、この4月以降、アブグレイブ刑務所その他少なからぬイラク国内の拘禁施設において、米英軍の兵士や管理委託業者らによる収容者への暴行虐待、場合によっては「虐殺」と表現せざるを得ない行為が行われていた事実が次々に発覚したことも、私が本件提訴に踏み切るきっかけとなりました。
これも報道されるところによれば、少なくとも既に6人の米国兵が捕虜虐待の容疑で米軍の軍法会議に訴追されたとのことです。また、これはつい4日前、今月22日付の共同通信によりますと、
【ワシントン22日共同】イラクとアフガニスタンで2001年秋以降、米兵による拘束者への虐待・暴行事件が疑わしいものも合わせて94件に上っていることが分かった。22日の上院軍事委員会で、調査報告を作成している米陸軍のミコラシェク監察官(中将)が明らかにした。
米国防総省は虐待事件数の公表を控えており、具体的な発生件数が出たのは初めて。
これまでの予想よりはるかに多い件数で、組織的な犯行の可能性が一段と強まった。
米陸軍は虐待事件に関する報告書の全容を近く公表する方針。
との報道がなされております。
国際的な人権擁護団体であり国連経済社会理事会の特別協議資格をもつアムネスティ・インターナショナルのニュース・リリース(すなわち報告)によれば、既に昨年の6月にはアブグレイブにおける収容者への虐待は重大な問題として指摘されておりました。
先に申し上げましたとおり、このアブグレイブをはじめとする収容者への暴行・虐待がマスメディアで大きく取り上げられ、米軍も調査二着手するようになったのはようやくこの4月になってからでした。即ち、少なく見積もっても約10ヶ月はこの問題が放置され、改善されなかったことを意味します。
収容者の多くは、逮捕・拘禁された後に何ヶ月も裁判なしに収容されたり、弁護士との接見すら許されなかったことが体験者の証言として出ております。またそれら収容者の中には多くの女性や子供、それに戦闘行為に直接携わったことのない一般市民がいたことも、やはり釈放された人々の体験談として報じられております。
- これを見ても、既に米英軍が主張するところのイラクにおけるフセイン政権という圧制からの解放などという開戦の名目が崩壊したことは明らかであります。裁判にかける、あるいは弁護人との接見を認めるなどの最低限の適正な法的手続すら踏むことなく人々を逮捕・拘禁し、その上軍用犬をけしかけたり、電気ショックを流したり、タバコの火を押し付けるなど様々な暴行を黙認してきたような軍隊には、もはやイラク国民の自由や人権を論ずる資格は無いとの結論に私は達しました。
日本国憲法の基本原理の一つとして基本的人権の尊重があること、また世界的に見ても個々の人間の自由や権利を尊重することが基本原則であり、その原則を具体化すべく1948年に世界人権宣言が、1966年には国連人権規約がそれぞれ国連の場で決議されたことを私は中学時代の社会科公民の授業および高校時代の「現代社会」の授業で教科書やその副教材から学びました。また同じく日本国憲法の前文に「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めてゐる国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ。」という文言があることも同時に習っております。また基本的人権のひとつとして、正当な理由なくして生命身体の自由を侵されない、ということもあることも同じく習っております。
よって、これら基本的人権に関する平均的な教育を受けてきた一日本国民として、日本国憲法の精神に照らしても、また世界人権宣言、国際人権規約その他容易に参照できる国際的な人権に関する様々な条約や基準に照らしても正当化し得ない数々の暴行・虐待を行っている軍隊およびその軍を有する国家(具体的には米英)への日本国およびその自衛隊のこれ以上の追随を食い止める手段として、司法権の判断を期待すべく提訴に踏み切った次第です。
先般送付されてきました国側の答弁書の内容をはじめ、まだまだ多くの述べたい事項もございますが、時間の都合もありますので、とりあえずこの2点を表明して私の第一回の口頭弁論とさせて頂きます。
最後に、小学校・中学校・高等学校と日本国憲法その他自由や人権に関する様々な原理原則や日本国の国家制度についての教育を受け、それを身に着けた一人の日本国民として、なにとぞ司法権がその存在意義を発揮し、行政の暴走を食い止める役割を果たして下さることを期待いたしまして、私の初公判の言葉とさせて頂きます。ご静聴ありがとうございました。
以上