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いま、平和に生きる権利を主張しよう 
――日本核武装につながる改憲動向に抗して

【3】 アメリカから読む
●周辺諸国の脅威を、故意に作り出している
 さて、別の観点から改憲動向を見てみましょう。
 去年から今年にかけて、日中関係あるいは中台関係というものが厳しさを増してきたと、マスコミは言ってきた。それは何故だろうか。
 ある見方によると、中国と日本、北朝鮮と日本、これらが対立するという事態は、実は意図的に作り出されているのではないか、こういっています。それは何故か。
――憲法を改正して日本が正式な軍隊を持てるようにするためには、国民投票に成功しなければならない。そのためには周辺諸国が日本にとって脅威であるという状態の方がよろしい。そこで小泉政権は、憲法九条を改定するために、周辺諸国との関係を悪化させる方向へと事態を微妙に動かしているのではないか。【註9】
 意地悪い言い方をすれば、この見方は憶測にすぎない、あるいは説得力のある根拠があるのか、こうした反論がありうるでしょう。しかし、この見解を援護して言えば、これは実証的な研究成果であろうとしているのではない。これは、仮説の提示なのであって、こうした見方をすると、いま起きている事態をうまく説明できるかもしれない、という次第です。とすれば、この仮説の検証は、そもそも別の観点と作業を求めている、言い換えれば反論する側がその論拠をしめさなければならない、ということになるでしょう。
●ワシントンが発信し、東京が動き出す
 こう考えて、次に進むことにしましょう。そうすると、次のような情景が現れる。この小泉政権の動きは、ひとり小泉政権だけでなく、ワシントン、あるいはアメリカ主導のNATOの動きとも連動しているかも知れない、こういう情景です。例えば朝鮮半島で北の共和国政府の側が、日本政府とピョンヤン宣言を発表して平和的な関係あるいは秩序をつくろうとすると、ワシントンから北朝鮮の核疑惑が出されて潰れていくというのも、その一つです。とくに9・11事件(2001年)以降ブッシュ政権は「テロとの戦争」を大義名分にして、全世界で永続的な軍事覇権を進める動きをすすめている。北朝鮮とイランの核疑惑を追及する。世界190余りのうち、その130に及ぶ各国に米軍の基地をおいている。その世界中の米軍事基地の網を再編しつつあり、その一環として日米軍事同盟を強化しております。それは1960年安保条約の枠をまた壊して、21世紀の日米軍事同盟に再編する。例えば、横田基地を極東をはるかに越えてアジア全体の司令塔に役割変更するというのも、そうした動きの現れです。こうした中で、小泉政権は、ジュニアー・パートナーだから、ブッシュ政権から自立できない。アジアで自主的な外交活動をしようとすると露骨な妨害を受ける、この意味で冷たく処遇されているといえるのではないでしょうか。
 他方では昨今、北京がワシントンの言うことを聞かなければ、日本に核武装させるぞということを言った。これは現政権の副大統領であるチェイニーが言っていますし、共和党の上院議員も言っているし、マスコミのジャーナリストたちも言っている。これを受けて、かつて日本の防衛大学校の校長であった西原正氏も同じような発言をする。そこで、毎日新聞の調査によると、先ほど行われた衆議院の選挙では、議員の17パーセント、83名が日本の核武装はあるべしと言うようになっているということであります。【註10】このように、「力の支配」を作り出すように、ワシントン発の情報操作によって、ある情勢が作られています。日本が改憲推進の方向に向かうように、陰に陽に情報操作が続けられている。
 これがチェイニーらのやっている軍事ゲームの現れ、あるいは中国の軍事力強化に対する外交カードだとしても、われわれは これを見抜いたうえで、日本の核武装化に対して強く反対する必要があるのではないでしょうか。これを批判し告発する作業をする、このことを通じて「力の支配」に対抗する「法の支配」優位の状況をつくりだすために活動する。こうした役割が、知識人と自覚的な市民たちの活動にはあるのだと、ぼくは思います。
●アメリカは自滅するのか

 こういうわけで、改憲論の背景になる動きの焦点として中国の問題を挙げましたけれども、次はアメリカの状況について少し触れてみたいと思います。
 実はいまから二年まえ、2003年3月、ちょうどアメリカがイラクに対する武力行使を始めた日(ニューヨーク時間では3月19日)のことを思い出しますと、私はマンハッタンのタイムズスクエアのホテルにおりました。そこで、反戦のデモンストレーションに加わったわけではありませんが、攻撃開始を告発する集会と反戦デモをする人々を見てきました。20日にはサンフランシスコに飛びまして、ここでも反戦デモとめぐり合いました。
 サンフランシスコで、たまたま、「日米タイムス」という新聞社に行きました。昨年秋も深まったころ、この「日米タイムス」から突然、新聞記事を書いてほしいと頼まれました。1月1日号で、「来年はどうなるか、占い記事を特集する」から、書いてくれというのです。私は引き受けました。この号では、来年のことを言うと鬼が笑うと書き出している人もいますが、ここで述べた自説を紹介させていただきます。

 IT技術が発達した結果、日本にいてもアメリカ本土の情報は即座に手に入る。2005年の予想には次のようなものがある、と書きました。
 ひとつ。モルガン・スタンレーのステファン・ローチが書いた(2004年)11月23日の記事がある。それによると、「アメリカは間もなく不況に陥る可能性」が30パーセント、「しばらくは延命できるけれどもいずれ破綻する可能性がある」が60パーセント、「破綻しない」可能性は10パーセントにすぎない。何故か。そのわけは、アメリカの経常赤字がドルを下落させ続けていて、アメリカの中央銀行に当たるFRBは国債発行を消化するために金利を上昇させるからだというものです。
 もうひとつの情報。アメリカ経済の破綻を防ぐためには、まずは財政赤字を減らすことが必要です。ところがこれはきわめて難しい。例えばイラク侵攻直前の2003年初め、アメリカ政府は毎月の戦費を22億ドルと概算していた。ところが完全にゲリラ戦の泥沼に入っている2004年末には、毎月58億ドルが消費されたというのです。そのために財政赤字の上限が8,000億ドル引き上げられて、81,800億ドルに改定されました。アメリカの政界では、今年中にふたたび上限の引き上げを行う必要があると予想されています。そこでアメリカの国債のデフォルト、債務不履行が日本や中国を含む投資家の懸念として立ち上がっているといいます。リプロン・ポールが書いたもので、「アンチ・ウオー・コム」2004年11月20日付に出ています。
 そこで最後になりますが、次のような見解があります。日本の支配層は、強いアメリカの傘のもとにいることで、覇権を求めないで安定を維持したいと考えてきた。しかし二期目のブッシュ政権はアメリカを自滅させる可能性があるというのです。アメリカの製造業やアメリカの流通市場を固守するのではなくて、アメリカの資本、多国籍化した資本が全世界を市場として展開する。その結果、資本の最高利潤を追求する方針を採ろうとしているのではないかということです。ここにはアメリカ合衆国政府のいう国益なるものと、アメリカの資本を中心とする総資本との間の緊張関係があるはずです。
 私の見るところ、「来年の展望は」と聞かれると、占いだから「当たるも八卦、当たらぬも八卦」ということになります。見所は、世界にとっても日本にとっても、アメリカがドルの自滅と泥沼のイラク戦争を続けるかどうかでしょう。もし、このとおりの戦略と政策を今後も続けるなら、アメリカと日本はきっと自滅するということになるということです。【註11】

 だが、この将来展望の成否には、無数の不定関数が関係しているから、その占いは確かな「預言」とは厳しく区別されるものだ、ここではそういう留保を付け加えておきます。

●新しいアメリカの軍国主義
 アメリカのイデオローグのひとりとして、いま日本で注目されているのは、チャルマーズ・ジョンソンかと思います。【註12】彼の書物は日本でも数冊翻訳されていまして、アメリカの対外政策を続けていけばアメリカ本土自体が危なくなると予告していた。それは1995年のテロ攻撃の後、さらに同様な攻撃が行われると言っていた、その通りに2001年9月11日の事件が起きたということで、予言が当たったと述べています。
 ところで、最近目についた一人がアンドリュー・ワシェビッチです。ワシェビッチという人はオクスフォード大学出版からこのほど『新しいアメリカの軍国主義』という書物を出しました。ワシェビッチは、ブッシュ財団の援助でベルリンに留学した軍人上がりの人です。今でも自分はリベラルではなく、どちらかというと右側の者だと言っています。このワシェビッチがぜひ参照してほしいと言っているのがチャルマーズ・ジョンソンです。もともとジョンソンは、ライシャワーの後の日中研究講座の教授になった人で、今日アメリカの外交政策に対して厳しい見解を述べている人ですが、そのジョンソンの見解(『アメリカ帝国の悲劇』)を読むように強調しているのが、ワシェビッチなのです。
 ワシェビッチがどういうふうに言っているのか。
 ――現在のブッシュ政権はベトナム戦争以来の軍国主義路線をさらに発展させようとしている。このように考えると、9・11はアメリカ全体の軍国主義化路線のひとつのきっかけであるにすぎない。その特徴は、財政上の無責任、外交政策における奔放さ、それから憲法自体の無視だ。【註13】
 ベトナム戦争帰りでコンサバティブの立場に立つ知識人もまた、アメリカの新しい軍国主義に対して痛烈な警鐘を鳴らしているといえます。
●日本の軍事化とブッシュ・ドクトリン
 アメリカのノーチラス・インスティチュートはカリフォルニアに本拠を持っていますが、ここの准研究員にタンターという人がいます。リチャード・タンターは、14年間(1989 -2003)京都精華大学で国際関係の教授だったそうで、この間南アジアと北アジアの安全保障問題を研究してきたといっております。タンターは今年二月、「日本の軍事化とブッシュ・ドクトリン」の関係を論じています。【註14】その見所は、ブッシュ・ドクトリンに組み込まれることで、日本には核兵器国となる選択肢が示されると主張している点でしょう。この点がとりわけ注目されるのですが、それに先立つ2、3のポイントを、すこし長い引用になりますが、忠実に紹介しておきます。まず、日本の軍事化の進行について記述しております。
 ――憲法第9条の改憲論の背後で、じつは次のような軍事化が進行している。改憲問題は2つの要素からなり、ひとつは明文改憲、もうひとつは実質改憲あるいは解釈改憲だ。実質改憲は次のように進んでいる。1989年に始まった「平成の軍事化」は、「昭和の軍事化」とは異なる。両者は冷戦終結で区切られ、対照的なものとして捉えることができる。「平成の軍事化」のプロセスは、日本の軍部が戦略攻撃兵器と大量破壊兵器を獲得する可能性を強める点に重大な特質があると強調している。
 もちろん今はアメリカの軍事戦略、日米同盟の許す範囲内ではあるけれども、しかしこのことが日本の民衆の議論を大いに刺激している。【註15】

 ここまでの記述は、ほぼまったく異論のないところでしょう。
 タンターの議論の特徴は、日本は核武装へ向かって進もうとしているが、それはブッシュ・ドクトリンと連動することによってそうなるというのです。彼はブッシュ・ドクトリンを6点に整理しています。
    1. 国際警察と情報協力、国境と移動のコントロール、そして国内安全を増大させる相互連携に参加する 
    2. アジア太平洋地域で先制攻撃の権利を主張する 
    3. アフガニスタン戦争を支持し、航空自衛隊・海上自衛隊を展開する
    4. 核不拡散条約の先制安全保障措置に参加する
    5. イラクに陸上自衛隊、ペルシャ湾に航空自衛隊・海上自衛隊を展開する
    6. ミサイル防衛に関与する【註16】
 これをブッシュ・ドクトリンとして設定しまして、これらの中でイラク派兵とミサイル防衛の2つは戦略的な不安定性の増大と並んで、長期にわたる費用と危険を課すものであると言っています。タンターによると、イラク派兵に比べてミサイル防衛のほうがもっと重要だ、ミサイル防衛に参加することは、深刻な長期におよぶ戦略的な帰結をもたらすからだ、と言っております。長いけれども、引用します。
――その問題は次の3つを含む。
 1.終わることのない軍事予算の要求、しかもアメリカの了承なしにミサイル防衛技術を輸出することの合法性、その発射を制御するという問題。
 2.ミサイル関連技術の政治的な意味合いから生じる問題。というのは、海底発射ミサイルシステムはその性質上、攻撃対象であるミサイルの発射、弾道および同一性の確認に関するデータからして、データを規定するもの、アメリカが管理するところのものに依存する。このように、日本がアメリカのミサイル防衛に参加するということは、政治的・技術的な関係からして、海上自衛隊がアメリカの全土ミサイル防衛システムの一環に組み込まれるということだ。地上および衛星上のレーダーならびにインフラレッドと呼ばれている調査システムの中に組み込まれてしまう。
 3.こうした連動装置は、日本を次の2つの状況に置く。ひとつには危機の時点でアメリカ合衆国の技術的支援に依存させる。2つにはアメリカのミサイル防衛システムが日本の地域的周辺諸国に対してどのように使えるか、この判断においてアメリカに全く従属することになる。この従属性を中国は次のように受け止めざるをえない。日本とアメリカのミサイル防衛が不可分であって、しかも日本のミサイル防衛が日本と中国の間で長期におよぶ構造的な敵対主義を引き起こす。【註17】

 こう述べて、次のように核兵器国となる道が示されるというのです。
――この3つの問題点を持つところのミサイル防衛計画は、日米同盟の枠の中で、この日米同盟はアメリカを頂点としてイギリス、EU諸国、さらには日本が階層をなしているが、日米同盟のあり方を今後修正すべきことを意味する。日本はアメリカの拡大された軍事機構の中で、アメリカの要求に従う役割を果たさせられることになるだろう。とすれば、日本がこれまで持続してきた地位、核兵器を持たないという地位から、核兵器を持つ国へと移っていく契機が生まれてくる。こうして、日本には核兵器国となる選択肢が示される。【註18】
彼は次のように続けております。
――日本が核保有国となる選択が、ますます公然と語られ、またそれが魅力的であるかのような雰囲気が出てくるだろう。さらに新しい可能性がある。それは核兵器で武装した日本が、日米同盟の枠内で出現する可能性があるということだ。これが言うところの「普通の国」である。【註19】
●核武装する日本とはなにか――考察
 考えてみますと、タンターの見解に疑問を抱く立場は、圧倒的に優勢です。いわく。戦後アメリカは、一貫して日独伊の旧枢軸国には核武装を認めない厳しい政策を採ってきた。のちに安保常任理事国となる中国が核兵器国となったのちは、NPT(核不拡散条約)でもって、5常任理事国以外の核武装を認めない体制を敷いてきた。しかし、事実上イスラエルに核武装を認めることによって、運用上「二重の基準」を採ってきたことも、いまや公然の秘密だ。こうした中で、確かに1998年インドとパキスタンの核武装化がなされた。これによってNPTによる核独占体制に穴があいて、核時代の第2期がはじまったことも否定できない。しかも他方では、2000年NPT再検討会議での約束(第6条にいう核兵器廃絶の明確な約束)を、いま核兵器国は反古にしようとしている。5プラス3(イスラエル、インドとパキスタン)プラス1(北朝鮮)が、核兵器国であって、NPTのタガが外れている。だから、191のうち180を超える非核兵器国からすれば、NPTの規範力が失われたと主張されています。
 こうした事態がすすんできたが、しかし米政権の政策として日本に核武装は許すという、いわば核戦略の転化・転換が起きつつあると認めるためには、タンターはその根拠と筋道を、なおいっそう説得力をもって示す必要があるのではないか。
 そうした論証が十分な説得力を持つまでは、あくまで仮説の提示にとどまる。こういうことでしょう。チェイニーらの言説は、日本核武装化という選択肢を、アメリカの対中外交カードとして使っている、こういうことを示しているということです。
 他方核武装化は、日本の支配層とその政府の見地からしても膨大な軍事費がかかるものです。それほどの経費や人材をかけても、核武装には軍事的合理性がないと彼らは計算する。とすれば、核武装ではなく、核武装が可能な国家としての力を示すのが有利だと考えている。とすれば核戦略の大転換が起きているのではなく、「対中外交カード」が切られているのだ。そうでないというのであれば、タンターは、その主張の実証的な根拠をし、さらに論証することが必要になってくると言うでしょう。
●核武装化のいくつかの意味
 先ほど紹介した中国社会科学院の金煕徳さんは、日本が「普通の国」になるということはイギリスなみの国になること、米英の関係が日米の関係になることを意味すると言っていました。しかしこれは、日本にも核武装を認めるということをかならずしも意味しない。
 だがリチャード・タンターは、今年の2月23日の論説で、「普通の国」日本というのは、核兵器国なのだという意味あいで、これを強調しているのであります。

 さてこの点について私は、長年核兵器問題に関心を持ち関与してきた者として、リチャード・タンターの見解には、検討に値するいくつかの論点があると思っています。一般に、真実に迫るという研究方針があり、そのために論点あるいは命題について論議する場合、当該概念に定義をあたえることが必要です。日本の核武装化という選択肢について考えるときにも、そういえます。日本の核武装化を問題にする場合には、狭い意味に限っても、例えば「非核三原則」から離脱することだということがあります。最も広い意味では、核兵器システムを存在させるためのすべての物質的な条件をみたし(能力の問題)、かつ核兵器システムを作動させようとする意志一般があることを含むといってもいいでしょう(意志の問題)。しかしここでは、狭い意味に限定しておきます。
 とすれば、(1)核兵器の持込を認める、(2)外国から核兵器を買って保有する、(3)核兵器を自前で造る、こうした3つの形がある。このうち、(1)核兵器の持込を認めるという点では、片や原潜の入港が定例化しており、他方「有事」持込については日米間の「核密約」がある、このことが公然の秘密になっています。戦略核兵器ではなく、戦術核兵器の配備が問題です。このほど、NATAに展開する米軍が戦術核兵器(核弾頭)を、いまでもドイツ・イタリアを含めて、多数の地下倉庫に貯蔵している事実がウェブサイトで明らかにされているそうです。日本の場合にも、米軍事戦略上、こうした事態がおきないか? これが論点です。
 さて(2)外国から核兵器を買って保有する、この点ではどうか? イギリスとアメリカは、このほど相互安全協力協定を更新して、イギリスに新に核兵器を売ることにしたが、これはNPTが禁止する「水平拡散」であって違法だと、イギリスの裁判官やロンドン大学政治経済学院(LSE)の国際法教授が告発しております。しかし「普通の国」日本になれば、日米MSA協定を改定して、イギリス並みになる、そうした可能性があるのではないか。(3)核兵器を自前で造る。この点には、いまはふれません。
 ところで1998年にインドとパキスタンが核兵器国になりました。これは、核兵器実験の道をとった場合です。しかし日本の場合、そういう道は極めて厳しい。日本列島の形状からして核兵器の実験場を求めることが難しい。これは、幾度か日本政府筋がすでに調査・検討した結果でもあります。
●「使える核」というイデオロギーが問題
 そこで、NPT体制が事実上変質して、核時代の第2段階に入ったと言われる現在、アメリカは「使える核」という兵器開発にすすんでいます。これは、「使える核」が問題となる第3段階に入ることではないでしょうか。
「日本はアメリカの拡大された軍事機構の中で、アメリカの要求に従う役割を果たさせられることになるだろう。」――タンターがいう、この命題は、(1)核兵器の持込を公然と認める、(2)アメリカから「使える核兵器」を買って公然と保有する、ということを意味するのではないでしょうか?

 これに因んで、平和利用原子力の核物質と核兵器用の核分裂性物質との共通性を指摘する視点を軽視しないようにしたいのです。例えば米合衆国、日本、フランス、この3国政府は商業用原子力産業を援助することに極めて熱心であり、これがアジアの原発を推進しているといわれています。【註20】こうした状況のなかでは、あくまで仮説ですが、アメリカの中古の核兵器といったものを買わないかという話が、将来でないとも限らないでしょう。またコマーシャル・ベースで採算が取れるなら、そうした衝動に乗るものが現れないとも限らないでしょう。
「核保有国となる選択が、ますます公然と語られ、またそれが魅力的であるかのような雰囲気が出てくるだろう。」――タンターがいう、この命題は、日本人の核アレルギーが極めて薄れてしまう、むしろ核武装で周辺諸国からの安全を買うという幻想が膨らむということではないでしょうか?
 これまで私も、日本に核武装の能力はあっても、支配層や保守本流は日本が核武装するという意志を固めていない、いや核武装しないという政策を採っていると、内外で言ってきました。しかし今日の時点では、日本核武装化の現実的な恐れがある、ブッシュ・ドクトリンを実施することによってそういう危険がある、それが日本の改憲策動とつながっているのではないか。このことを、いま問題として提起する意味があるだろうと思っております。

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