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グローバルな展開のために
 こういう進展があったのを踏まえて、今後やるべきこととして、「2 役割・任務・能力についての基本的考え方」が書かれています。
 最初に武力攻撃事態と周辺事態のことが書いてありまして、以後6項目にわたってこれまでのこと、これから深めることが書いてある。7項目目に「地域および世界における戦略目標を達成するため」という文章があって、「国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は、同盟の重要な要素となった」と日本語では過去形で書いております。英文ではハズ・ビカム(現在完了形)ですから、この文書によってそうなったということです。つまり周辺事態や武力攻撃事態を超えてグローバルな安全保障環境を改善することが二国間協力の重要な中身となる。グローバル事態に対しても共同対処をするということが、この文書によってそうなるというふうに書いてあるわけです。そのために、「この目的のため、日本及び米国は、それぞれの能力に基づいて適切な貢献を行うとともに、実効的な態勢を確立するために必要な措置をとる」というふうに決められたわけです。

 グローバルな任務のために必要な措置とは何かと言いますと、ひとつは法整備があります。現行の自衛隊法3条では自衛隊は日本への直接侵略・間接侵略に対して対処する、つまり日本の防衛が本来任務とされていまして、その他の任務は周辺事態を含めてみんな自衛隊法では雑則や付則で処理されており、それらは付随的任務とされています。特措法2つは付則の扱いで、付随的な任務です。本来任務にさしつかえのない限りでやればいいという位置付けになっている。それを変えて、海外展開任務を本来任務に格上げして、位置付けることが必要になってくる。
 それから、これまで自衛隊を海外に出すのはPKO法や国際救助援助隊法、周辺事態法が次々に作られ、さらにテロ特措法、イラク特措法を継ぎ足すというような形でやってきたわけですけれども、これからグローバルな展開任務をずっとやっていくというときに、そういう、これまでのような特措法の継ぎ足し、継ぎ足しではやってはならないと。海外展開をするための海外派兵恒久法あるいは一般法というふうに言っていますが、これの制定が必要になってくる。これらが法整備です。
 自衛隊の体制としては、海外展開任務を実行するための部隊編成が必要になってくる。「中央即応集団」を新たに編成しますが、これは海外展開任務の企画・立案、実施を一元的に行う部隊です。それから、これまでの地上戦や海上の戦闘とは違う海外での任務になるわけですから、そのための訓練というものをしなければならないわけで、その教育体系の整備が始まっている。主要な基地・演習場には鉄筋コンクリートの都市型訓練の設備ができておりますし、主な駐屯地にはもう都市型訓練の施設ができております。海外での治安維持、対ゲリラ対処ですね、近接戦闘の訓練をこれまでやっておりませんでしたので、やらなくてはならない。
 それから待機態勢ですが、外へ出すためにはこれまでは国際緊急援助隊のための待機態勢を取っていまして、ごく少数でした。すぐ出られるように整備・装備を準備しておくと同時に、人間については予防注射など打っておかなくてはなりませんので、すぐパッと出すためには待機態勢を取らなければならない。これを朝日新聞の報道ですが、一挙に5方面隊、2600人の規模にする。ですからいつでも海外に2600人を出せる、それだけのキャパシティを持たせることになります。
 兵器・装備につきましても、海外に展開するに当たっては、輸送するために大型輸送機や大型輸送艦・護衛艦が必要になりますし、海外での戦闘のための特殊な装備・兵器が必要になる。これかはそういうものの調達を進めていくわけです。

 ですから、そういう必要な措置を取るということが、この文書によって日本側には義務づけられるということになったわけであります。
 さらに「国際的な安全保障環境を改善することの重要性が増していることにより、双方がそれぞれの防衛力を向上し、かつ技術革新の成果を最大限に活用することが求められていることを強調した」という一文が入っております。これは何かと言いますと、アメリカが進めているフォース・トランスフォーメーション、この技術革新、情報技術を取り入れて、21世紀型の軍隊に自衛隊もしなさいと、米軍がやっておりますから自衛隊もしなさいと、このことが強調されているわけであります。
グローバル事態でのオペレーション
 「3 二国間の安全保障・防衛協力において向上すべき活動の例」では、グローバル事態で自衛隊が何をやるべきかが決められたわけです。15項目、ずらっと並んでいます。「防空」から始まって「港湾・空港、道路、水域・空域及び周波数帯の使用」まで。この並んでいる意味を私が解析したのが別表です。ナショナルというのは武力攻撃事態でやること。リージョナルというのは周辺事態でやること。いちばん右のグローバルというのは、今回新しく付け加わった部分です。これまではリージョナルなところで止まっていたわけですが、今回グローバルな任務というものが付加された。このグローバルの中には、すでにやっている既成事実を書いたものと、まだやってないけれどもやるべきものを書いたものとがあります。一つずつ見ていきます。

表_2 二国間の安全保障・防衛協力において向上すべき活動(operations)の例

協力を向上させることが重要な個別分野

national

regional

global

防空

 

 

弾道ミサイル防衛

 

 

拡散に対する安全保障構想(PSI)といった拡散阻止活動

 

テロ対策

機雷掃海、海上阻止行動、その他の活動

 (海上交通の安全を維持するための・・・)

捜索・救難活動

情報、監視、偵察(ISR)活動
 (無人機(UAV)や哨戒機により
 活動の能力と実効性を増大することを含めた)

人道支援活動

 

復興支援活動

 

平和維持活動 及び
平和維持のための他国の取組
(efforts)の能力構築(capability building)

 

重要インフラの警護
(在日米軍施設・区域を含む)

 

大量破壊兵器への攻撃への対応
(大量破壊兵器の廃棄、除洗を含む)

 

 

相互の後方支援活動(補給、整備、輸送)

  • 補給協力=空中給油、洋上給油を
    相互に行うことを含む
  • 輸送協力=航空輸送(airlift)、
    海上輸送(sealift)を共に行うことを含む>
  • 高速輸送艦(HSV)の能力によるものを含む

非戦闘員退避活動(NEO)のための輸送

施設の利用
医療支援
その他関連する活動

港湾・空港、道路、水域・海域 及び
 周波数帯の使用

  

 
 最初の「拡散に対する安全保障構想、拡散阻止活動」は、もうこれは演習・訓練でやっております。
「テロ対策」もやっております。
「機雷掃海、海上阻止行動」も、グローバルな事態で自衛隊がやるようになる。
「捜索・救難活動」とは、戦闘機が墜落した場合にパイロットを救出する、そういう活動ですが、これはイラク特措法にすでに書き込まれております。ただこれまではチャンスがなかったので実績としては上がっておりません。
「情報・監視・偵察活動」、無人機や哨戒機によるもの。こういう情報活動も当然、グローバル事態ではやる。すでにペルシャ湾に海上自衛隊が鑑艦艇を出したときに、アメリカ側からの要求として哨戒機を出してくれと打診をされておりました。無人機はいま自衛隊は持っていないし、持つ計画もなかったのですけれども、導入することを計画し始めました。
「人道支援活動」はすでにやっております。
「復興支援活動」ですが、サマーワから自衛隊が撤退をした後、いまNATOを含めてやっている復興支援活動、アメリカはこれに自衛隊の将校何人かを派遣して参加してくれと打診しておりますので、当然やることになるでしょう。
「平和維持活動」、これはPKOですので、すでにやっている。
「平和維持のための他国の取組の能力構築」が何かと言いますと、アフガニスタン・イラクでは国軍の再建をやっております。警察の再建もやっております。自衛隊がその協力をするということだろうと思います。
「相互の後方支援活動」ですが、これは海上の給油についてはもうやっておりますので、空中給油が付け加わる。航空輸送は、航空自衛隊がいま米軍の基地の間のエアリフトを肩代わりしてやっております。海上輸送もやります。高速輸送艦も買うことにしております。こういう兵站支援のオペレーションをやる。
「非戦闘員の退避活動のための輸送」ですが、これは周辺事態でもやることになっておりますが、じつはサマーワからマスコミの人たちをすでにこの活動でもって救出しております。実績がありますので、今後もやる。

 ということで、15項目が現在挙がっているわけですが、グローバル事態では今挙げたような10項目をやることを決めたわけです。
 大事なことの一つは、これは戦時にやるということと、主要な戦闘が終わった後にやることとが区分けをされて、それぞれについてやることと、また双方にまたがってするものもあるということです。もう一つは、「可能な協力分野を包括的に列挙することを意図したものではない」とわざわざ記述されていることから、この意味はこれから追加する活動があり得るということです。このペーパーを作った段階では、グローバルなミッションとしてはこれだけのことをやりましょうと合意をしたということです。
 皆さんが関心があるのは治安維持の活動だと思います。対ゲリラ対処が入っていないということです。2+2の合意の後に開かれた日米の防衛首脳協議のなかで、ラムズフェルド国防長官が額賀防衛庁長官に対して「治安維持活動もやってくれ」というふうに言ったと報道されています。額賀防衛庁長官は即座に「ノー」と答えたというのが当時の報道でしたが、共同通信の後追いの報道ですと、そう単純な断りかたではなかったということになっております。当然今後、治安維持任務、対ゲリラ戦闘が追加で入ってくる可能性が高いと思います。これは日本国内の世論、それから戦況の状況によって決まるのではないかと思います。
情報で日本を御するアメリカ
 時間をオーバーしていますが、グローバルなものに関係するところで、もう一つだけ付け加えさせていただきますと、情報の問題があります。これは「4 二国間の安全保障・防衛協力の態勢を強化するための不可欠な措置」というところです。「情報共有及び情報協力の向上」とあります。日本語では2つとも「情報」となっておりますが、共有する、シェアするほうの情報は「インフォメーション」です。これは生の情報ですね。情報素材のことです。協力するほうは「インテリジェンス」という言葉が当たっておりまして、生の情報を加工して分析した情報です。
 この条項は、日米の間で情報共有を強化するというふうにしていますが、生情報は共有するけれども、分析した情報ということではアメリカは日本に選択的に供与する。アメリカは冷戦時代には「核の傘」で同盟国を縛ってきました。ジョセフ・ナイ氏(元米国防次官補)が言い出したことですが、冷戦後の時代は核の傘で縛るのではなくて、情報の傘で縛るというのがアメリカの戦略です。日本とアメリカの情報能力の格差は著しいものです。情報を握る者が支配するのが軍事の世界では自然な流れですから、情報を握ることによって日本を御するということをアメリカは考えているわけです。

 日本側としてもそのことについては、戦略情報もこれからはもらえるようになるので喜んでいますが、バイアスのかかった情報が流れてくる可能性がある。つまりアメリカに協調することが日本にとって有利だというふうに誘導する情報が流されてくる。そういう意味での情報支配が進みます。
 他方、「共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置をとる」ことが新しく決められております。必要な追加的措置とは何かと言いますと、一般的意味で言えば機密保護法というものになります。現在浮上しているのは、GSOMIA(ジーソミア)、一般的な軍事情報の保全にかかわる協定を結ぶということです。これは元防衛庁長官の久間章生氏が中心になってやっています。

 GSOMIAの中身については、私はアメリカン・センターに問い合わせをしたのですが、すべて「秘」の協定である、「モデル協定もどこかの国の協定もお示しすることはできない」ということでした。ただ、「一つの例として、アメリカの情報公開法を使ってイギリス人が、イギリスとアメリカのGSOMIAを取ったという記事があるので、あなたも取ったらいかがですか」と言われたのですが、まだそこまではやっておりません。
 このGSOMIAは一般的・包括的な形で秘密保護の網をかけるのではなくて、アメリカと同じ情報の管理をする、洩れを防ぐという性質のものでして、情報を扱う人間についての縛りをかけるものです。その縛りのかけかたをアメリカと同じにするということですから、日本の軍人・官僚、関係する防衛産業の人たちに網がかかる。一般の国民には網はかからないのですが、この協定の締結とそのための国内的措置をとった後、その次の段階としては秘密保護法へ進むのだろうと思います。
同盟の変革
 このように、今回の2+2の文章は、日米安保再々定義をやろうと言っているときに、実践的に始めてしまったアフガニスタン戦争・イラク戦争での実績を既成事実として追認し、なおかつそれに加えていくつかの項目を足して、グローバルな事態での日米の共同作戦をやろうと、そういうところに足を踏み出したということが言えるのではないかと思います。
 ですから、再々定義の着地点はやはり改憲、集団的自衛権行使のできるシステムに切り替えるのが着地点ですので、そこに向かっての出発点ということになります。そういう集団的自衛権行使をどういうところでどういうふうに使うのかというのが、この文書の中身で、周辺事態を超えてグローバルな事態に対処するため、という内容が盛り込まれている。
 そういう意味で日米同盟というものの中身がここで梶を切って変わり始めたのです。今度の再編を、アメリカのローレスという担当者は「アライアンス・トランスフォーメーション」と言っています。「同盟の変革」、同盟を変える。私はそれは正しい認識だと思います。そういう意味で、基地問題を一つの引き金にして日米同盟を切り替えていく、新しい段階に引き上げていくという、そういう作業が始まったのです。
 基地の再編については、この5月の連休の間に最終報告が出ますが、それを6年ないし8年かけて実施するということになるわけですね。改憲もやはりそれぐらいのスパンでもって動くでしょうから、この同盟再編のプロセスと改憲のプロセス、それから基地再編のプロセスが同時進行で進む、そういう事態がこれから進む。そういう意味で基地再編の問題も、やはり同盟の問題、憲法の問題と密接不可分な問題としてあるということを指摘して、報告とさせていただきます。

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