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戦争を起こさないために

 今日は「改憲への流れにNO! 」ということと、あと「戦争が終わって60年」というテーマをいただいています。今年は戦後60年と言われて、新聞とかテレビもいま夏に向けて取材をしていますけれども、例えばこの遺棄兵器の問題を取り上げるとしたら、果たして本当に「戦後」なのか。いま被害者になっている若い人は、戦争とは全く関係ない世代ですし、そういう人々がこれから先もたぶん傷つくんですね。それは中国だけじゃなくて日本も同じ状況ですので、果たして本当に戦争は終わっているのかというふうに思います。

 気にくわないことや嫌な相手がいると、叩けばいい、潰せばいいという風潮があって、それは一昨日起きたロンドンでのテロもそうですけれども、そういう暴力で問題が解決できるという考え方がいちばん愚かです。こうしていったん始めた戦争がどういうふうに長い影響を持つのかってことをご説明しながら、とくに若い方にいつも言ってるんですけれども。これから先にどうやって戦争をしない世の中を作っていけるかは、本当に自分たちの判断にかかっているということを、すごく強く言っています。

 60年前は、戦争を始める権利は天皇とかごく一部の政権の方にしかなかったんですが、いまは戦争を始める権利も止める権利も私たち一人一人に関わっていると思うんです。まさしく憲法9条をこれから殺す動きが本格化していく中で、若い方たちに向けて「まず選挙に行こうよ」ということと、「政治に参加するっていうことは本当に自分たちの命とか生きる意味合いとかを決められる権利があるっていうことなんだから、ラッキーなんだから、それを使おうよ」っていうのを呼びかけながら歩いています。

 たまたまいま私が取り扱っているテーマは日本の過去の戦争に関するものですけれども、決して後ろ向きじゃなくて、例えば日本と中国がこれからも隣の国同士で、仲違いしては生きていけないと思うんですね。戦争を起こすのは簡単ですけれども、起こさないためには、やっぱりああいう反日デモとかの後ろにこういう問題もあるんだよ、っていうことをちゃんと分かった上で、議論なり口喧嘩なりをちゃんとしていきたいなというふうに思っています。
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誰にでもできること
会場にて 「わたし・たちに出来ること」という紙がお手元にあるかと思います。私もこの話を聞いたときたいへん重い気持ちになって逃げたくなって、もういいやと思いたい瞬間がありました。お客さまから何ができるか教えてくださいというご要望があって、簡単に出来ることだけここに書きました。

 一つは、被害者はかなり困窮していて医療費は借金ですし、いま裁判をしている人たちも、裁判費用は日本側の弁護団とか、もしくは募金に支えられている状態なんですね。もしお金に余裕がある方がいらしたら、医療費の支援をしたい方とか、裁判費用を支援したい方、それぞれの宛先が書いてありますので、もしよろしければご検討いただけたらと思います。

 裁判では、一審はいろんな事情がからまって、たまたま勝訴したんですけれども、高裁はだいたい市民から遠い判決が出ることが多いので、どうなるか正直分からないんです。日本人が被害者でもなかなか勝てない裁判が多いなかで、外国人が被害者だと本当に苦しいので、ぜひ、裁判に関心がある人が多いということの意思表示をお願いしています。もし昼間の時間に余裕のある方は、裁判の日程ですが、今度は9月14日と10月31日に元日本兵の方が証言に立って、自分が毒ガスを捨てましたって証言する回があるんです。この時にはぜひ傍聴席を一杯にしたいと思っていまして、もしよろしければぜひいらして下さい。

 そんなに時間はないしとか、もしくは遠方で駄目だっていう方には、お葉書を書くことをお願いしています。裁判官あてに、内容は何でも結構です、サンプルを書いてありますが、一人一人の気持ちを、本当にすごく簡単で結構ですので、書いていただけたらなあと思っています。

 最後がいちばん簡単でいちばん重要なんですが、旧「満州」にゆかりのある親戚や知人の方がいたら、ぜひ聞いてほしいんですね。何回も言いましたが、日本政府はこれまで60年間、在外の毒ガス兵器に関して大掛かりな調査をやったことがないので、中国側には遺棄情報がちゃんと提供されていないんです。被害者の方や中国の一般の方からいちばん私が言われたのは、謝れとかじゃなくて、あとどこにどれぐらい、どういう毒ガスがあるのかをとにかく知りたいんだと。繰り返し聞かれました。でも私も答えられないし、日本政府もいま答えられない。唯一の頼みは旧「満州」関係者だけなんですね。とにかくどんな小さい情報でも結構です。あそこらへんの部隊がこういうことをしたと聞いたことがあるという人に会ったことがあるとか、本当にそういう情報でも結構ですので、ぜひ教えてほしいんですね。

 こういうお願いを毎週上映会で言ってますと、2ヶ月に1本ぐらい電話がかかってくるんです。自分はどこどこの部隊で毒ガスを捨てました、という告白を、いろいろとお爺ちゃまがなさる。もちろんそういう方も家族には言っていないんです。どこかでこういうチラシをもらったり、新聞記事を見たりして、電話をしてきているんですね。

 その中のお一人を去年の11月に中国にお連れして、その方が毒ガスを捨てた場所を探してきました。場所が見つかって、そのことを地元の自治体に言いに行ったんですね。「この人がここに毒ガスを捨てたと言ってます」と。「今もここにあるかは分からないけれども、何か事故が起きたらすぐに緊急避難させて化学部隊を呼んで下さい」ってお願いしたんです。元日本兵の方は最初怖がっていて、石もて追われるんじゃないかと思っていたら、地元の自治体から本当に大歓迎されて、「すごく勇気がありますね」って言われたことがうれしかったみたいです。実は裁判の証人に立つ方がこのお爺ちゃまなんですけども、こういった協力をぜひしたいということで、裁判に出ることになりました。

 ちなみに、先週またその方が実地調査に中国の同じ場所に行ったら、半年前に告白した出来事がきっかけで、地元の自治体がそこの住民に、もし家に砲弾とかを持ってるんだったら危険性が高いからと言ってすぐ出させたんですね。そしたら40発ぐらい集まった中の19発、まさしく化学兵器の砲弾だった。日本軍の毒ガスの特徴である赤い線とか黄色い線が入ったものが出てきました。

 本当に頼りない情報から始まった小さなことですけれども、それがもしかしたらその地域では新しく被害が起きるのを防いだかも知れない。ぜひ頼りない情報でも結構ですので、関係者がいたら教えて下さい。ご家族とかには言いづらいと思うので、「こんな話を変なお姉ちゃんが来て言ってたよ」と、ちらっと紙を置いてもらって、そこからもしかしたら重要な情報が見つかるかもしれないので、お願いします。
 今日はどうもありがとうございました。
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会場からの発言と応答
 ――私は在韓被爆者支援の運動に70年代の終わりから関わってきましたが、ようやく日本政府が動き出したのは21世紀に入ってから、被爆者が死に絶える直前になってからです。本当に日本人ってのは、と日本人の私が言うのも変な話ですけど、なかなか動かないんですね。今日のお話をどう広めていくかですが、あと50年やっていたくはないですよね。今日ここでお話をうかがったのはやっと10人を超えるかどうかなので申し訳なく思っていますけれども、大丈夫ですか。

 人数の大小に関係なく、こんな暗いテーマの作品にお客様が来てくれることがすごく不思議なんですね。アンケートを拝見すると、全く知らなかったというのと、「何で来ましたかと」いうと「友達に聞いて」というのが圧倒的なんです。つまり、いかにも暗くて重いですが、いま中国人がすごく怒っている理由を知りたいと考えている方が、少し増えていると思うんですね。とくに反日デモとか、去年の重慶のアジアカップ・サッカーの試合とか、事件があるたびにお客様はウワッと増えるんです。だからちょっと変な話なんですが、日中関係が悪くなって、おかげで私が儲かっている。まあ儲かってはいないですが、生活ができてるという状態なんです。

 今までこういう市民の集会とかには来なかった層の若い方とかが結構来てるんですよ。ですからあんまり悲観的じゃないんです。3月には1週間、東京で1日に4回、上映会をしたんですね。お客さんが3人とか4人かなと思っていたら、1週間で1400人入って。映画の上映会なんで運動に来たわけじゃないので、「できること」のチラシも会場の端っこにそっと置いといて、興味があったら読んでもらえればと思ってたんです。ところが帰りにもう皆さんどんどん葉書を書いてくれて。

 もちろん運動に長く時間がかかるのは重々分かってますし、在韓被爆者の問題とかも長い年月かかってすごく大変なんだと思いますが、私はあんまり悲観的にはなってなくて。おかげさまで12月まで上映会は一杯なので、きちんと声を出していけば必ず正義は私たちの方にあると思っています。ご心配いただいてありがとうございます。

 ――毒ガス裁判で証言した人がいて、その時に赤とか青とかいろいろ言ってらしたんですけど、その意味が私には良く分からなかったんです。今日のお話を聞いてとても良く分かりました。今度はそういうことを頭に置いて聞きたいと思ってます。中国人のことを書いてますので、ニュースに書いておきたいと思います。慰安婦の裁判でもビデオとかやりたいと思ってます。作った方が話されるというので来ました。本当に感心しました。ありがとうございました。

 ――中国政府の被害者への対応は。

 個人的な補償は中国政府はしてないです。何故かというと、原爆とか水俣病もそうだと思うんですが、認定する必要がありますよね、まず、日本軍の毒ガス被害なのかということで。認定するためには日本側から十分な情報が提供されていないと、その人の事故が毒ガスだったかどうかを判定することがかなり難しいんです。それで中国政府は毒ガス被害者という対象をつくるんじゃなくて、身体障害者とか生活保護っていう形で生活の支えとか医療とかをやってるんです。

 個人に対する補償は政府はやってないんですけれども、1992年に国連軍縮会議の場で中国政府が発案をして、名指しはしなかったんですが、「ある国がかつて我が国に置いていった化学兵器がいっぱいあって困っています、2国間ではなかなか事態が進展できないので、多国間で処理してください」という申し入れをしました。それがきっかけで97年に化学兵器禁止条約という国際条約ができているんです。それに基づいて日本だけじゃなくてアメリカとかロシアとか、化学兵器を持っていた国はいま処理をずっとやってるんですね。ですから中国政府は、国家としてできることは最大限やっていると思います。

 いちおう日本政府もジュネーブ協定に加盟しましたので、97年からちょっとずつ実は処理を始めてるんですね。国交がない時代に中国が山の中に埋めていた60万発に関しては、もうそれはやりますというふうに腹をくくって、いま一生懸命処理を進めてるんです。3000億円の予算をかけて処理施設を作るという話になってるんですけれども、ODAとかと一緒で、結局日本のなんとか重工とかにそういうお金が落ちるんですね。もちろん処理するんですからどこにお金が落ちてもいいんですけども、結局また儲けるのは日本の企業みたいな、そういう状況になっている。
 この4年でまだ4万発しか処理できていなくて、まあ60万発ぐらいありますから、あと何十年かかるかは計算すれば分かっていただけることですが。ですから日本政府は被害者への補償はまったくしないけれど、毒ガス弾の処理は仕方がないからやりますということです。
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 ――僕が知ってることで言うと、オランダのハーグの化学兵器禁止機関に自衛隊の化学将校が駐在してるんです。中国の本土にも何回か自衛官が入ってますね。

 ホームページとか見ると、中国に行った化学部隊の方の「私、シナで化学兵器の処理をやっております」みたいな掲示があります。

 ――この間の新聞報道で、「中国が自分たちで遺棄弾をちゃんと処理しないから、その責任は中国にある」みたいなことを日本の政府高官が言ったと流れていました。やはり捨てた日本の方で、処理しなければいけないと思うんですが。

 私は日本が処理しなければいけないと思う。化学兵器条約でもそういう原則で、それぞれの国が自分の国で作ったり使ったり遺棄したものを処理する義務があるという条約ですから。国際的なルールとして、日本で作ったものがたとえいま外国にあったとしても、処理しなきゃいけないというのが正当だと思います。その高官の方がどういう根拠で言われたのか知りませんけれども。

 ――中国に、まだ処理施設はできていないんですね。

 吉林省の爾巴嶺というところに大きな穴が2つあって、本当はそこに大きいプラントを造る予定だったんですね。まずそのプラントを造るための道路を造る計画が発表になったんですが、そこに集中して全国から毒ガスを運ぶと移動中に事故が起きるので、巨大プラントを造る計画はいったん見直しになった。小さい施設を各地域にいくつか造るという方向でどうも考えてるみたいなんですね。いま処理しているのは爾巴嶺ですが、残りの地域でどうするかは、いままさしく企業の方が鵜の目鷹の目で見ているところです。

 私の上映会にも、すごく身なりのいいサラリーマンの方が時々いらっしゃるんですね、いわゆる市民運動とかに居ないタイプの方で。何でこんなところに来るのかなあと思っていたら、一人の方がある会社の名刺をくれて分かったんですが、毒ガス処理のプラントは結構大きなお金になるみたいです。そういうのを狙って「今日は勉強に来ました」ってその方おっしゃっていて。「私たちは何年も化学兵器の処理の研究をやってるんだけど、被害者には会ったことがなくて、今日初めて映画で見ました」とか、「これは絶対処理しなきゃいけませんね」と言いながら、目がもうお金の感じになっていました。

 ただプラントを造ること自体は必要なことだと思うんで、それはやった方いいことなんですけれども。

 ――現在はどういう形で保管してるんですか、最終処理をできない状態であるとすると。

 巨大な穴を掘りまして埋めてあります。中国はたいへん国土が広いので、山を2つ越えたようなところの先に大きい穴を掘って。例えばアメリカが持っている化学兵器ですと、同じ種類の化学兵器はみんな倉庫の中に入っているので、けっこう処理が簡単なんですね。この兵器はこの処理方法っていうのがあって、ベルトコンベアでワーッと無人で運ぶこともできるんです。日本のものは古くなっている上に土に埋まっているので錆びてしまっていて、「あか剤」なのか「きい剤」なのか、極端に言うとロボットで1個ずつ掘り上げてチェックしないと処理ができないとメーカーの方も言っていて、そこらへんがちょっと難しい。だから手間がかかるというか、処理コストもお金がかかる。化学兵器は作るときには「貧者の核兵器」でコストが安くていっぱい殺せるということで始めてるんですが、60年、70年経ってしまうと、これからかかる莫大なコストを私たちが自分の税金から払うのかと思うと、本当に頭に来ます。とはいえ知らん顔をすべき問題じゃないと思うので、苦しんでいるところです。

 ――私もダイオキシンの問題にちょっと関わったことがあるんですけど、たいした量じゃないのにすごいコストがかかる。毒ガスもものすごいコストがかかるんじゃないかと思いました。

 腐食したところから漏れだしてきている危険が高いので、作業員の方が被害に遭う可能性がたいへん高くて。自衛隊の化学部隊の方もオフレコですが、××××。

 ――映画に出ていた記者会見で私の事務所の出身の弁護士、渡辺君が出ていました。こういう裁判をやってることは知ってたんですが、これほど重要な奥の深い問題だとは思わなかった。また激励しておこうと思います。中国と日本の関係が悪くなった一つの原因になっている問題ですね。これをうまく処理できれば、またひとつ日中関係が発展すると思います。

 このチャンスを生かして、悪かったけどこうしましたって言えるようになりたいですね。
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