2001年12月8日開催
平権懇15周年記念シンポジウム

米軍のアフガン報復戦争と自衛隊の戦争参加を問う
主催・平和に生きる権利の確立をめざす懇談会

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米英の対テロ報復戦争と自衛隊「戦時」派遣:2

西沢 優

■人為的なミスによる誤爆

 誤爆の第3の要因は、人為的なものです。人間が爆弾を落とすわけですから、パイロットの戦場の異様な緊張感や極度の疲労、そして自分の命惜しさの恐怖感などに起因するミスから生じる誤爆です。

 例えば地上に敵の施設や破壊すべき目標があるとします。航空機からレーザー誘導爆弾を投下するために、目標に対してレーザービーム線を張る。光線ですから、当たった目標から乱反射します。そのいちばん強い光が出て来るところをめがけて、爆弾が突っ込んでいくわけです。爆弾の先端でどっちの方向から主な光が来るかをかぎとる。すると爆弾についている魚のヒレのようなものが動いて、方向を調整しながら目標に向かって落下していく。だから誘導爆弾と言われるのです。

 ですから、機上のパイロットはレーザー爆弾がぶつかるまでジーッとレーザービームを張っていなければならない。ぶつかった瞬間に自分が反転すればいいのですけれども、これがなかなか難しいのですね。パイロットはいつ撃たれるかわからないという恐怖感を持つわけですから、途中で恐くなって反転すると、レーザーはとんでもない方向へ向いてしまって、爆弾はどこかとんでもない所に落ちる。こういうことが頻発するわけであります。

 それから、目標の見誤りもあります。NHKテレビで江畑謙介氏が説明していましたけれども、タリバンの飛行場を爆撃する時に滑走路と間違えて誘導路に爆弾を落としてしまって、滑走路は無傷で、平行する誘導路に数個の穴がきちんと間隔をとって開いている写真がありました。

 数日前、家電製品を載せたアフガニスタン人のトラックがカブールの近所で爆撃を受けて壊されて、運転手が大怪我をして病院にかつぎこまれたのを、新聞記者がインタビューした記事が出ていました。なぜそういうことが起きるかというと、スマート爆弾を抱えているパイロットは、軍事用目標と民間用目標が区別できないからです。味方の艦船か敵の艦船か、敵の飛行機か味方の飛行機かは瞬時に区別できます。飛行機や軍艦は識別装置というものを持っているからです。トラックや戦車はそういうものを持っていない。ですから地上目標ではどれが敵なのか分からなくなって、やたらに壊してしまう。そういうミスが、現在進行している誤爆の非常に大きな部分を占めているようです。

 それに加えて、これはある所での講演で聴衆の方から指摘されたのですが、アメリカ兵には有色人種に対する蔑視感があるのではないかと。相手が白人だったら、こんなに目茶苦茶なことは多分やらないと思います。ましてアフガンの人たちに対しては、テロリスト組織アルカイダの味方ではないか、爆弾が当たっても当然の報いだ、ニューヨークのテロ事件の敵討ちだ、という恨みも重なっているかもしれません。

 以上、アスガニスタンでの米英の対テロ戦争における非人道的兵器の使用問題と、ひどい誤爆問題を見てきました。だから一部の方々は、確かにテロリストたちのニューヨークの超高層ビル爆破もひどいけれども、アメリカのやっていることは同じようにテロ攻撃で
はないか、という怒りの声を挙げていますけれども、私も本当に同感いたします。

■小泉政権・与党の動き

 日本政府は自衛隊を戦時派遣しました。小泉政権と与党が一緒になって、湾岸戦争の時には「大金を出したものの米国その他から評価されなかった」、あの轍を踏まじ、今度こそは「日米同盟のあかし」を立てようと、ひたすら米国の戦争政策の追随者になっているわけです。

 小泉首相はテロ発生から3時間後の12日午前1時前に、「卑劣かつ言語道断の暴挙だ」という非難声明を出した。そして11日の深夜に国際緊急援助隊の編成や、国内の米軍基地への警備強化などを指示しました。この段階での緊急援助隊を出せという小泉首相の命令が、自衛隊を意識してのことはあることは言うまでもありません。しかし自衛隊を海外に出すには国会の承認が必要ですから、さすがの小泉もそこまでは言わずに、国際緊急援助隊という言葉の中にくるめて言ったのだと思います。

 前後して政府や与党内からは「制裁」の準備をすべきだという意見のほか、不審船の侵入などに備えた法整備や、「有事法制」の論議を加速しろとか、集団的自衛権の行使ができるよう政府解釈を変更せよとか、さまざまな論議が噴き出しました。9月の12日、13日あたりの新聞を読み返すと、あらためてそのすさまじさが浮かんできます。

 指摘しなければならないのは、この背後にはアーミテイジ米国防副長官の意向があったことです。アーミテイジは2000年10月に米国内の日本問題に通じた超党派の安全保障専門家がまとめた、米国防大学国家戦略研究所の特別報告、対日政策提言の中心的起草者です。

 この報告書は、日本は集団的自衛権行使を可能にし、海外出兵して米軍のためにちゃんと働けるよう準備せよ、日本は英国のような本当の同盟国として責任を果たせ、と主張しました。アーミテイジはテロ事件が起きると、柳内駐米大使を通じ、「ショー・ザ・フラッグ」と対日要求し、アフガンに対する報復戦争を準備しつつあった米軍に対する自衛隊の後方支援をつよく要請しました。政府・与党もアーミテイジの要求にいかに答えるかと、ひたすら懸命にやっています。

 日本政府は、米側の要求に答えて自衛隊のインド洋、アラビア海とパキスタンへの派兵、米軍後方支援活動を行うことを、最初は周辺事態法の適用でやっていこうとしました。しかし、これは無理だとわかりました。周辺事態法を適用すると、いろんな矛盾が起きてくるわけです。周辺事態法の国会審議では、米軍への兵站補給活動は前線とは一線を画した後方まででなければならない、決して戦場には行かないと説明しました。また周辺事態の定義をめぐっては、1998年5月22日、高野紀元元外務省北米局長(2001年12月現在外務審議官)が「周辺事態が中東やインド洋で発生することは想定できない」「極東とその周辺を概念的に超えるものではない」と発言し、その後更迭されたという経緯があります。ですから、インド洋だのパキスタンだのという遠い所の話になってきますと、周辺事態法の時の説明が成り立たないわけですね。そういうことが主な理由になって、政府首脳は周辺事態法の拡張解釈では難しいとして、テロ対策特別措置法を作ったわけです。

■テロ対策特別措置法の諸問題

 10月29日、衆参両院におけるスピード審議でテロ対策特別措置法「自衛隊参戦法」が成立して、自衛隊の海外戦時派遣に日本は踏み出しました。この法律は安保法体系を超えるものなんです。安保法体系で作ったのが周辺事態法ですが、そうではないものとして作った。

 一つは、テロ対策法で支援する相手は、「外国の軍隊等」です。アメリカだけでなくていろんな国々がみな入ることです。憲法違反の集団的自衛権行使を絵に描いたようになっています。米日関係でも集団的自衛権行使が問題になっているわけですから、ましてやイギリスとかトルコとかイタリア軍とかを守らなければならない、そういう外国軍隊に対して兵站補給をするということが、日本の憲法上許されないことは明々白々であります。

 2番目の特徴は、周辺事態法をはるかに超えて、派兵地域が地域的に無限定だということです。これは国会で大臣が何回もきちんと答弁しております。ですから、これも周辺事態法どころではない、恐るべき新法の特徴であります。したがって戦闘地域とそうでない地域は、ますます区別はきわめて困難になるわけです。米軍が戦闘地域に指定していてもいなくても、要求された所に補給物資を持って行く、米国を中心とする多国籍軍隊の作戦行動を支えていくという、恐るべき法体系が今度できてしまったわけです。

■自衛隊の米軍支援基本計画

 テロ対策特措法に基づき、米軍などの軍事行動への支援とアフガニスタン難民救援の枠組みを定めた基本計画は、11月16日、閣議決定されました。インド洋に展開する米軍への燃料や食料の補給・輸送活動が中心で、パキスタンへの難民救援物資の輸送も織り込まれました。

 基本計画は「国際的なテロリズムの防止、根絶のため憲法の範囲内でできる限りの支援、協力を行う」と明記した上で、米軍などへの協力支援活動、米兵らの捜索救難活動、被災民救援活動の三つの活動を想定しています。

 活動の中心となる協力支援活動としては、海上自衛隊の補給艦2隻、護衛艦3隻と航空自衛隊の輸送機6機、多用途支援機2機があたると定めました。
 活動内容は、米軍への補給、輸送を中心に、米艦隊などの修理・整備、医療、港湾業務を盛り込んでいます。

  • 艦船の活動地域は、ペルシア湾を含むインド洋、米軍軍事拠点ディエゴガルシア島、オーストラリアなど。
  • 自衛隊航空機はグアム、ディエゴガルシア島を含むインド洋などを活動範囲に、人員、物資を輸送。
  • 自衛隊航空機、艦船などで米兵らを捜索救助。
  • 掃海母艦でパキスタンの被災民に物資輸送。
  • 派遣期間は半年間とする。

 なお、イージス護衛艦派遣は、与党内の反対が強く、またタリバン政権が事実上崩壊するなどの戦況の大きな変化で必要性が薄れたとして、派遣は見送りとなりました。

■米軍「コンバット・ゾーン」の中で

米英主導軍のアフガン攻撃展開とコンバットゾーン
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 アフガニスタンに対する米英のテロ・報復戦争への自衛隊の協力支援は、米軍が定めた「コンバット・ゾーン」(戦闘地域)の中に入って行われています。
 米軍の「コンバット・ゾーン」は、「作戦の実施のために戦闘部隊から要求される地域」と定義されています。

 今回の対テロ戦争では、11月1日までに、

  • アフガニスタンとその空域
  • アフガニスタン近くの海域
  • パキスタンアラブ首長国連邦
  • 紅海
  • アデン湾およびオマーンとオマーン湾
  • アラビア海---北緯10度線の北、東経68度の西---
  • キルギスタン
  • ウズベキスタン
  • タジキスタンなどが指定されました。

 「コンバット・ゾーン」内で戦闘活動に参加する陸海空の米兵には、1か月100ドルから150ドルの特別手当が支給されます。

 「コンバット・ゾーン」の後方は、「コミュニケーションズ・ゾーン」(兵站地域)と規定されています。インド洋上のディエゴガルシア基地やサウジアラビアの首都の東南に位置する米軍航空作戦拠点、プリンス・スルタン航空基地(米兵約5,000人)などは「コミュニケーションズ・ゾーン」の中にあります。

 派遣された海上自衛隊艦隊のうち補給艦はコンバット・ゾーン内のアラビア海でアフガン空爆を実施する米空母機動部隊の艦船に洋上給油し、飲料水や各種戦闘資材を補給し、護衛艦は洋上補給活動の護衛任務を遂行するのです。このように海上自衛隊艦船が行っているのは、まぎれもない戦闘行為と一体化した兵站補給活動であり、違憲の集団的自衛権行使以外の何物でもありません。

 小泉内閣と防衛庁は、こうした重大な違憲行為を覆い隠すために、特措法の国会審議であっと驚くような詭弁を用います。

 1つは、米軍がアフガニスタン攻撃に使用している巡航ミサイル・トマホークの発射が「戦闘行為」に当たるかどうかについて、10月24日、参議院での政府と日本共産党議員の論争において、中谷防衛庁長官「戦闘行為ではない」と言い張り、津野内閣法制局長官もそれを追認し、必ずしも戦闘行為とは言えないと言明しました。あまりにひどい見解のため、後にその誤りは修正されました。

 もう1つの詭弁は、米軍コンバット・ゾーン内でアフガン爆撃を遂行する米空母艦隊へ給油や補給・輸送支援を実際には行っても、法律的解釈の上では自衛隊の活動地域は「米軍の戦闘地域から排除されている」ことにする、という論法です。言い換えると、米軍の「コンバット・ゾーン」の定義と自衛隊の「戦闘地域」は定義が違うから、自衛隊が「戦闘地域」と認めていない地域なら構わない、という詭弁です。

 小泉首相は10月24日の参院外交防衛・国土交通・内閣委員会の連合審査会で、テロ対策特別措置法案に基づく自衛隊の活動範囲について、「米国では物資補給を受けるところも『コンバット・ゾーン』に入るが、日本でいう『戦場』とは違う。戦闘が継続的に行われないと判断すれば、そこで協力できる」と述べ」、米軍のコンバット・ゾーン内での活動も可能との見解を示しました(『読売新聞』10月25日付)。

 いま政府・防衛庁の2つの詭弁を指摘しましたが、前者はすでにつぶれてしまい、後者の詭弁によって、自衛隊の戦争・戦闘加担が行われているのです。

 こうして自衛隊と米軍との一体化が進み、自衛隊が「事実上の補給部隊」になる仕組みを、『東京新聞』10月30日付が比較的正確に報じましたので、次に紹介しておきます。

 「派遣される自衛艦は、国内で調達した水や燃料、沖縄やグアム島の米軍物資を、米軍の補給基地があるインド洋上の英領ディエゴガルシア島まで運ぶ。その後、同島を拠点に米空母戦闘群との間で燃料・食料などの物資がピストン輸送される。
 その活動範囲は、憲法が禁じる武力行使との一体化も避けるため、非戦闘地域に限定している。しかし政府は、米軍が指定したコンバット・ゾーン(戦闘区域)内でも、日本側が継続して戦闘が行われないと判断すれば、非戦闘地域に該当するとの立場。空母から艦載機が戦闘作戦行動のために離陸したり、ミサイルを発射しても、その合間であれば米艦に対する補給・輸送などの支援は可能としている。
 このため、非戦闘地域は有名無実化し、自衛隊は米海軍の補給部隊に事実上、組み込まれてしまう」。

 戦場の実際を考えれば誰にも分かることですが、現に敵の戦闘爆撃機や敵艦船と撃ち合っている時に、給油その他の補給などはしません。したくても出来ることではありません。敵機や敵艦船を撃破したり、あるいは彼らが立ち去った時に補給活動へ移るのです。政府の言い分は、敵との砲火の応酬が終われば「戦闘地域」がたちまち「非戦闘地域」に変わる、といった子供だましにもならない詭弁なのです。

■艦隊派遣の実情

“対テロ戦争”での、自衛隊初の“海外戦時派遣”
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 いま6隻の海上自衛隊の艦船が派遣されています。この中に掃海母艦「うらが」というのがありますが、これは避難民救済のための物資をパキスタンのカラチ港に運ぶためです。積み荷はテントや毛布。カラチ港に荷を下ろしたらすぐに引き返してくることになっていて、戦闘行動には加わらないわけです。

 避難民救済の物資を送り届けるという条項をテロ対策法に入れたのは、これまた政府の悪巧みです。民主党ははじめこれを別な立法にしろと言っていましたが、米軍や多国籍軍への戦闘支援のための諸条項と人道的支援の活動を一個の法律に組み合わせたのですから、非常に紛らわしい。横須賀の市民グループは敢然と批判しました。カラチにテントや毛布など運ぶのに、なぜ軍艦でなければいけなのか、貨物船の方が安上がりだし、日本国憲法にふさわしい、と。しかし小泉内閣と防衛庁はどうしても軍艦を派遣したくて、世論の批判に耳を貸しませんでした。

 3、4日前に新聞にカラーで、アメリカ海軍のサクラメント型補給艦に海上自衛隊の補給艦「はまな」が洋上給油している写真が出ました。12月2日にアラビア海で行われたシーンだと海上自衛隊が発表したものですが、まるで子供が巨人に補給しているような、変な感じを与えるものです。

 日本の新聞の一部には、日本の補給艦がなんでアメリカの補給艦に給油するのか、おかしいではないか、「補給艦は通常、護衛艦や空母に補給し、他の補給艦への提供はあまり例はない」という批判的記事が載っていました。別の新聞はそれに対して、海上自衛隊の「小さな補給艦が大きな米補給艦に補給するのは一件不釣合いだが、米補給艦が港湾まで戻り給油を受ける手間を省き、米軍の作戦行動を円滑にするのが狙い」だと、分かったような分からないようなことを書いていました。

 海自の補給艦がインド洋北部のアラビア海へ戦時派遣されたのは、アフガン空爆作戦に参加している米空母を含め、米巡洋艦や駆逐艦に直接給油するためです。これは憲法違反の集団的自衛権行使そのものに当たりますので、そういう写真は出せません。「はまな」から油の補給を受けた米補給艦が米艦へ給油するといった、実際にはありそうにない場面をあえて作って、日本の国民の非難をそらそうとしているのが真相なのです。

 派遣された護衛艦という名の戦闘艦船の活動はまったく秘密裏にやっています。基本計画では、詳細なことは実施計画で決めると言っておきながら、実施計画は全部秘密だということになった。そして現場での活動状況は発表しないのですから、国民は何も分からないで事態をうかがっているという、ちょっと秘密国家のような状況になってきました。

■イージス艦派遣中止の理由

 基本計画でイージス護衛艦の派遣が取りやめられたことは先ほど触れましたが、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

 イージス艦を、アメリカ海軍は約60隻持っています。今、海上自衛隊は4隻持っています。イージス艦のいちばん大きな特徴は、「SPY−1D」と呼ばれる対空レーダーを始め対潜水艦ソナーが非常に高性能だということです。そして対空ミサイルあるいは対潜水艦ロケットとコンピューターで統合し、空中、海上、地上発射の多数の的兵器を自動的に捕捉、追尾、破壊するという防御システムを搭載しています。ターゲットの大きさにもよりますけれども、500キロくらいの範囲で、高速で飛んでくるミサイルや航空機など空中にあるすべての運動体をとらえます。その中で自分の方に襲いかかって来るターゲットを100個くらい、瞬時に区別する能力を持っています。そして米海軍の他のイージス艦に対してこのターゲット情報をデータリンクで瞬時に送れるわけです。

 CICという戦闘指令室に座っていますと、そこで全部の戦場状況が映し出されます。襲いかかって来る敵の対艦ミサイルに対してイージス護衛艦は対空ミサイルで自衛するわけですが、その対空ミサイル発射のスピードがすごい。10数個の敵ミサイルが高速でほぼ同時に色々な方向から襲いかかってきても、それをみんなたたき落とせるという性能をもつと、米海軍は自慢しています。

 同時にイージス艦は、ターゲットの状況、つまり多数敵ミサイルや敵航空機の飛び交う戦意の状況を、味方のイージス艦へデータリンクを通じて瞬時に情報移転できます。このために、イージス艦はお互い離れていても同じ戦場状況の画像を各々の艦のCIC戦闘指令室で見ることができます。そしてこうしたデータリンク能力に基づいて、襲来するターゲットを分配して分担し、撃破できるのです。ほかに対潜水艦戦能力や対水上戦能力でも、めざましい能力を持っています。これがイージス護衛艦です。

 日本は4隻しか持っていないと言っても、米国と日本以外にはこんな高性能艦船を持っている国はどこにもありません。イギリスさえ持っていないんです。米海軍が海上自衛隊のイージス護衛艦をインド洋に派遣してくれと繰り返し要求したのは当然なんです。日本側にも海上自衛隊の最高性能艦をアメリカのアフガン戦争協力に出したい人はいっぱいいるわけですが、重大な障害が起きて断念に追い込まれました。

 イージス護衛艦派遣の目的は、ディエゴガルシア防衛でした。ディエゴガルシアはインドの南端から1,700キロ、インド洋の赤道を超えた南半球の珊瑚礁の環礁上にある大兵站基地です。そして同時に米空軍のB1B爆撃機やB52爆撃機のアフガン空爆の発進基地にもなっている。

10月26日付の『日本経済新聞』は次のように書いています。

イージス護衛艦の派遣は米側が要請しているもので、海自がイージス艦ディエゴガルシア島周辺の情報収集、警戒・監視に当たることによって、イージス艦を含む米艦隊がさらに北方のインド洋海域に展開することを可能にするのが目的だ」。

 また11月10日の同紙は、次のように書いています。

「米英軍が恐れるのはテロリストにハイジャックされた航空機が補給基地であるディエゴガルシア島を攻撃する事態があり、これを察知する情報収集能力を含めた防空機能を日本のイージス艦に期待する。日本のイージス艦ディエゴガルシアにいれば、米海軍のイージス艦をアラビア海に回し、そこに展開する米空母の警備に使える」。

 ディエゴガルシアは珊瑚礁で、のっぺらぼうですから、防御のための防空レーダーを置くにも効果的な場所がない。ふつうの地形なら高い山の上に防空レーダーを置くと遠くの方まで見えて敵航空機の警戒・監視に都合が良いのですが、そういう所がない。そこで米軍としてはディエゴガルシア基地の防衛のために、同島から数100キロ先のインド洋上にイージス艦を置きたい。イージス艦があれば、ディエゴガルシアを狙ってやってくる民間機ハイジャック・テロ攻撃に対して、これを洋上で撃ち落とすことができるわけですね。あるいは、イージス艦の防空ミサイルでは届かない殿委距離や方角からそのテロ航空機がやって来た場合には、「来たぞ」ということをディエゴガルシアの防空ミサイル部隊に知らせて対処できる。

もし海上自衛隊のイージス護衛艦が行かなければ、米海軍のイージス艦をこの任務に当てなければならない。空母防衛態勢を万全にしたいならば、米本国から貴重なイージス艦を増援する必要に迫られる。これが海上自衛隊のイージス護衛艦をインド洋へ派遣してほしい米軍の狙いです。

ところが、英国領土であるディエゴガルシア環礁に作った米軍基地を直接防衛するために海上自衛隊のイージス護衛艦を配置すると、憲法違反 (集団的自衛権行使) が丸見えになるという難題が浮かび上がった。そのために自民党の中でも橋本氏など少し目端のきく政治家たちから反対論が出た。防衛庁長官はじめ自衛隊首脳はイージス護衛艦の派遣に固執した。それで「出す」「出さない」で大もめにもめた結果が出さないことになりました。

しかしまだアメリカはあきらめないで、米国のベーカー駐日大使は名古屋市内で講演し、日本のイージス護衛艦派遣断念に「失望」した、と強い不満を表明しました。

こうして11月25日、イージス艦を除いて、護衛艦「さわぎり」、補給艦隊「とわだ」、および難民救援物資運搬の掃海母艦「うらが」の3隻が横須賀基地を出港しました。「うらが」は別行動ですが、上記の2艦は先行派遣された護衛艦「きりさめ」、同「くらま」、補給艦「はまな」とともに計5隻の派遣艦隊の態勢で、インド洋とアラビア海での作戦を行っています。


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