日米共同作戦をベースにバックアップ体制も 次に武力攻撃事態法案の中身に入りたいと思います。第二条の定義のところが大事ですが、その一号、二号がいちばん新聞で問題になっているところです。「武力攻撃」と「武力攻撃事態」の規定の問題ですが、これはちょっと後回しにして、六号の「対処措置」というところから入りたいと思います。
この法律で何をするのか。対処措置をとるというふうに決めているわけですが、ここで何をするのかが具体的に書いてあるわけです。大きく分けて二つやることが書いてある。
一つは、「イ 武力攻撃事態を終結させるために実施する」措置。
もう一つは「ロ 武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護するため、または武力攻撃が国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合において、当該影響が最小となるようにするために実施する」措置。
中身を見てみますと、前者の「武力攻撃を終結させるため」の措置として挙がっているのは(1)としては三つです。自衛隊の武力行使、部隊の展開、その他の行動。これはまさに戦闘作戦行動でありまして、戦争をやると言っているわけです。
また(2)は、米軍の活動と自衛隊の活動が安保条約に従って「円滑かつ効果的に行われるため」の措置をとる。ここでこの武力攻撃事態法案が、日米共同作戦をベースにしていることが明らかになります。具体的には「物品、施設または役務の提供その他の措置」です。これは三章のプログラム法的部分の中にこれが入っているわけであります。第二十二条三号ですね。「アメリカ合衆国の軍隊が日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置」が、これから整備されるべき個別法として挙がっているわけです。
私が見るところでは、NATOや韓国との間では戦時ホストネーション・サポート協定が結ばれているのですが、日本と米国との間には結ばれていないので、その内容を日本の国内法で処理することにしたということです。米軍と自衛隊が作戦行動をとっていることに対して便宜供与するというのが二条六号イの(2)です。
ですから「対処措置」とは、作戦をする、戦争をするということだけではなくて、戦争を助けるための措置を取るということでもあります。後はイの(3)の、「外交上の措置その他」になるわけです。このように「対処措置」の最初のくくりは、「武力攻撃を終結させるため」の措置となっていますが、これは戦争をするということを言っているわけです。
次のくくり、第二条六号ロの方ですが、これはそのためのバックアップの体制であります。今回の法案ではこれに該当する法案は全部プログラム法的部分である第三章の中へ入っております。従来の言葉で言えば、第三分類にあたるものです。
ここで(1)と(2)がありまして、(1)は従来から言われてきたものですが、(2)の方で初めて経済統制の措置が入ってまいりました。これまでの第三分類ではこれが抜けていたわけですが、今回の法案の段階で入っています。「生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置」とあります。
ですから、この法案でいう「対処措置」の中身は、後ろへ行ったものが全体として含まれる。基本法的部分と言ったのはそういう意味で、これから出てくる第三章関連の法律案全体に、これがかかってくるということであります。
防衛出動待機命令と防衛出動命令 それから次に第九条ですが、なぜいちばん問題になっている第九条を後にしたかというと、大事だからです。第四条から第六条の責務のところは、これは読めば分かることでありまして、とくに問題はない。この際、説明は省かせていただきます。
第九条の手続きですが、大変な悪文と言うべきか名文と言うべきか、複雑な文章であります。これをまとめてみますと、まず事態を二つに分けて考える。一つは「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」。もう一つは、「武力攻撃のおそれのある」段階。この二段階に分かれているわけです。二段階というのは法律的に二段階という意味で、実態としては四段階になるわけです。
つまり「おそれ」の後に「武力攻撃が発生した事態」というのが三番目に出てくるわけであります。これは後で申し上げますが、相手方が武力攻撃に着手した時点を意味するわけでありますから、まだ攻撃には至っていない事態でありまして、四番目に交戦事態になる。
事態の推移自体は四段階ありますが、法律的には二段階にわけてこの法案は考えている。「予測事態」と「おそれ事態」であります。どうして二つに分けて考えるかと言いますと、自衛隊の行動、これは戦争ですから自衛隊が中心になるわけで、自衛隊の行動を中心に組み立てられているからであります。
自衛隊法では、防衛出動命令以前の段階で、防衛出動待機命令というのを出せることになっています。待機命令が出せる、その時が「予測事態」とイコールです。予測事態で防衛出動待機命令が出るということでありまして、「おそれ事態」では防衛出動命令が出るわけであります。自衛隊の行動を律する自衛隊法にはこの二段階しか書かれておりませんので、こういう二段に分かれているわけです。
「武力攻撃事態への対処のための手続き」では、最初に予測事態、防衛出動待機命令を出すときに、首相は安全保障会議に諮問いたしまして、対処基本方針を作るわけです。この対処基本方針の案を閣議にかけて、閣議決定する。同時に防衛出動待機命令が出る。閣議決定した対処基本方針は直ちに国会承認を求めるわけですが、事態としては、防衛出動待機命令に従って自衛隊は動きだすわけです。ですからこの場合、国会承認は事後承認であります。
自衛隊法では、防衛出動待機命令はこれまでは国会承認事項ではありませんでした。今回、これを国会承認事項にしたわけです。その意味は国家の戦争システムを立ち上げるということでありますので、出動待機命令の時から国会の承認があるということで自衛隊の士気が高まる。つまり国民のバックアップのもとに防衛出動待機命令に基づく行動がとれることとなる、という効果がもたらされるわけです。
対処基本方針が閣議決定されますと、対策本部が設置されます。これも閣議決定をして設置するわけであります。対策本部が立ち上がりますと、公示を行うと同時に国会に対しては報告をする。名称と場所と期間について報告をする。
この防衛出動待機命令下で何ができるかということでありますが、これは自衛隊法改正案とも関係します。まず予備自衛官の招集ができます。それから即応予備自衛官の招集ができる。加えて今回新しく入ったことでありますが、防御施設の構築命令が出せる。展開予定地域を指定して陣地の構築ができる。その際に武器使用ができる。土地使用ができる。立木等の処分ができる。公用令書は事後公布可であります。
これまでの防衛庁の第一分類の研究の報告中では出てこなかったものが、今回この武力攻撃事態法案で登場してきているわけで、この法律案の新しいところです。情勢に合わせているということです。
また、防衛出動待機命令で、もう一つできることは、自衛隊の特別部隊の編成です。一九九八年に自衛隊法第二十二条を変えることによって、それまでは防衛出動命令がなければできなかった特別部隊の編成が、防衛出動待機命令下でできるようになったわけであります。
これらのことがパタパタと進む間に、国会で審議をして、承認されればそれでOK、公示するわけですが、不承認の場合は「対処措置は速やかに、終了されなければならない」。出ていった自衛隊は「直ちに撤収」する。
問題は次ですが、武力攻撃の「おそれ」が生じた場合です。この場合は防衛出動命令を下すわけでありますが、その下し方に関する文章のところが難しいわけです。
第九条4項の文章をどう読むかということでありますが、原則は、ノーマルの場合は防衛出動を命ずる、それの国会承認を求めるという記載をした対処基本方針の変更案を閣議にかけて、これを国会の承認を求めるという手続になるということです。これは原則事前承認であります。
しかしながらただし書きがありまして、「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合でなければ、することができない」とあります。自衛隊法との関係がありますが、自衛隊法の同様のただし書きを削って、武力攻撃事態法案の第九条に移しかえているわけです。ただし書きの意味は何かと申しますと、これは事後承認でいいという意味であります。原則は事前承認、ただし書き事後承認ということを書いているわけです。
したがって対処基本方針の変更されたものの国会承認を求めるか、あるいは防衛出動命令を出してから国会に承認を求めるかということになりまして、変更したものが国会で承認されれば、対処基本方針に防衛出動を命ずる旨を記載する。先に命令を出した場合は事後の国会承認、というふうになっているわけです。国会不承認の場合は、いずれにしても措置の終了、撤収を命じるという仕組みになっております。
ですから、予測事態とおそれ事態、それぞれに対処基本方針を安全保障会議に諮問して、国会に承認を求めるという、二段階の手続きを踏んでいるわけです。
これが第九条の手続きであります。