【3】被告の「イラク戦争支持」以外の選択肢
平和的生存権と納税者基本権を主張する原告としては、不合理だけを指摘していたのでは平和主義の後追いになってしまいそうである。裁判所に責務の遂行を願う者の真摯さを示すためにも、建設的な志向をも表明したいのであるが、実力は如何ともし難く、著名人から知恵を借りるしかない。
国際司法裁判所判事を歴任、現在は国際反核法律家協会会長であるCG.ウィ−ラマントリ−著の『国際法から見た イラク戦争』編訳者浦田賢治 勁草書房、から要約記載して主張に変るので、被告の無作為と比較検討していただきたい。(アンダ−ラインは鈴村)
1.外交
- 国家元首レベルでの外交を行う可能性は常にあった。国家元首や国際的に認められた地位をもつ人物からなる小規模の作業部 会を設置する生産的な努力は、少なくとも何らかの意味のある結を生み出すはずである。
- 中東の国々が、この地域に非核兵器地帯をつくるための可能性。 これに対する主要な障害は、イラクに対しては一発の核兵器の保有の試みでさえ暴力的に対応する国々が、イスラエルによる核軍備の保有には何の疑いも持たずに許しているという事実である。
- 核兵器廃絶への道
もし世界の核大国が国際法上の義務に従って自らの核兵器を廃絶する政策に着手していたならば、サダム・フセインは実際そうしたようには兵器を開発したり、維持したりすることは到底できなかったはずである。◇核大国の核廃絶はまさに、国際法の一般原則に照らして義務で あるばかりでなく、同趣旨の国際司法裁判所の全員一致の判断の結果によっても義務である。
この点について自らの義務を履行せずにいる数ヶ国のうちの一つが、義務の履行を拒絶しながら他国には義務の履行を主張するということは、中立的立場の人には誰にでも、矛盾する行為と見られるにちがいない。2.大量破壊兵器は国際法に違反、という原則についての一般合意
イラクの大量破壊兵器保有疑惑の問題は、複数の核保有大国が自らの国際義務を尊重して、究極的廃絶を目指す核軍備の一般的削減の流れを作っていたならば、確実に解決し得たはずである。
こうした流れのなかでは、大国が軍縮することを要請する道義的権威はずっと大きくなり、抵抗できないものになっていた。
そのうえ、こうした一般的かつ全世界的な軍縮の流れは、すべての諸国間に、この一般的潮流に違反する試みを探知するためのより一層の協力を生み出すであろうし、イラクによるどんな違反も追跡することがずっと容易であっただろう。
3.兵器査察と発見された兵器の廃棄の継続
すでに国連には、疑惑のある兵器施設の査察、並びに発見された化学兵器・生物兵器・核兵器と禁止されている(国連安保理決議により)射程距離を有するミサイルの廃棄のための機構(UNMOVIC)があった。優秀な査察団が、イラクが保有していたことが分かっていた兵器の破棄を確認することにおいて、すでに成果を上げていた。UNMOVICは、兵器の隠蔽あるいは兵器開発計画の再開に関する証拠を何も見つけられなかった。それ故に安保理の理事国も他の国連加盟国も同様に、この「査察」プロセスに時間をかければ、イラクが自らの義務を履行してすべての大量破壊兵器を破棄し、そうした兵器の製造計画を中止するということについての完全な確認をUNMOVICが得ると予想していた。
こうした手続きは、大いに機能している最中に突然、安保理理事国の期待と予測に反して、敵対的行為の開始によって中断されたのだ。
このように多くの準備と外交上のコンセンサスによって成立している手続きが、途半ばにして一方的に中断される必要はなかった。それは、国連憲章33条が、いかなる武力の行使に際しても前提条件としてあらゆる可能な解決手段を尽くすよう義務的に要求しているのであるから特にそう言えることである。
4.疑惑の立証
敵対的行為開始に先立つあらゆる段階でアメリカは繰り返し、イラクには大量破壊兵器の備蓄があると主張していた。そうした主張は、イラクが否定しているときに確かなものとしてなされたが、その主張を裏づける証拠が国際社会の前に示されることはなかった。
実際、兵器査察の進行中にアメリカは、イラクの否定をはねつける主張を確かなものとして繰り返した。世界中の人々は、アメリカがその主張を裏づける情報を持っていると予想したが、そのような情報は決して公表されなかった。このことは、アメリカが査察官の活動のいかんにかかわらず武力行使に向かっているという印象を強めた。
5.国連に対する尊重の促進
国連もまた、この問題を解決する能力をもっていたのであり、国連と国際法の権威を高めるためあらゆる措置がとられることが期待された。(実際には)そのかわりにアメリカによって、国連の権威を損なう一連の行動や声明がなされたのである。特に、アメリカは国連に対して高慢で威嚇的な態度をとった。アメリカはしばしば、安保理が行動すべき期限を押しつけ、アメリカが望む立場を安保理がとらなければ単独で行動する用意があることを示した。
実際にアメリカは、国連の権威を弱めることによって、この問題について国連が及ぼすことのできたはずの重要な影響力を減じ、開始された敵対行為によって失われた数千の生命を救うことができたはずの国連の能力を低下させた。
6.戦争犯罪法廷
国際社会は、人道に対する罪を犯した者たちが、彼らを裁くために設置された戦争犯罪法廷のような適切な法廷で裁かれることを期待するようになってきた。
サダム・フセインや彼の共犯者の内の誰かが、戦争犯罪や著しい人権侵害を犯したのであれば、彼らの罪を審理するために必要な制度を用意できたはずであり、また、国連の手続きをその目的のために援用できたはずである。
もし安保理がそうした方向で動いていたならば、安保理はそうした手続きに向けて必要な措置をとる完全な権限を持っていた。そうした手続的措置は、国際法に完全に合致しかつ認められた 手続きであり、あらゆる禁止された武器の備蓄を撤去することに向けて国際社会が歩みを進めることに道を開くことができたはずである。たとえサダム・フセインの身柄が拘束されていなくとも、この手続きは、一旦実行に移されればおそらく、国際法システムにおける他の手続きが作動する契機となり、そして、さらなる行動を求める国際世論を形成することに必要な一定量の証拠資料を生むという結果になったであろう。
アメリカは、国際規模での法の支配に向けての進歩の流れの外に身を置き、イラク問題の解決に有用な他の選択肢を拒否して、現在、武力行使と数千人の生命の犠牲をもって解決しようと試みている。
こうしたアメリカの行動は、国際規模での法の支配を強く熱望する世界に対する指導性を発揮することにはならないと考えないわけにはいかない。
7.地域的圧力
中東地域の国々がもつ集団的な力は、どの国の政策にも大変強い影響を与える。各国とも近隣諸国の善意を涵養し維持しようとしており、特に文化的背景を共有する国々の間ではその傾向が強い。ある事柄についてこうした国々が集まり、一致した意見が表明されれば、その地域でそれは非常に大きな重みをもつこととなる。もしこの地域にイラクによる大量破壊兵器の保有の恐れがあったなら、例えばこの地域の国家元首のグル−プなどによる地域的圧力は、おそらくイラクの方針に相当な影響を及ぼすことができるはずである。アラブ諸国の間には幾つかの相違点があるからこうした手続きには、疑いもなく、制約が内在する。しかし宗教的・文化的な背景と伝統の共通性は、イラクに対して強い圧力を与えるであろう。自ら属する地域から、のけものにされたいと思う国など一つもないから、そうした感情を利用できたはずである。さらに、この地域にはアラブ諸国からなる十分に確立した機構(*)があり、この機構が十分に活用されたかどうか疑わしい。(*)文献注=アラブ連盟を指す。
1945年からカイロに本部を置き、2004年現在23ヶ国が加盟している政治的連盟。目的は、アラブ民族の独立と主権の確保、平和と繁栄の中立地帯の形成。
8.中東地域における他国の扱いの類似性
大量破壊兵器の製造を禁じる国際法規範をある国(イラク)が遵守することに固執する一方で、同じ地域の別の国(イスラエル)が同じ政策を好きなように行うのを放置することは、不合理なことである。一貫性(法の適用の)というものは、国際法と国際社会の統治にとって不可欠なものであり、もし一国の大量破壊兵器の保有に反対する道義的に高潔な主張をしようとするなら、その近隣諸国にも同じ方針が適用される必要がある。
イスラエルによる大量破壊兵器の保有は、この地域に緊張を生む主要な要因となっており、もしイラクの大量破壊兵器に有意義な取り組みをしようとするのなら、同じ点でイスラエルの行動も問題にしなければならなかったはずである。
小括
著者の国際的法律家、反核法律家の面目躍如である。
国際的人道的視野での、イラク戦争に対するアメリカの行動分析と評価は、本件被告の国益(日米同盟論)の欺瞞に逃避する狭量・盲従との違いが歴然としすぎてショックである。
国際社会の「法の支配」を無視するアメリカの行動を改めて想起し、そのアメリカかに、国是を投げ捨てて追従する被告の行為を重ね合わせると、原告は日本人としての人権・人格が著しく侵害されていると強く 訴える。
おわりに
- 今回をもって予定していました主張計画を終了いたします。裁判所の訴訟指揮に感謝いたします。
- 本日、届け出致しました証人を採用しての、証人尋問を是非お願いいたします。
- これまでにも発言致しましたが、本人訴訟のため原告証人の尋問手続きが困難と思いますので、「最終準備書面」を甲号証として提出し、陳述をしたいと考えています。宜しくお願いいたします。
- これまで再三、証拠提出の発言をしながら、実行されていないことを遺憾に思っています。
一言、弁明すれば、提訴以来の情勢の変化が著しく、証明するまでもなく周知徹底される事柄も多く、原告(作成、提出)と裁判所(審査)の双方の負担を軽減して徒労を避けたいという思がありました。
厳選して、合理性と説得性のある裏付け書証を、次回こそ提出する所存です。