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安保再定義と新ガイドライン
会場 私は、結論から言いますと、日米安保体制というものは90年代半ばに再定義されて中身が変わったという理解をしております。冷戦時代に日米安保体制と言われた中身と、90年代半ばに再定義された日米安保体制は、中身がもう変わったということです。その変わった日米安保体制というものが今度、昨年10月の2+2のペーパーを引き金にしまして、もう1回変わる、再定義される。ですから再々定義ですね。再々定義というものが始まるというふうに捉えております。そういう意味で、ちょっと長いスパンで物事を考えるということです。
 再定義の問題については、もうほとんどの方がご承知だと思いますので細かいことは申しませんが、周辺事態というものをここで決めたということが重要です。冷戦時代の78年のガイドラインでは、日米安保条約の5条事態、つまり日本が攻撃をされた場合どうするかについてのオペレーション・プラン作りをやってまいりました。が、6条事態での基地提供と便宜供与については外務省が所管をするということで処理をされて、政府レベルでは作業が進まないままで終わりました。日米の軍部の間では便宜供与をどうするかということについては協議をやったようでありますが、オフィシャルな政府レベルではできなかった。それが朝鮮での核危機を一つの引き金として、90年代半ばの再定義では、6条事態が正面から新しく周辺事態として打ち出されました。
 5条事態につきましては「武力攻撃事態」ということで整理をされて、6条事態については「周辺事態」という定義がされた。問題なのはこの周辺事態ですが、日本の周辺で戦争が起こって、その戦争にアメリカが参戦している、日本は基地を提供している事態です。97年の新ガイドラインでは、周辺事態では日本の基地を使ってアメリカが戦争をしているというに留まらず、自衛隊がその戦争をしている米軍に対して兵站支援のオペレーションをするということを決めたわけです。

 周辺事態における、戦争中の米軍に対する戦時兵站支援は、安保条約のどこにも規定がないことですね。ですから安保の再定義によって、安保条約には根拠を持たないことをやり始めるようになった、というのが大きな転換です。そういうふうに自衛隊の活動範囲がアジア太平洋地域に広がった。
 また、前のガイドラインでは有事法制については、「立法上の措置は義務づけられるものではない」ということでしたので、法案化を目的とせずに有事法制研究が行われてきました。新ガイドラインでは「立法上の措置を義務づけるものではない」という同じ文章の後に、「しかしながら」そうすることが「期待される」と書かれましたので、立法措置が着手されるようになりました。
 有事法制の立法上の措置は、3段階に分けて進んだわけです。第1段階でまず周辺事態についての立法措置をやりました。99年の周辺事態法から2000年の船舶検査法です。第2段階で武力攻撃事態についての立法措置に入りました。が、その立法作業に入るところでテロが起こったので、ちょっと事態が複雑になりますが、立法措置の整備についてはスケジュールどおり武力攻撃事態についての措置が取られました。武力攻撃事態についての法整備として、最初は基本法的な部分とプログラム法的部分が合体した「武力攻撃事態法」などまとめて3法ですが、そういう基本法的な3法をまず通した。その後、第3段階として、プログラム法部分に書いてあった個別法を、条約を含めて10本通した。こうして有事法制――周辺事態と武力攻撃事態に対処しうる国家システムを3段階に分けて整備をしたわけです。
 周辺事態から始めて武力攻撃事態までの法整備が終わるのが04年ですね。
周辺事態法の限界
 この間に9.11テロが起きましたので、防衛庁はそれまで古いガイドラインのもとで有事法制研究をやっていたのですが、そこには入っていない新しいものが法整備の段階で織り込まれるようになりました。2つあります。1つは、武力攻撃事態法の事態対処専門委員会の新設です。2001年の7月に内閣官房に作業チームを設置して法案化を開始したのですが、すぐ対テロ戦争をブッシュが始めましたので、内閣官房ではこのアメリカの戦争に着手するプロセス、戦争に至るプロセスというものを詳細に検討いたしまして、速やかな意思決定によって日本も戦争が開始できるようなシステムを構築することにした。武力攻撃事態法の中に、事態対処専門委員会というスタッフ組織を入れるという形で、自衛隊法とは別枠、政府としての戦争をするに当たっての意思決定のプロセス、そのやりかたについて、新しい内容を盛り込んだわけです。

 もう一つは、これまでの有事法制研究ではこういうテロというものは想定しておりませんでしたので、武力攻撃事態法のいちばん最後の条項、24条に、いわゆる「小泉条項」と言われるものが作られまして、どのような事態にでも対処できるようにした。これをうけて個別法の国民保護法制の中に「緊急対処事態」という新しい概念が盛り込まれた。これはテロ対処です。ですから武力攻撃事態法につきましては、テロが起こったことによる日本政府にとっての教訓は、取り込まれたものが仕上がった。ずっと前から準備していた有事法制がそのまま成立したのではなくて、バージョンアップして時代に即応するものとして提出され通過、成立したということが言えると思います。
 こうして2004年までの間に、新ガイドラインに基づくところのオペレーション・プランを実行しうる法のシステムというものが全部、整備されることになりました。そこで問題になったのは周辺事態法です。周辺事態法では戦争をしている米軍に対して兵站支援のオペレーションを自衛隊がやる。そのやりかたについて、内閣法制局が、これまでの憲法解釈からすれば日本は集団的自衛権というものは保持しているけれども、その行使は憲法上の制約でなし得ないという立場を崩しませんでした。政府の方もそれは受け入れましたので、周辺事態法ではそのために切り分けをしました。

 アメリカ軍の武力行使と一体化するような兵站支援のやりかたは、集団的自衛権行使になる。一体化しない形での兵站支援のオペレーションは、集団的自衛権の行使に当たらない。こういう腑分けをしたわけです。腑分けをして、なおかつその腑分けの理由として、前線と後方を分けることができて一線が引けると、そして戦闘地域でない後方地域でやれば問題ないとした。前線でやれば問題があるけれども、後方ならいいというふうにしたわけです。ですから周辺事態法では「後方地域支援」となづけられたのです。
 国際常識にも軍事常識にもなじまない法律ができたわけですね。戦闘というものは兵站支援のオペレーションがないと継続できないわけですから、戦争を大きく戦闘場面と兵站場面に切り分けて、なおかつその兵站支援も戦場と後方と切り分けて、その後方のところだけやっていれば集団的自衛権に当たらないという処理をした。しかし米軍と自衛隊の中からは、これではスムーズなオペレーションができないという不満が出たわけですね。したがって、集団的自衛権が行使できるようにしなければならないというのが、ここから噴出してまいります。

 その代表的な声が、2000年に出ましたアーミテージ・ナイ・レポートというものです。これは米大統領選挙戦を前にして、ブッシュが大統領になってもゴアが大統領になっても、共和党が政権を取っても民主党が政権を取っても、対日政策はこれで行くと、知日派の人たち、それから安全保障関係の人たちがコンセンサスでもってレポートを出したわけです。たまさかブッシュが大統領に当選したので、共和党系であったアーミテージさんの名前だけが出てアーミテージ・レポートというふうに言われておりますが、ゴアが大統領になっていればナイ・レポートと言われただろうと思います。この中で、集団的自衛権行使ができるようにしろとという要求が出たわけです。
 時期的にちょうど小泉政権になって、自民党をぶっ潰す改革内閣ということで、非常な高支持率のもと、国会の圧倒的多数を政権党が握る。他方、民主党のほうも原則的には集団的自衛権行使、ないしは改憲については前向きな姿勢を取るに至りました。
 ですから、いま改憲が政治日程にのぼっている、最大の引き金、いろんな要素があるとは思いますが、安保問題から見れば最大の引き金は、この集団的自衛権行使をなしうるシステムに切り替えよという要求です。これは憲法マターですから、どうしても改憲ということにしなければならない、ということになったわけです。
アフガン戦争とイラク戦争
 集団的自衛権行使ができるようにする、そういうふうに日米安保のシステムを変えなければならないという時に、安保再定義をやったときの主要な人物であるカート・キャンベルという人が、「ワシントン・クオータリー」という雑誌に論文を書きました。90年代半ばの安保再定義のときは、官僚が密室でもってやってしまった、今度はそういうことでなしにオープンな形で、財界や言論界や政界を巻き込んだ形で大きな議論を起こして、そうして再々定義をせよと提言を出した。そういう提言が出ていたおりに、テロが起きて、ブッシュ政権が対テロ戦争を始めてしまう。この戦争を小泉首相は支持して、自衛隊の兵站支援のオペレーションを、特措法を2本作って実施するという事態になったわけです。
会場 問題は、アフガニスタン戦争での兵站支援のオペレーションが、集団的自衛権行使に当たるか当たらないかということです。実態的に何をやっているかと言いますと、ペルシャ湾で多国籍軍がアルカーイダを含めたテロ組織が海上から逃亡するのを阻止する、海上阻止行動を行っています。そうした艦船に対して海上自衛隊の給油艦が、燃料と水を供給する。そういう兵站支援のオペレーションをやっているわけです。
 アフガニスタン戦争のときはNATOも支持をしておりまして、兵站支援のオペレーションをやりました。イギリスは戦闘行動に参加しましたが、イギリス以外のNATO軍は兵站支援でアメリカの戦争に協力したわけです。その際NATOは、同じ兵站支援のオペレーションであっても、条約3条の集団的自衛権行使でそれをやったわけです。同じ戦時の同じ性格の兵站支援のオペレーションを、NATOは集団的自衛権行使で堂々とやったのに、日本は集団的自衛権の行使には当たらないと言い続けてやったわけですね。

 このことを国会の中で問い詰められまして、小泉さんは、「法体系の一貫性・明確性を求められると、答弁に窮する」という答弁をしたんです。こんな無責任な話はないと思いますが。とにかく集団的自衛権ではないとは言いはったんですが、本当にロジカルにそれが言えるのかというと、答えに窮する。ですからそういう意味で集団的自衛権の問題について言えば、周辺事態法よりももっとファジーな段階に入っている。
 アメリカは、アフガニスタン戦争での海上自衛隊の兵站支援のオペレーションについては非常に高い評価をしておりまして、「日本は戦後初めて戦争中の戦闘している米軍に対して兵站支援のオペレーションをした」と評価しました。
 次はイラク戦争ですが、イラク戦争でも兵站支援のオペレーションをやっています。だいたい報道はサマーワの陸上自衛隊の方に釘付けになっていますが、いちばん重要なのは航空自衛隊がクウェートに輸送機を派遣しておりまして、クウェートからイラク国内へ、多国籍軍の武装兵員や軍需物資を輸送しています。これも集団的自衛権行使に当たるのではないかということが問題になったわけですが、いや、これはイラク特措法に基づく行動であるということで、集団的自衛権行使の問題についてはまたまたさらにファジーな段階に入ることになりました。

 そういう意味で、集団的自衛権行使がはっきりできるようなシステムに切り替える手前のところで、つまり安保再々定義をしようという議論が始まろうとした段階で、日本政府としては実践的に再々定義に着手してしまった。これまではペーパーを作ってそれを実行するというやりかたをずっと取ってきたわけですが、今回はペーパーができる前に、ペーパーに書いてないことを先取り的に実行してしまうということが起こったのです。ですからテロ特措法、イラク特措法にもとづく自衛隊の作戦行動については現行のガイドラインには記述されていないことを、それを超えて実施することとなったわけです。
 このような経過を経て2+2があり、今回の「日米同盟 未来のための変革と再編」という文書ができたわけです。そういうマクロの視点でこのペーパーの持っている意味を考える必要があります。以下、文書に即して分析していきます。
グローバル事態への共同対処
 日本のマスメディアでは「中間報告」と言っておりますが、これは政府と新聞が中間報告と言っているだけで、アメリカは中間報告とは言っておりませんし、オリジナルのペーパーを見ると和文・英文とも中間報告という言葉はありません。「日米同盟:未来のための変革と再編」というタイトルの「変革」にはトランスフォーメーションという英語が使用されております。「再編」は「リアラインメント」ですね。
 この文書は3部構成です。氓ェ「概観」、が「役割・任務・能力」、。が「兵力態勢の再編」ということで、いわゆる米軍再編、基地問題はこの。の部分、分量でいうと約半分強ですね。半分弱の前半の氓ニのところはほとんど報道されないが、。の報道は大量に流される事態がいま起こっているわけです。私はいまお話しした文脈で、この氓ニのところが重要だと思って解析をしました。この文書は日米安保再々定義、実践的に始まった再々定義の中身を追認すると同時に、その方向にそって新しい内容を盛り込んでいるということがいえます。
 全体として見てみますと、この文書は現行の97年のガイドラインの中身を深めた部分、つまり武力攻撃事態と周辺事態についての内容を深めた部分と、それから現行ガイドラインには書いてない、まったく新しく踏み出した部分、つまりグローバルな日米共同作戦についての内容、これが併存しているわけです。
 グローバルということの説明のために周辺事態に戻りますが、再定義の段階ではグローバルな中身はPKOだけだったのですね。周辺事態の外側はグローバルですが、グローバルな中身はPKOだけだった。ところがアフガニスタン戦争、イラク戦争に参戦した自衛隊は、周辺地域を越えて中東へ行ったわけですから、グローバルな展開になった。新しい防衛計画の大綱のひとつの特徴は、これからは自衛隊の主要な任務として国際平和協力活動を主要な任務とする、つまりグローバルな役割を日本も果たすということを打ち出したことです。
 この文書もそういうふうになっております。例えばの「役割・任務・能力」のところに「1 重点分野」がありますが、2つの重点分野を決めて作業をした。ひとつは「日本の防衛および周辺事態への対応(新たな脅威や多様な事態への対応を含む)」、つまりここでは武力攻撃事態と周辺事態を一括りにしたわけです。もうひとつ、「国際平和協力活動への参加をはじめとする国際的な安全保障環境の改善のための取組」、これはグローバル任務、海外展開任務です。ですから、グローバルに何をするかということを大きな柱、2本柱のひとつに据えるということを始めたわけです。

 氈u概観」のところで、いちばん始めの書き出しの文章が問題なわけですが、「日米安全保障体制を中核とする日米同盟」という規定があります。この「体制」というのは、普通はイメージとしてはシステムですが、英文を見ますと「アレンジメンツ」という複数形になっています。アレンジメントは取決ですね。複数なら諸取決。ですから、日米同盟と言っているのは安保条約だけではないですよと言っているわけです。諸取決とは何かと言いますと、先の再定義のところで作った文書、ACSA(協定)、日米安保共同宣言、新ガイドラインといった文書です。これは安保条約からはみ出した文書ですが、こういうもので諸取決は成り立っている。今度の2+2の文書もまたグローバルな事態に対処するという新方針を出したわけですから、アレンジメンツの一つに入ります。
 ですから日本政府はぼやかしていますが、アメリカははっきりと、もはや日米同盟は日米安保条約のみによって成り立っていないという認識を持っている。本質的には日本の政府の側もそういう認識に立っている。ですから小泉さんもアフガニスタン戦争やイラク戦争に参戦するに当たっては、「安保体制に基づいて」とは言わないで、「日米同盟に基づいて」と言うようになっている。つまり日米同盟というふうに表現する以外にない、そういう中身の安保体制に切り替わっているということです。
最近の成果と発展
の冒頭に、前文としてこの間の進展が列挙されております。「最近の成果と発展」があったことを「認識」した上で次のことを考えましょうという文脈ですが、ここで挙がっているのは、「国際的活動における2国間協力」がこんなに進みましたということです。
 この文章の内容を表にしてみました。
●国際活動における二国間協力
  • テロとの闘い
  • 拡散に対する安全保障構想(PSI)
  • イラクへの支援
  • インド洋における津波や東南アジアにおける地震後の災害支援
●自衛隊
●米軍
  • 防衛計画の大綱
  • 有事法制
  • 統合運用体制(posture>)への移行計画
  • 変革(transformation)
    世界的な態勢の見直し(GPR)
ミサイル防衛における協力の進展

 中身を見てみますと、まず「テロとの闘い、拡散に対する安全保障交渉(PSI)」、これは国連の枠組みではなくて、ブッシュ大統領が提案した有志連合によるものですが、大量破壊兵器の拡散を防ぐために海上封鎖、航空封鎖をやろうという構想で、すでに演習が始まっております。最初、日本は海上自衛隊ではなくて海上保安庁が参加して、いまでは海上自衛隊が参加をしています。それからイラクの戦争が始まったので、それへの支援をやる。それから直近のインド洋大津波ですね、あそこで米軍を中心にして多国籍軍が人道支援をやりましたので、これは大きな進展であるとしています。

 それから自衛隊のほうについてこの間の何が進展かと言いますと、さっき申し上げました新しい防衛計画の大綱ですね。国際平和協力活動、グローバルな活動を自衛隊の主要な任務にすることを打ち出した。これがたいへん高く評価されると同時に、有事法制、これは周辺事態法と武力攻撃事態法の両方を含んでおります。それから「統合運用体制への移行計画」、これは今年の3月27日から移行になりました。この統合運用体制というのは、軍改革の主要な目玉のひとつでして、これまでの自衛隊の史上初めて統合運用をする、一人の統幕長のもとで陸海空すべてのオペレーションを行うという体制に切り替えるというものです。これは現に統合運用体制となっているアメリカ軍との共同作戦を円滑に実施するためのものです。これまで自衛隊はなっていなかったので、それを切り替えるということを防衛計画の大綱で決めまして、その体制へいまシフトしております。
 米軍のほうでの進展は何かというと、軍のトランスフォーメーションが進んで、グローバル・ポスチャー・レビューが進んでいる。いちばん最初に申し上げたようなことが最近の成果として挙げられているわけです。
 両国にまたがっているものとしては、「弾道ミサイル防衛における協力の進展」、これを高く評価しています。防衛庁のサイドではこの弾道ミサイル防衛について、日本が初めてアメリカの本土防衛にコミットできるミッションだということで評価を与えている。つまり安保体制が新しい段階に入るという位置付けをしております。

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