東京の七生養護学校に対する性教育バッシングと教職員への不当処分に対して
東京弁護士会が都教委に対して「警告書」を発しました。
「日の丸・君が代」強制反対ホットライン大阪より転載します。


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第4 七生養護学校の性教育について
1 性教育の必要性について

(1)

 性に関する問題は人間の根源に関わる問題であり、性に関する基本的事項は科学的に正しく教える必要がある。現在マスメディアによる性に関する情報の氾濫、インターネット等による性情報への接近の容易性、価値観の多様化等から、性行動、性体験の低年齢化が進んでいるうえ、HIVC等性感染症も広がりをみせている。児童生徒が心身ともに健やかに成長することや生命の大切さを認識することは重要かつ緊急の課題となっており、学校、家庭、職場、地域等さまざまな場面で性教育が必要となっている。

(2)

 知的障害者については、男女のからだの仕組みや体の発達の相違を理解することが不十分であったり困難であったりする。身体の変化を素直に受け止めることができず、パニックをおこす児童生徒も少なくない。また自己の性に関する悩みや不安を的確に表現することができない場合も多い。そのため、知的障害者に対しては、教材等を工夫し、具体的でわかりやすい性教育が求められている。また、知的障害者が性の被害者になったり、場合によっては性の加害者になることがありうる。性被害と加害の防止という観点からも性教育が必要である。

(3)

 西欧諸国では早くから性教育の必要性と重要性が指摘されており、例えばスウェーデンでは、1955年に性教育の義務化が実施され、1975年からは人間関係の教育という名称で、具体的実践的な性教育の取組がなされるようになった。またオランダでは、幼児の段階からわかりやすい絵や人形を用いて、科学的な性教育が行われてきた。

2 性教育に関する政策経過(七生養護学校問題発生前)

(1)

 1947年6月、純潔教育の実施について文部省(当時・以下同様)から通達が出され、「純潔教育委員会」が設置された。ここにいう「純潔教育」は「性教育」と同義と考えて特にさしつかえはない。時は終戦直後の混乱期であったが、そのような中文部省は「純潔教育」の重要性を認め、文部省独自の構想としてそのありかたの研究に取り掛かっていたといえる。

(2)

 1955年5月、純潔教育分科審議会は「純潔教育の進め方(試案)」の中で、その意義・目標等につき「純潔教育の進め方(試案)の編成について」を発表した。
 そこでは、従来純潔教育に対する危倶として、

  1. 従来完全にタブーとしてきた内容を取り上げることはまさに眠れる子を起こすもので、逆に性的無秩序に拍車をかけるのではないか、
  2. 性に関しては自然のうちに認識し経験をつんで各人の心構えができてゆくのであるから、放っておいても良い、むしろ環境改善に力を入れるべきである、

という2つの意見があることを紹介していた。
 そのうえでこの意見に対して、1の危惧については「今日の環境から、ゆがめられた形で植えつけられるまま放置するよりは、むしろ積極的に正しい教育を考え、実施することこそ最善の策であることを確信」すると反論し、2の危倶については「いわゆる大衆の声として成人男子の問から聞かされる例が多いが、これは、昔と今日の時代の相違を無視し、昔ながらの習俗的な意識から一歩も出ない、はなはだ危険な考え方というべきであります」と反論している。

(3)

 1986年3月文部省「『生徒指導における性に関する指導』について」が刊行された。
 ここでは以下のように述べられている。「学校における性に関する指導には、学習指導要領に基づき各教科、道徳、特別活動において行われる面とその基盤作りや補完としての生徒指導として行われる面があり、この両面から学校の教育活動全体を通じて行われなければならない。」「現在、学校における性に関する指導は、生徒の発達段階に応じ、保健体育、道徳、学級指導、ホームルームなどを中心に行われているが、初めに述べたような状況(性的成熟が早まり、その一方で生徒の健全な発達をゆがめるような性的情報が社会中に存在していること)の中で、性に関する科学的知識を与えるとともに、人間尊重の精神に基づいて生徒が健全な異性観を持ち、これに基づいた望ましい行動を取れるようにすることなどを重点に、地域や学校に実態に応じて、生徒指導における性に関する指導を体系的にかつ組織的に展開することが求められている。文部省では、このような考え方に立って、「生徒指導における性に関する指導」を作成したものである。」

(4)

 東京都においては、1985年から1988年にかけて、都教委から「性教育の手引き第1集〜第4集」(基礎編、幼稚園・小学校編、中学校・高等学校・養護学校編、総合編)が刊行され、また、1989年から1992年にかけては、都教委により小学校低学年から高等学校までに対応した「性教育教材ビデオ」が製作されていた。
 その他の自治体も、たとえば1990年3月、埼玉県教委が「性に関する指導の手引」を作成している。その第1章総論部分では、性が果たしている役割の重要性を認識し、性に関する指導は生涯教育、人間のライフサークルにあわせて、学校、家庭、地域社会の三者一体となって行うべきであると明確に述べている(2〜3真)。
 また、第2章美践編では、小学校における性に関する指導として、わたしのからだ(1年)と題する部分で、「成長には個人差があることを理解させる。男女の性別はそれぞれがもっている性器で決定されることを知らせるとともに性器の大切さを理解させることや自分の体を大切にする態度や、自分と同じように友達を大切にする態度を育てること」が指摘されている(47頁〜49貢〉。
 なお、障害をもった児童生徒に関しては、学校差が大きく、個人差もあるので、「性に関する指導一般論の目標を掲げたが、学校によって児童生徒の実態から内容を選択作成してほしい」としている(188貢)。

(5)

 1990年度及び1992年度には、都教委により「東京都性教育推進校報告書」が作成され、1993年度にも「性教育推進委員会報告書」が作成され、性教育に関する積極的検討が進められていた。

(6)

 これらを受けて、1995年3月、都教委は「性教育の手引(小学校編)」を作成し、その基礎編で性教育の基本的な考え方を述べた。その見解は学習指導要領をふまえたものと理解されている。
 上記手引きでは、平成6年3月都教委作成の性教育推進委員会報告書「東京都の性教育推進のために」の中の統計を引用し、「学校における性教育の必要性を意識する教員一約90パーセント、性教育の実践状況一小学校87・6パーセント、中学校54・6パーセント、学校として指導計画を作成している一18・2パーセント」であることを前提に、学校としての組織的な取組は必ずしも十分でないとしたうえ、「学校における性教育の推進のためには、教員の性教育に関する考え方の共通理解を図るとともに、学校として組織的、計画的な実践を進める必要性がある」と強調している(3頁)。さらに、「学校は児童生徒が社会や文化の変化に自ら対応していくために必要とする性に関する学習課題や保護者や国民が学校に期待する性教育の内容を計画的、継続的に行う必要がある」と言い切っている(12貢)。
 上記手引きの小学校編では、性教育の授業の実際(実践事例)が記載されている。
 「第1学年の学級活動 男の子・女の子」と題する部分では、「性器は体の器官のひとつであり、大切な働きをしていることに気づき、性器を大切にする心情や態度を身につける。男女の性器は赤ちやんをつくるしくみが備わっている大切な器官であることに気づかせる。男女にはそれぞれ体に特徴があるが、人間として同じように大切であることがわかり、自己の性を大切にし、男女の別なく仲良くしようとする態度を身につける」と明記されている(60頁)。
 1996年3月には、東京都教育委員会から「性教育の手引き(中学校編)(高等学校編)」も発行された。

(7)

 1997年3月、都教委は「性教育の手引き(盲学校、聾学校、養護学校編)」を作成し、養護学校(知的発達障害)における性教育の必要性と実施について述べている。当然のことながら、ここで示された見解も学習指導要額をふまえたものであった。上記手引きの盲・ろう・養護学校編と題する部分では、知的障害者がおかれている状況をふまえ、「知的発達に障害がある場合、男女の体の仕組や心身の発達による個人の違いを正しく理解することが困難なことがある。自他の性を認識することが難しい場合もある障害のある児童生徒が性について、強く興味を示しているのではないかと誤解されたり、性的に被害者になることがある。性被害と加害の防止の視点から指導が必要になる」と指摘している(57〜58貢)。
 上記手引きの養護学校(知的発達障害)における性教育と超する部分では、「身辺処理等を自分で行うことが困難であったり、自ら進んで、取り組める状況が不十分なため、自分らしさを発揮できないでいる児童生徒がいること」を指摘したうえ、性に関する指導においては、「基本的生活習慣の確立と性に関する学習を通して、自己の性についての認識を確かなものとにするとともに、他人への認識を深め社会性や人間関係を育成することが大切である」と述べている(100貢)。
 また、指導計画作成の留意点としては、「性教育は児童生徒の障害の状態や特性及び学校の実態にあわせて、人格形成を促していくための教育活動の一環として、学校の教育活動全体を通して、意図的、計画的に行う必要がある。生活年齢や発達段階に応じて、日常生活で実際に生かせるよう、繰り返し指導することが重要である」と学校の実態等に則した教育の実施を肯定している。
 小学部低学年の留意点としては、「排泄の自立や入浴の指導を通して身体の清潔や見出しなみ、男女の違いなどを学習することが必要幼少期から性に関する認識の高まりを意識して指導することが大切」とされている。
 小学部高学年の留意点としては、「低学年の内容に加えて、二次性徴に対応した個別の指導と男女の交際の基礎となるエチケットやマナーを身につけていくようにすることが必要」だとされている。
 中学部の留意点では、「月経や射精などにも対応できるようにすることや、自慰や性器に関わってエチケットやマナーの適切な指導が必要。小学部で学習した内容についても方法を工夫し、繰り返し、学習することも大切」と指摘されている(100〜101貫)。

(8)

 文部省からは、1999年3月31日、「学校における性教育の考え方、進め方」が発行された(甲141)。ここで文部省も「性教育」という語を使用し、「学校における性教育は、児童生徒等の発達段階に応じ、学習指導要領に基づいて、体育科、保健体育科、道徳、特別活動などを中心に行われています。しかし、現在、性に関する科学的知識を与えるとともに、人間尊重の精神に基づいて児童生徒等が健全な異性観を持ち、これに基づいた望ましい行動を身に付けさせるようにすることなどを重点に、学校、家庭、地域が実態に応じて、性教育を組織的かつ体系的に展開することが求められています。」とし、国の性教育に対する基本的な考え方を明らかにした。
 ここでの見解は、学習指導要領をふまえて具体的にわかりやすく解説したものと理解されており、今日まで変更修正されていない。なお、学習指導要領そのものは全国的な大綱的基準を示したにとどまり、記載されている事項だけを教えれば足りるというものではないし、記載されていない事項は一切教えてはならないというものでもない。
 同省は性教育の目的について、「学校における性教育は児童生徒の人格の完成と豊かな人間形成を目的とし、人間の性を人格の基本的な部分として、生理的側面、心理的側面、社会的側面などから、総合的にとらえ、科学的知識を与えるとともに、児童生徒が生命尊重、人間尊重、男女平等の精神にもとづく正しい異性観をもつことによって、自ら考え、判断し、意思決定の能力を身につけ、望ましい行動をとれるようにすることである」と明確に述べている(9頁)。
 幼稚園の部分では、性に関する発達課題と指導内容として「男女の体の違いに気づかせ、自分が男の子か女の子かの認識を確かにさせることが大切である。性器の大切さを知らせ、排尿、排泄の習慣やエチケット、体や性器の清潔保持の習慣を身につけさせる必要がある」と踏み込んでいる(31貢)。
 知的障害の児童生徒に対する性教育については、「児童生徒の障害の状態や各学校の実態を考慮し、全教育活動を通じて、体系的計画的に行う必要がある。特に性教育を通して日常生活の基礎的や基本的事項について身につけさせるとともに、自己の性についての認識や他人への認識を深めることが大切である。更に、社会性や男女の豊かな人間関係を育て、将来を積極的に生きていこうとする意欲や態度を育てることが重要である」と指摘している(47貫)。
 各発達段階における指導上の配慮事項としては、「障害の状態に応じて、重点化を図ったり、個別化を図るなど指導に工夫が必要である。また学習した内容が日常生活で実際に生かせるよう繰り返し指導する必要がある」と述べている。
 教材選択にあたっての配慮事項としては、「理解力に個人差が大きいため、多様な教材を準備することが求められる。用語についても難解なものをさけ、理解したり、イメージしやすいように工夫する必要がある。絵図や模型、視聴覚教材などできるかぎり具体的な教材を用いることが大切である」としたうえ、「現状では、障害に配慮した教材は少ないため、今市販されている教材を児童生徒等の実態にあわせて加工したり、新たに独自に教材を開発することも必要である」と弾力的な対応を認めている(47貢)。

(9)

 2001年には、厚生省(当時・以下同様)が2010年までの運動計画として「健やか親子21」を立ち上げた。ここでは思春期の健康と性の問題を正面から取り上げ、性教育充実の必要性をはっきりと打ち出している。
 ここでは、以下のように述べられている。
 「思春期における問題行動は、本人の現在の問題に留まらず、生涯にわたる健康障害や、時には次世代への悪影響をも及ぼしかねない問題であり、それを当事者に理解させ、問題行動の是正を図ることが必要である。そのために、家庭、学校、地域等の連携による教育・啓発普及・相談等を通じて、問題の理解と情報の提供を目指すことになるが、これまでの同種の試みが十分な成果をあげられていないことに鑑み、十分な量的拡大と質的転換を因っていくことが不可欠である。」
 「質的転換に関しては、まず教育・啓発に当たってより明確なメッセージをできる限り効果的に提供する教材、媒体、教育手法の開発を急ぎ、思春期の性の逸脱行動や薬物乱用などの行動が望ましくないことを理解させ、行動変容につなげることが必要である。特に、性教育については、男女の関係や相互理解の必要性を説明するとともに、避妊方法等も含めた説明も避けることなく行うべきである。また、生命の尊さや自分たちが将来、子育ての当事者になることの自覚を促すことも必要である。」
 「性と生殖に関しては、自ら判断し、決定し、相互に尊重するということが特に重要である。このため、自分や相手の身体についての正確な情報を入手し、自分で判断し、自ら健康管理できるように、学校や地域における性教育や健康教育を一層充実させるよう努める必要がある。性教育は、青少年の性行動が低年齢化・活発化し、また性情報に触れる機会が増大したという現実を踏まえ、思春期の子供の置かれたストレスの多い複雑な状況の実態をよく理解して充実することが必要である。」


3 東京都の政策の変化(特に七生養護学校を巡る変化)

(1)

 2002年12月11日、東京都議会平成14年度第4回定例会において、川井重勇議員の一般質問として、国立五小の性教育について、小学校1年生の段階から性器の名称等を含む過剰な性教育が行われているとの指摘、その指摘についての教育長の所見等を問い、「一部左翼グループが意図的にやっているとするならば、断じて放置するわけにはいかない。今後の調査等の対応をお聞かせ願いたい。」という質問が行われた。
 横山洋吉教育長は「今回国立市の小学校で行われた児童の発達段階を踏まえない性教育が児童に混乱を与え、保護者の信頼を失わせた事態を重く受け止めております。」「都教育委員会ほ、今後区市町村教育委員会に対し、性教育についての指導の徹底と、問題が発生した場合の速やかな対応と報告を求める趣旨の通知文を改めて出しまして、各学校における性教育が学習指導要領の趣旨に基づいて適切に行われるよう、指導助言に努めてまいります。」「新学習指導要領の趣旨を踏まえた性に関する指導要領を新たに作成いたしまして、組織的、計画的な指導が行われるよう、区市町村教育委員会との連携協力を図ってまいります。」「今後、指導主事が性教育等のさまざまな教育課題についてより一層の適切な指導、助言を行うよう、全都の指導主事連絡協議会等において徹底を図ってまいります。」などの答弁を行った。

(2)

 2002年12月18日には都教育庁指導部長名で「学校における性教育の指導について(通知)」が、区市町村教育委員会および各都立学校あてに通知された。その内容は、「学校における性教育の実施に当たり、一部に児童・生徒の発達段階を十分に踏まえない内容の授業が行われている状況があります。」「学校における性教育が適切に行われるよう、下記の内容について教職員へ指導の徹底をお願いします。」とするもので、性教育の指導につき学校全体の指導計画に基づく組織的・計画的な指導のほか、学習指導要領及び児童・生徒の発達段階に即した指導を行うこと、指導の充実に向けて保護者との連携を図ること、都教委との連携を図ること、を徹底するよう通知したものであった。

(3)

 2003年2月14日の都議会平成15年度第1回定例会で古賀俊明議員の質問が行われた。ここでは、ジェンダーフリーと過剰性教育について、「日本人の人格自体を破壊し、日本や家庭という共同体を敵視した新たな革命運動」として非難し、性教育について都教委の姿勢と今後の是正に向けた具体策を問う質問がなされた。
 横山教育長からはこれに対し、すでに各都立学校長及び区市町村教育委員会宛に通知をしたことの報告と、今後平成15年度中に「性教育の手引き」を改訂するなどの答弁がなされた。

(4)

 2003年5月、都教委は「性教育に関する指導資料」を発表した。ここでは「子どもたちを取り巻く性に関する問題解決に取り組むため、性教育の実践がなされている一方で、一部に学習指導要領や児童・生徒の発達段階を踏まえないような内容の授業や保護者との連携:協力が十分図られていないなどといった教育活動上の課題も存在しています。」「今回作成した『性教育に関する指導資料』は、学校における性教育の基本的な考え方と指導計画の作成や実施上の留意点を示すとともに、性教育の目標や年間指導計画の例を具体化したものです。」とされ、「今後各学校における性教育がより適正に行われるよう、先の『新たな性教育プログラムの開発』及び『性教育に関する指導資料』の内容を受け、平成15年度中には、従来の『性教育の手引き』を全面改訂いたしますので、それぞれの資料をご活用いただき、性教育の推進・充実にお役立ていただくことをお願いいたします。」と記載されている。

(5)

 2003年7月2日、都議会平成15年度第2固定例会で土屋敬之議員は一般質問として、「からだうた」「スージーとフレッド人形」等の教材を例に取り、都立学校で過剰性教育がなされていると述べ、「こうしたことを解消するには、学校管理に関して、単に責任を校長に押しつけるのではなく、320人いる指導主事の活用を図り、都教委が直接、あるいは区市町村教育委員会と協力して、教員を直接指導する必要があると考えます」と述べたほか、週案の提出や教材購入のチェック体制などについての質問を行った。これに対して、石原慎太郎東京都知事が「全ての先生がそうとは申しませんが、しかし、そういう異常な何か信念を持って、異常な指導をする先生というのは、どこかで大きな勘違いをしているんじゃないかと思うんです。」「強力な仲介役として、私は、教育委員会が今以上にアクティブに活躍していくことを期待しております。」と答弁し、横山教育長は従来と同様の答弁を繰り返したはか、今後も性教育の実施状況につき調査を行い、またより一層適切な指導を行う、週案作成や教材選定等についても適正な実施の徹底を行うといった内容の答弁を行った。


4 七生養護学校における性教育の評価

(1)

 七生養護学校で具体的に行われていた性教育は前記第3・1で認定したとおりである。

(2)

 七生養護学校に限らず近年性教育の必要性は強く認識され、現場レベルでの試行錯誤が繰り返され、文部科学省や束京都など各地方自治体も、性教育の必要性を認めその内容面の検討に積極的であった。そして七生養護学校での性教育の実践も、同校で実際に起こった性的問題行動を直接の契機として性教育の重要性を認識し、開始されたものとその動機が認められ、社会背景ともリンクしたものであった。

(3)

 その七生養護学校で行われた性教育の内容について、今回、とくに学習指導要領上、小学校第5学年理科で「受精にいたる過程は取り政わないこと」とされていたり、中学保健分野で生殖機能について「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とされていることなどに照らし、教材などによっては出産を早期に具体的に教えることを目的とするものであるから生徒の発達段階を踏まえないものであり不適切であるなどの批判がなされている。
 しかしそもそも学習指導要領は、先に述べたとおり、全国的な大綱的基準を示したにとどまるものであり、記載されている事項だけを教えていれば足りるというものではないし、記載されていない事項は一切教えてはならないというものではない。
 そして知的障害児教育には、その特性に応じた特殊な配慮をする必要が高い。
 「盲学校、聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領」(平成11年3月文部科学省告示)第1章(「総則」)では、「学校において特に必要がある場合には、第2章(「各教科」※筆者注)以下に示していない内容を加えて指導することができる。」
 「知的障害者を教育する養護学校においては、各教科(小学校においては各教科の各段階)に示す内容を基に、児童または生徒の発達段階の遅滞の状態や経験等に応じて、具体的に指導内容を設定するものとする。」などの記載がある(「小・中」3頁)。また「盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説一各教科、道徳及び特別活動編…」(平成12年3月文部省発行)によれば、「知的障害の特性及び学習上の特性等」として、「抽象的な指導より、実際的・具体的な内容の指導がより効果的である」(369貢)、「生活に結びついた実際的で具体的な活動を学習活動の中心にすえ、実際的な状況下で指導する」「教材・教具等を児童生徒の興味・関心を引くものにし」(370頁)などの記載がある。総じて、養護学校での知的障害児教育においてこれらの観点からの工夫が必要であることはすでに共通理解となっていると思われる。

(4)

 そこで、争点となりうるのは、今回七生養護学校で行われていた「心とからだの教育」と称する性教育がこれらの観点から妥当なものと評価できるか、適切さを欠くものとされるかである。
 この点、少なくとも学習指導要領の法的性格からして、「学習指導要領に記載がない」ということの一事を持って適切さを欠くということはできない。そして適切性判断のメルクマールとしては、学習指導要領外の事柄を教えること(目的)に合理性があったか、その教育目的のために当該具体的教材を使用すること(手段)に合理性があったかということが問題になる。
 まず、教育目的として性器の名称を小学部1年から教えることの是非についてであるが、性器の名称を覚えることについては、その部分がからだの重要な部分であるとの意識を与えることが重要である。特に性犯罪の被害者または加害者になる危険を回避させなければならない知的障害児にとってはこの点は早期に対応し、植え付けなければならない知識であるとの教員の説明は首肯させるに十分なものがあり、この点では、小学部1年から「からだうた」を歌うことが一概に不適切と断定することはできない。
 次に、教育手段としての「からだうた」の使用については、そもそもの使用動機は、性教育の時間を開始するにあたりその意識付けをするための区切りになる歌が必要との趣旨で作成されたものであるという。漫然と授業を受けるのではなく授業内容が意識の中に残るための工夫として、その動機は正当である。その歌詞の内容であるが、小学部1年から性器を触りその呼称を歌うことの合理性であるが、まずからだのほかの部位と続けて性器も触りながら歌うことは実際的具体的な教示法であり、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであると評価でき、目的と手段は合理的関連性があるものといえる。

(5)

 教材については、「子宮体験袋」「箱ベニス」「スージー&フレッド人形」などが問題視されているので、これらについて検討する。
 この点につき、教育目的については、「子宮体験袋」は、通常に比して被虐待児になることが多い知的障害児について、子どもの自己肯定感、生きることへの自信を養うために、自分がどのようにして生まれてきたか、出産のすばらしさを体感として教えることを目的とするものとの説明であり、その説明は合理的であり、その日的と手段としての道具の関連性も合理的である。教材についてはすでに述べたとおり実際的具体的であることが望まれ、その点でも合理性が認められるはか、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであるとも評価できる。
 「箱ペニス」については、精通の指導用とのことである。精通は男子生徒にとっては重要な教育課題であり、教えないままというわけには行かないことは明白である。そして精通指導時に具体的に何を指導しているのかをわからせるという教材使用目的があり、その目的と手段としての道具の関連性も合理的である。教員の説明によれば、このように具体的な道具を使わなければ、生徒の中には何について先生が話をしているのかまったく理解できない生徒もいるとのことである。そのような生徒に対し、具体的なビジュアルイメージをもって説明することは必要であり、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであるとも評価でき、この教材についてもその使用が不適切であると即断することはできない。
 「スージー&フレッド人形」については、はとんど使われたことはないが、赤ちやんについて教えているときに、具体的に重さ、形などイメージでわからせ、生徒に実感させるために単なる赤ちやん人形として使用したということである。少なくとも、写真(新聞報道)でとられたように下半身の性器部分を露出するなど性器を強調して使用することはありえないとのことであった。上記のような使用形態であればその教育の必要性、教育目的と使用教材の合理的関連性ともに認められると考えられ、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであるとも評価でき、これも不適切と即断することはできない。

(6)

 以上検討した結果、七生養護学校で行われていた性教育「心とからだの学習」は、「盲学校、聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領」「盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説一各教科、道徳及び特別活動編−」の趣旨に反するということもできず(むしろその趣旨には一致しているとすら評価できる部分が多い。)、知的障害児教育の特殊性を考慮に入れると、児童の発達段階と照らして不適切と判断することはできないし、従前の性教育政策とも同趣旨であって、少なくともこれに明確に反したものではなかった。むしろこのように検討すると、従来の方針から急転換したのは東京都の性教育政策の方ではないか、という印象すら与えるものである。


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