■中枢同時テロの衝撃
私の報告のタイトルは「米英の対テロ報復戦争と自衛隊『戦時』派遣」としてあります。一般の新聞がこういう表現を使っていますので、このようにしましたが、基本的には自衛隊「派兵」です。また9月11日のアメリカでのテロ事件に対して、「同時多発テロ」という言葉を多くの新聞が使っておりますけれども、私は「中枢同時テロ」の方がいいのではないかと思います。
この事件の犯人は、サウジアラビアの出身者が多数を占めているわけです。正体不明のテロリスト集団ですけれども、これがアメリカの民間旅客機をハイジャックして、2機がニューヨークのマンハッタンの超高層ビル、貿易センタービルへ突っ込んだ。ワシントン近郊のペンタゴンのビルにも突っ込んだ。そして、ニューヨークの場合には無辜の市民を数千人、殺害した。
国防総省の方では、200人ぐらいの軍人が命を落としたようです。4機目の旅客機はアメリカの中部に墜落しました。なんのために、どういう目的で、どこへ飛ぼうとしたのかは、今のところはっきりとしておりません。こうして4機がハイジャックされて、多数の乗員・乗客が命を落としました。まさに前代未聞の、凶悪な事件と言うほかはないわけであります。
とくにニューヨークの超高層ビルへのジェット機の突入は、多くのジャーナリスト、あるいは市民がいる大都会のど真ん中ですから、多くの方がビデオカメラを持っていて、その収録されたビデオ画像が放送局を通じて世界中に流された。この衝撃度は非常に大きいわけです。私も参加した東京・世田谷でのシンポジウム会場に見えたカメラマンが、このことを強調していました。この方は黒沢明の映画づくりでカメラを回し続けてきたプロですから、画像が流れているのを見ていて、どれぐらいのカメラが、どんな角度で写しているかが分かる。たくさんの方がさまざまな角度から撮っているために、その迫力がいちだんと増しているというお話でした。
いずれにせよ、黒煙をあげて炎上する高層ビルから命からがら逃げだして来る多くの方々の、あのものすごい形相のみじめな姿を見て、怒りを持たない人はいないわけです。まさに、世界の人々のすべてが戦慄したわけです。
この中枢同時テロ攻撃のあと、すぐブッシュ大統領は「連邦非常事態対応計画」の発動を指示し、そのあとテレビ演説で、「われわれ、および同盟国は、テロに対する戦争を勝ち抜く」と語ったと報じられました。
国連はその翌日、安保理事会で1368号決議を満場一致で採択して、「テロリストの攻撃に対するあらゆる必要な措置を講じる用意があることを宣言する」と表明しました。しかしこの決議は加盟国の自衛権を確認しただけに止まっており、特定の集団や国家に対するいかなる武力行使をも授権、要請、授任したものではありません。
■米英の軍事攻撃をめぐる国際世論の分裂
ところが米英両国はこの安保理決議をよりどころにして、アフガニスタンに対する航空爆撃を開始、さらに特殊部隊や海兵隊など地上部隊も投入し、軍事攻撃を展開中です。ここには非常に大きな国際法上の、そして政治的な問題点があり、各国の多くの良心的な学者、あるいは公然と言えないが本当はアメリカの戦争に反対している国々は、1368号決議ではそんな軍事攻撃は許されないはずだと、批判を高めているわけです。国連事務総長は、重なる討議要請に対しても「必要ない」と言って、米英軍の行動を認めている。
この米英の軍事攻撃の評価をめぐって、いま国際世論は大きく二つに分裂しています。一方の側では、従来の戦争概念が変質した、テロ組織の根絶のために対テロという「新しい戦争」を戦うのだと主張して、アフガン攻撃戦争の妥当性を主張しています。日本の政府与党のだいたいの人々、もちろん小泉首相もこうした考え方です。先般のテロ対策法の国会審議では、野党側の議員がテロ戦争反対の立場で質問をしますと、小泉首相は居丈高になって質問者をにらみつけ、「テロをあなたは認めるのですか」と反駁しました。これまでの首相には見られなかった「すりかえ論理」を使って、質問する野党議員に足払いをくわせるという驚くべき場面を、何回もテレビで見ました。
しかし、保守政界全体がそうであるかというと、決してそうではない。宮沢喜一元首相などは、「戦争でなくて犯罪だ」と雑誌『諸君』の11月号で言っております。アメリカではシュレジンジャー元大統領補佐官、この人は高名な歴史学者兼政治家ですけれども、彼は『東京新聞』10月29日付のインタビューで、「軍隊対テロ組織」は「戦争ではない」と語り、「新しい戦争」説を真っ向から否定しています。しかしシュレジンジャーは米英軍の軍事力行使を全面否定しているわけではない。彼の主張は、「航空爆撃を極端に減らして、警察活動として特殊部隊を入れ、ビンラディンを捕まえて裁判に付せ」というものです。このように「新しい戦争」を戦うということを主張している保守政界の大勢の中でも、きちんと筋目を見ようとするイデオローグたちもいるのですね。
民主的・平和的な立場の人々は、今回のテロ攻撃はかつて例を見ない悪辣な行為であり、人道に対する国際犯罪として糾弾しなければならないと主張しています。そしてこれらの人々は、報復戦争は国際法の根拠を持たない違法行為と見、こうしたやり方ではテロリストを根絶できず、対抗テロ誘発の危険性を高める、また悲惨な難民問題を生むと強く認識している。そして直ちに武力攻撃をやめ、諸国民の力と国際社会の協力を得て容疑者の身柄を確保し、国際法と国連憲章に基づく正当な裁きを犯罪者に与えて、そしてその組織を根絶していくことを主張しています。こうした主張は、人類発展の長い歴史の中で積み上てきた私たちの知性、理性が生みだしたものであり、21世紀の世界からテロ組織を本当になくしていくにはそれ以外にはないと考えます。
さて前者の、テロ対抗戦争を主張する人たちは、非常に直線的です。彼らは後者の人たちに対して非常に挑戦的になっている。例えば『産経新聞』に載った森本敏という人の主張は「テロに対して軍事力を使うべきでないという議論は、始めからテロに屈伏している論理であり、危険でさえある」と断じています。小泉首相の論理も同様のものです。
こういうふうに、非常にはっきり二極に分解した政治的な意見の衝突の中で、国民の対テロ戦争に対する対応は、どちらかへの選択を迫られているわけです。そして私たちのような民主的・平和的立場に立つ勢力の運動は、対テロ報復戦争を叫ぶ勢力との対立を深めながら進行しているのです。
■ブッシュ政権は何を狙うか
「戦争」という言葉を日本のマスコミは盛んに使っています。マスコミは米英の軍事攻撃を一義的に「戦争」と翻訳しているけれども、アメリカ政府の見解、表現には微妙な変遷があります。また日本のテロ対策特別措置法も「戦争」という表現を使っていません。
私は先日、あるところで講演をした際に会場の方から指摘を受けました。ブッシュ大統領は「ジス・イズ・ノット・テラー・アクション、ウォー・アクション」と言っているというんですね。「テラー・アクション」ではなくて「ウォー・アクション」、つまり「戦争活動だ」という意味です。ブッシュが「戦争活動」だと言っているのを、日本では「戦争」と訳して広く使っているという指摘です。ここから日本では多くの方々が、アメリカのやっている行為を「報復戦争」というふうに呼んでいます。後ほど本間先生から国際法や国連憲章に関連して、ブッシュ大統領がウォー(戦争)と言わずにウォー・アクション(戦争活動)と言っている意味、その背景などをうかがいたいと思います。
では、ブッシュ政権はテロ報復戦争で何を狙っているのでしょうか。もちろん、いろいろな狙いがあると思いますけれども、とくにウズベキスタンからアフガニスタンにいたる地域は、カスピ海とその周辺の豊富な石油、天然ガスを、パキスタンを経てアラビア海へ運ぶパイプラインの有力なルートとされている。
「米国がアフガニスタン攻撃を通じてタリバン政権打倒をねらう裏には、石油資本の将来を見据えた思惑がある」とセルビア人地政学者ビドイエビッチ氏が指摘していますが、だいたいそれが妥当なようです。この指摘は『毎日新聞』10月24日付の記事にありました。ブッシュ大統領はテキサス石油資本の一族ですから、彼の石油利権追求の道と結びついていることは、さもありなんと皆さんもお考えのことだと思います。
中国は、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の独立運動を支援していたタリバン・アルカイダに大きな打撃を与えるために、米英のアフガン戦争を支持しているという報道が広く流れております。ウイグル族の独立運動も制圧されているというニュースもしばしば目にします。こうした西側報道がどこまで正しいのか、私は新疆に行ったことがありませんから分かりませんが、だいたいそういうことではないかと思います。
ロシアはロシアで、非常に軍事戦略的な思惑で、あるいは石油利権のからんだ思惑で、タリバン政権の打倒をめざすアフガンの北部同盟を支持し、援助してきた。イギリスはイギリスで中央アジアを支配した旧帝国主義としての大きな利権がらみの思惑がある。
まとめて申しますと、この戦争を遂行あるいは支持している米英中心の諸大国は、いずれも非常に汚い利害、打算と結びついて動いている。決して世界からテロを根絶するという、人道的な、尊い理想から動いているのではないということを、改めて申し上げたいと思います。
■タリバン攻撃の戦況
米英の軍事攻撃が、国際法で禁止されている報復戦争だという見解を私たちは持つわけでありますけれども、現実にこの報復戦争というものは、対抗テロを誘発して泥沼化する危険を大いにはらんでいます。また悲惨な難民問題を生んでいっている。これから厳冬期を迎えて、家から追われて食料もない山岳地帯に逃れた何十万人というアフガン難民が、冬を越せずに命を落とすかもしれない、と報道されています。アメリカの爆撃と侵攻作戦は、大勢の罪なきアフガニスタン人民に大きな災害をもたらしているのです。
航空爆撃はますます大規模化しています。だいたい今、一日に100機以上の戦闘機、爆撃機がアラビア海の米空母やインド洋のディエゴガルシア基地その他から発進して、アフガニスタンへの猛爆を続けています。また米英の特殊作戦部隊が山岳地帯に投入されて、ビンラディンの潜む洞窟探しや、航空爆撃の地上からの目標誘導、あるいはタリバンの兵站線を切ってタリバン部隊を孤立させ、弱体化させるなど、いろんな目的で作戦していることは、みなさんもテレビニュースでご存じでありましょう。
マザリシャリフや首都カブールが比較的簡単に陥落しました。南部の中心カンダハルの攻防戦がどうなるかと思っていたところが、これも昨日になって、タリバンが撤退したというニュースが流れました。市街地の中で銃火を交えることなく、タリバン部隊がカンダハルから撤退したのは、半分は戦略的後退であるのか、良く分かりませんが、カンダハル市の支配を放棄したことにより、タリバン政権は完全に崩壊してしまった。後はタリバンの最後の頼みとする洞窟・山岳戦に移行していく、そんな状況になっています。
こうした中、アメリカはその山岳地帯にビンラディンとオマル師が潜んでいるはずだと、猛烈な航空爆撃と地元のタリバン勢力を手先に使いつつ、特殊部隊による洞窟捜索をを展開しています。こんなところが現在の状況です。
この約二か月のアフガン攻防戦を振り返って、改めて私は思うのですけれども、私はもう少しタリバンが頑強に抵抗すると思っていました。ところがタリバンの崩れ方は早かった。かつてタリバンを含むアフガニスタンの人たちは、ソ連の侵略軍に対して果敢に戦い、戦車や装甲車、武装ヘリコプターなど現代的軍備を持ったソ連軍部隊に大きな損害を与えて、ソ連軍に侵略をあきらめさせ、結局追い返したわけですね。この前例を知っているので、多くの識者は地の利を知り尽くしたタリバンが米軍にそうやすやすとはやっつけられることはないと見ていたわけです。ところが今度の場合、タリバン軍は瞬く間というと何ですが、2か月そこそこでひどい打撃を受けて後退しているわけです。
おおかたの軍事専門家の予想に反してタリバン部隊の敗退と崩壊が早かったのには、いくつかの要因が指摘できるでしょう。
第1は、米軍航空爆撃の未曾有のすさまじさです。米軍機は地上から発射されるタリバンの対空ミサイルが届かない高空から、飛行場や兵舎などの重要施設をレーザー誘導爆弾などですべて破壊しました。そして、野外に構築されたタリバンの防御陣に対しては、1発で202個の子爆弾を散布し8万平方メートル以内にある装甲車も陣地もすべてやっつけてしまうクラスター爆弾を多数投下し、また山岳地帯の洞窟陣地に対しては地下深くまで貫通し爆発する爆弾、あるいは核爆発級の破壊力があり、付近の空気中の酸素を燃焼して全生物を窒息死させる「気化爆弾」を投下し、洞窟内や出入口を崩壊させ、多くのタリバン兵を殺したり生き埋めにしました。
第2は、高性能カメラや人間の体温を感知するセンサーを備えた偵察機、電子戦航空機や無線交信傍受施設、宇宙からは偵察衛星、夜間透視装置などの最新テクノロジー装備を動員して、タリバンの司令部や陣地の在り処を把握し、航空爆撃を効果的にしました。
第3は、北部同盟始めアフガン各地で反タリバン勢力の決起、米英軍との共同作戦の展開、つまりアメリカお得意の戦争の「アフガン化」です。彼らは米軍やロシア軍から補給を受け、タリバン部隊を攻撃し、あるいは山岳地帯の良く知っているタリバンの洞窟拠点に米英軍特殊部隊を案内したり、航空爆撃に正確な目標を提供したりした。こうしたことは、かつてのソ連軍の侵略戦争時にはソ連が望んでも得られなかったことで、今回の米英軍に有利な条件でした。
第4は、タリバン政権がその悪逆非道の悪政によってアフガニスタン人民の支持を失っており、まったくと言ってよいほど孤立していたことでした。タリバンへの怒り、恨み骨髄に達している民衆からタリバンは見放された。タリバン軍はアメリカから鉄槌のような未曾有の爆撃を連続的に加えられていることによって、士気も高まらなかったであろうし、補給線は切られていくであろうし、兵士もどんどん失われていく。悲観的な状況の中で、タリバン軍は敗走した。いずれにしても人民の支持を失った軍隊というのがいかに脆弱か、あらためて歴史の教訓として目のあたりにしつつあるという感じがします。
■クラスター爆弾というもの
タリバン攻撃の戦況を見る場合に、非人道兵器の使用という問題は、私たちは大いに注目していかなければいけない問題だと思います。アメリカはいろいろ非人道兵器を使っております。まず最初に、クラスター爆弾(収束爆弾)から見ていきたい。
CBU87、CBU103という2つの型の爆弾が使われています。それぞれの1個の爆弾が202発の子爆弾を内蔵している。高高度あるいは中高度で航空機から投下するのですが、数百メートルぐらいの高度でバーンと豆の莢がはじけるように、202個の子爆弾がバラバラと空中に飛び散る。地上近くに降ってくると子爆弾が連鎖的に爆発するわけです。5キロ四方という非常に広い地域に散って、一挙に爆発する。一つ一つの子爆弾は鋼鉄でくるまれた爆弾ですから、空中で爆発すると地上にいる戦車とか装甲車とかも破壊される。
そんな子爆弾で戦車が破壊されるとは変だと思われるかもしれませんが、戦車というのは正面から撃ってくる砲弾に対して防御するために、正面装甲は非常に厚くできています。だいたい最新式の戦車だと、50センチくらいの対弾装甲を持っている。側面も強く作ってあります。ところが天井は弱いわけですね。地面に向いているお腹、裏面も弱い。全部装甲を厚くして防御力を強くしますと、重くなって身動きがとれない。そこで合理的に装甲の配置をするわけです。上部の装甲は薄いわけですから、上から子爆弾に襲われると戦車装甲車もやられてしまう。もちろん塹壕の中に入っている生身の人間などはズタズタにされてしまう。
クラスター爆弾は、このように非常に大きな広い範囲の破壊力を持つのですけれども、同時に申し上げなければならないのは、アメリカ軍はこの202個の子爆弾の中に、一定量をあらかじめ不発弾として計算して、入れこんでいることです。コソボ州で使用した実例での計算だと7パーセントが不発弾。最近の研究では、10パーセントから30パーセントまでの割合で不発弾が入っているというデータも出ております。
不発弾を始めから仕組んでいるとどうなるか。爆発しないで地面に散らばるということです。子爆弾は黄色いきれいな色をしているんだそうです。で、アメリカは黄色い色の袋に入れた「人道的援助」の食糧も航空機から投下しているわけですから、黄色い袋の食糧と収束爆弾の黄色とが隣同士に置かれるという場面も、なきにしもあらずということになります。アフガンの子供は何だろうと思って拾い上げる。そうすると爆発する。その子爆弾の中には細かい鉄片だとか、プラスチックの細かいピースとか、いろいろ詰まっていて、爆発すると体中に突き刺さる。こういうものが多用されているわけであります。
■その他の非人道兵器
バンカーバスター爆弾(地中貫通爆弾)というものが使用されています。湾岸戦争で最初に使用されました。私は湾岸戦争の直前からアメリカに行っておりました。湾岸戦争が終わった後、ワシントンDCのモールという有名な広場で米軍の戦勝記念式があって、そこでいろんな兵器の展示が行われたのですが、初めてバンカーバスター爆弾を見ました。すごい爆弾だと思いました。
冷戦終結、ソ連の崩壊でアメリカの海軍の戦艦がいらなくなってきた時に、湾岸戦争が起きました。その時兵器廠がストックとして持っていた戦艦の主砲の予備品に注目し、それをチクワを切るみたいにぶつ切りにして爆弾の胴体にしたということです。大砲の砲身ですから真ん中に穴が通っています。火薬を入れるのにちょうどいいというので、それを爆弾に作った。誰かアイデアマンがいたのですね。1個で2トンくらいの重さの爆弾を作りました。
それを航空機で運び高空から落としますと、重力で30メートルくらいは地中に突き刺さる。信管は先頭に置くとすぐ破裂してしまいますから後ろの方に付けておくと、着弾のあと、ちょっと遅れて信管が作動し、地下で爆発して、地下構造物を破壊できる。地中で爆発すると周囲の大地による閉塞状態を内側から押しのけるので、爆発力が相当に大きくなり、原爆なみの威力を発揮するとさえ言われているわけです。
バンカーバスター爆弾は、タリバンの潜む山岳地帯の洞窟陣地の破壊に多用されています。現在ではかなり初期より改良されています。大砲の砲身の廃物利用よりも、例の劣化ウランを弾体に使い、いよいよ重くなって、より地中に貫徹力が強くなっています。
また、まだ使われていませんけれども、注目しなければならないのは、ミニ・ニューク(小さい核)、B61-11核爆弾が、現在開発されて出場を待っていることです。広島・長崎型の何十分の一という威力の、非常に小さい核爆弾ですね。300トン程度のTNT爆弾に相当する。とはいえ、凄い威力です。10トントラック30両分の火薬と同じ威力を、小さな核爆弾の中に仕掛けてあるのですから。米軍は1998年にアラスカで実験済みで、高高度から投下可能で、地下6メートルまで達してから爆発すると報じられています。山岳戦で米軍に死傷者が多くなる状況が来れば出番が来ます。
燃料気化爆弾(デージーカッター)という爆弾も使用されています。BLU82。最初に使われたのはベトナム戦争の時です。密林の中にヘリコプター基地を作る時に、これを落としたのですね。一発落としますと、樹木をなぎ倒し、焼き払い、高等学校の運動場程度の広場ができて、ヘリコプターの発着場になる。7トンという巨大な爆弾ですが、高い空からパラシュートをつけて落とす。中には油がいっぱい入っていて、空中で割れると燃料が雨のように降ってくる。適当な高さを計って火をつけますと、半径数百メートルという空がいちめんに燃え上がります。高熱で下にある建物が全部燃えていく、同時に衝撃波が伝わって、ありとあらゆるものが潰されてしまうわけです。
衝撃波の恐ろしさを直接知っている人は少ないでしょうが、報道によると北海道などでは、たった一機の戦闘機の衝撃波、音速を超える時に出る空気波なんですけれども、それが民家の屋根を壊したりベランダを壊すとか、いろんな被害を起こすそうです。たった一機の戦闘機でもそのような被害が起きるわけですから、空中全体が火の海になるということは、たいへんな衝撃波が生まれてくるわけであります。ペースというアメリカの統合参謀本部の中将は、これが「爆発すると地獄になる、目的は人を殺すことだ」と説明しているわけです。無差別の殺人であります。
今日の新聞では、アメリカ軍はいよいよ洞窟退治戦になったら毒ガスを使うと書いています。もう一つは水です。洞窟にホースで水を注ぎ込んでいくと、中の人たちはひとたまりもないわけですね。どこかの出口から外へ逃げだすしかない。米軍はそれを外で待っていて、彼らを撃ち殺そうという段取りです。毒ガスは言わずもがなですが、「水兵器」も非人道兵器です。
■誤爆について
ここで誤爆について簡単に述べておきたいと思います。誤爆というのはいまお話しした大量殺人用非人道兵器とやや違う概念なのかも知れません。誤爆というと、本来当たるべきところに当たらないで的から外れたんだと、そういう感じが強い言葉であります。しかし誤爆にはいろんな原因があります。そしてアフガニスタンの多数の無辜の人たちがこれで殺されたり傷ついたりしています。
誤爆にはいくつかの要因があります。一つのは機械のミスです。機械はいくら精密に作っても機械です。世界的な企業の作る時計でも、やはり一年に何秒かの狂いは避けられない。時刻を正確に刻む原子時計とか、天文台あたりが使っているものはありますが、そういう超精密機器を私たちは日常的に使うわけにはいかないし、まして兵器に載せるわけにはいかない。
軍事用語ではCEP、円形半数必中径と言います。爆弾を投下した時に半分がどれだけの半径を持つ円形の範囲内に入るか(半分はこれ以外の所に落ちる)という、そういう確率で兵器の性能を表すわけです。現在スマート爆弾ならば、だいたい数メートルから十数メートルというCEPです。半分はこの中に当たる。それではスマート爆弾の意味がないではないか、そんな程度に甘くてはダメではないかという意見があるかも知れません。しかし軍事の歴史で言えば、これでも非常に正確な、優秀な兵器の性能を示すことになるんです。
ベトナム戦争を思い出して下さい。ハノイ近郊の鉄橋を爆破するために、米軍がどれだけてこずったか。米軍の戦闘爆撃機が急降下爆撃で降りてきて、狙った鉄橋に爆弾を投下する。そして自分は反転して逃げる。一方、鉄橋を防備するベトナム側はライフルでも機関銃でも空に向けて待っているわけです。そして一直線に降りてくる米軍機に対して砲火を浴びせる。その中で、若い女性の民兵がライフルでジェット機を撃ち落とすなどという武勇伝が生まれました。ハノイの鉄橋に命中弾を浴びせられない。そこで米軍が考えたのが、新しいスマート兵器です。
スマートというのは「お利口さん」という意味です。精密爆弾をみな一括して「スマート爆弾」と呼ぶんです。スマート爆弾はCEP10メートル程度の精密さで落ちるように設計されているのです。相手が鉄橋なら、十数メートル狂いがあってもどこかに当たるわけです。
誤爆の第二の要因は、主として気象です。投下した爆弾が風に流されるなどで狙いから外れるのは容易に想像できるでしょう。また夜はなかなか目標が正確に見えないわけです。赤外線透視装置を使っても昼間のようには見えない。カラーでなく白黒にしか見えないわけですし、遠くになるとますます分からない。そういうわけで、夜は目標が定めにくいとか、雨が降っているとか、昼間でも曇りの日とか、霧がかかっているとか、いろんな気象条件を考えると、なかなかターゲットがきちんと見えない。そして爆弾を投下しても外れてしまう。そういう問題が起きます。
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