平権懇 緊急研究会
「武力攻撃事態法案」を読み解く

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九条が九条を破壊する 3
事態認定は誰がどのように行うのか

 戻りますが、対処基本方針を決めるというふうになっていると言いましたけれども、第九条2項に、対処基本方針に記載しなければならないものを三つ書いてあるわけです。「武力攻撃事態の認定」。これは、予測事態であるか、おそれ事態であるかの認定です。次はその認定に基づいて、「対処に関する全般的な方針」。それから「対処措置に関する重要事項」として、自衛隊にかかわる命令ですね。予測事態の場合は四つ書くわけです。防衛招集が二つと、待機命令と、陣地構築命令です。


 問題は、安全保障会議に諮問して認定を行うわけでありますが、第九条の手続きの実体は、安全保障会議設置法の改正案とワンパッケージで見ないと分からない仕組みになっているわけであります。その説明をするために第二条に戻ります。

 二条一号武力攻撃の、二号武力攻撃事態の定義をしております。ここでは「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)が発生した事態または事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」、つまり二つあるとしているわけであります。おそれのある場合、発生した場合が一つ。予測される場合が一つ。時間は逆ですが。要するに防衛出動命令の事態と、防衛出動待機命令の事態の二つが書いてあるわけです。


 中谷防衛庁長官の国会での答弁によりますと、まず「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」、すなわち防衛出動待機命令下とはどういうことかというと、「外部からの武力攻撃のおそれがある事態にはいまだ至っていないが、かかる事態に進展すると思料される事態が発生しているとき」、これが待機命令が出る時だそうであります。

 次に「おそれのある場合」ですが、これは「いまだ武力攻撃の着手はないが、その時点における国際情勢、相手国の明示された意図、軍事的行動の態様などにより判断して、わが国に対する武力攻撃が生じる可能性が、わが国として客観的に十分に認められる事態が生起している場合」、というふうにブレイクダウンをしているわけです。

 最後に、「発生した事態」は、「わが国に対する武力攻撃に着手した場合」。着手でありますから、まだ攻撃それ自体ではないわけです。その後に実際の攻撃事態がある。客観的に事態の推移としては防衛庁は四つに分けて考えているということです。


 ですから、例えば周辺事態が起こっている時にこの法律を当てはめるとすれば、日本領域内で行動している米軍・自衛隊に対する攻撃ですね。領域、一二マイルですが。これは自衛権の発動として防衛出動命令の下令事態になります。それから後方地域支援を領域外で行っている自衛隊が攻撃を受けた場合も、自衛権発動の要件となる。これは実際に攻撃がなされた時点でありますから、「おそれ」ではないわけです。防衛出動命令がかかるのは、攻撃がなされる前の段階、相手方が攻撃に「着手した」と、これは防衛庁が判断するのでしょうね、そういう段階で防衛出動命令が出ることになっているのです。

 結論としては、防衛庁は「その時の国際情勢、相手国の明示された意図、攻撃の手段、攻撃の対様は様々であるから、個別具体的に判断する以外にない」。したがって「仮定の事例で、限られた事例にのみ基づいて論ずるのは適切でない」。議論はしませんと言っているわけです。


 問題は、この認定がどのように行われるかということであります。
 マスコミ各紙の報道は、この判断が曖昧であるということだけの指摘に止まっておりますが、私はもうちょっと先があると思います。非常に抽象的な言い方で曖昧ですが、具体的に認定の判断をするわけでありまして、それは当事者は曖昧なままするわけはないわけでありまして、判断するならそれなりの基準を持って判断すると、私は思います。

 したがって、問題になるのはこの認定を行う作業です。こういう事態の認定をするために必要なものは、敵情の情報であります。軍事情報です。

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 どのセクションがこの情報を握っているかといいますと、当然ながらまず自衛隊。自衛隊が相手国の軍事動向を把握する能力を持っています。それから米軍であります。それも在日米軍だけではなくて、上級部隊であるところの米太平洋軍、周辺事態では米太平洋軍の指揮下で全体が動いているわけですから、米太平洋軍の情報収集能力というものも使われるわけであります。自衛隊は自衛隊止まりでありますが、米軍の場合はその先がありまして、国防総省の情報収集能力があります。国務省も情報機関を持っていまして、CIAはこれら以外の情報機関を統括しているわけです。自衛隊が取った情報と米軍が取った情報は、新ガイドラインによれば相互に交換し、シェアする、共有することになっている。
 ですから、軍は軍同士で収集した情報を互いに共有しあうということになります。

 軍事情報でありますから、いちばん大量に取れるのは軍でありますが、それ以外にも取れる手段があります。一つは在外公館です。これは外務省に情報が入ります。それから内閣情報調査室があります。これは内閣官房に情報が入ります。それから警察組織がありまして、国家公安委員長に情報が入る。

 この認定するに当たっての情報優位をどこが握るかといえば、当然のことながら軍がにぎるわけでありまして、安全保障会議設置法改正案ではこの認定するのを次の五人に絞り込んだのです。防衛庁長官、内閣官房長官、外務大臣、国家公安委員長、首相、この五人で認定できるとしたわけであります。あとで申しますが、安全保障会議のメンバーは人数を増やしましたが、肝心な認定はこの五人でやることにしたのです。ですから防衛庁長官には、自衛隊・防衛庁から上がってきた情報がダイレクトに入る。内閣官房長官には防衛庁や外務省や内調から入った情報が入って首相にも入る。外務大臣には外務省からの情報が入る。国家公安委員長は警察組織からの情報が入る。つまり軍事に関して情報入手可能で、こういう場合に認定をするのに必要な五人だけに限ったというのはこういうことです。ここですべての認定を行うということです。したがってここでは圧倒的情報優位によって動かされると考えざるを得ないわけでありまして、しかも米軍と自衛隊の情報能力でいえば米軍がはるかにまさっておりますので、ひきずられる可能性がたいへん強い。


 しかも、これが周辺事態が動いていると仮定いたしますと、この米軍と自衛隊は作戦行動に入っておりますので、よりヘゲモニーは強くなるというふうに思います。最後は政治が決断することになっておりますが、実務上、そういうことになる可能性が高いというふうに思います。


 いま、五人に絞って認定をするというふうに安全保障会議設置法改正案でしたと申し上げましたが、なお強化の措置をとっています。メンバーを増やしたわけですが、経済・財政担当大臣は外し、その代わりに経済産業大臣、総務大臣、国土交通大臣を加えました。ですから首相を含め全体で九人にしたわけです。新たに加わった三大臣はなぜ入ったかというと、これは武力攻撃事態法案第三章にかかわるわけでありまして、経済統制があり、民間防衛が入り、交通統制が入りますので、その所管大臣ということで安全保障会議に不可欠のメンバーとして入れた。あと財務大臣も入っています。
 しかしながら人数を増やし、また他の閣僚も入れて拡大会議も開けるとしたものの、いちばん肝心な認定作業は五人でやってしまう、というふうにしたわけです。言わば一種の戦時キャビネットが形成される。


 それからもう一つの強化策は、内閣官房長官を委員長とする、事態対処専門委員会というものを新設したことであります。この委員は、首相の任命であります。この委員会は常日頃から、事態に対処するためにはどうするかを調査・分析して、会議に進言する。あるいは意見を具申する。この委員のメンバーは幹部自衛官が入るということと、関係省庁の局長クラスであるということ以外は分かっておりませんが、事態対処専門委員会は諮問を受けて、この五人の中枢閣僚のサポート、補佐をする。ですから実務上、この専門委員会の委員がいちばん重要な役割を果たすということであります。


 なお、統幕会議の議長でありますが、彼は安全保障会議に出席することができます。彼に意見を述べさせることができるわけです。五閣僚の協議に統幕会議の議長が出席できるのかどうか、条文上は明らかではありませんが、たぶん私は彼は出席を許されるであろうというふうに思っています。

 このように安全保障会議設置法を改正して、強化したしたシステムのもとで、事態の認定、それから対処方針をというものを決めていくわけであります。

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「軍事合理性を貫徹するための伝導ベルト」

(資料については作成中です。お待ち下さい。)
〔資料2〕に安全保障会議の仕組み、対策本部の仕組みが図示してあります。

〔資料3〕は新ガイドラインにある「包括的メカニズム」、これはすでに立ち上がっておりまして、いちばん下の共同計画検討委員会(BPC)、これは軍事レベルですが、ここでオペレーション・プランを作っているわけです。問題は右にある関係省庁局長等会議です。これが作戦計画と行政措置の調整をするということになっております。


 そのメンバーは〔資料4〕です。新ガイドラインが決まった時に、実効性を確保するための閣議決定を行っておりまして、この局長会議を設置することの閣議決定も行っております。局長レベルがずらっと並んでおりまして、さっき言いました対処措置を作る上でのキーパーソンが全部入っている。なおかつ軍人も入っている。統幕会議議長もメンバーに入っております。このメンバーが包括的メカニズムの中に含まれておりまして、作戦計画ができれば、各省庁が何をやらなければいけないかということが、軍部から知らされるわけであります。したがって各省庁は、軍部と調整しつつ、自らの省庁が何をするかが分かる。そして作戦計画が円滑かつ効果的に実施されるような措置をとれるよう施策を行う、という仕組みになっているわけです。


 問題は〔資料5〕です。新ガイドラインにある調整メカニズムですが、これは有事に立ち上げられるもので、すでにこのメカニズム自体は合意されております。周辺事態ないし日本有事になりますと、このメカニズムが立ち上がります。下の方が軍レベル、上の方がシビリアンを含めたものです。地位協定上の問題は合同委員会で処理し、それ以外の問題については政策委員会で処理します。上下になっていますけれども、本当は横に見るのが正しいのです。軍はもうオペレーションをやっているわけです。それについて各省庁が何をしたらいいのかを調整するのが、この図であります。

 日米政策委員会のメンバーを見ていただきたいわけですが、「内閣官房、外務省、防衛庁・自衛隊の局長級の代表、必要時、他の関係省庁の代表も参加」となっています。このメンバーは、さっき言いました包括的メカニズムの関係省庁局長会議のメンバーであるわけです。と同時に〔資料4〕の安全保障会議の補佐組織のメンバーでもあります。したがって、常日頃から軍のオペレーション・プランに基づいて、各省庁が何をやらなければいけないかを知悉している人間が、いざとなった場合に認定にあたり、そして対処方針を決定する。そして、オペレーションの展開に伴って調整に当たる、そういう関係になっているわけであります。この局長クラスのメンバーというのは非常に重要なキーパーソンの役割を果たすわけであります。


 もし周辺事態というものが並行して起こっていると仮定するならば、安全保障会議で認定作業をしている時には、この調整メカニズムがすでに立ち上がって動いている。軍の方はすでにオペレーションを実施している。そういう状況下で認定作業が行われるということになります。ですから周辺有事でオペレーションをしている時に、日本有事の二段階の認定作業をするということであります。〔資料2、4、5〕の三つの図をつなげて理解する必要があります。私はこれを「軍の要求する軍事合理性を貫徹するための伝導ベルト」と名付けております。権限の集中した首相にこれが伝えられ、実行に移されることになるわけです。

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 次に、最初の「予測事態」で認定が行われ、基本対処方針が閣議決定されますと、武力攻撃事態への対策本部が立ち上がります。武力攻撃事態法案第十条から第二十条です。ここで何を決めているかと言いますと、まず本部長には首相がなります(第十一条)。副本部長を置くことができ、複数置ける。その場合、首相の死亡を前提として、本部長になる順番を決めておくことになっています(十一条5項)。本部長、副本部長のほか、対策本部員を置きますが、これは全閣僚であります(十一条6項)。もう一つ重要なのは、本部に職員を置くことになっておりますが、この職員は本部長の任命です。

 ここで重要なことは、対策本部の職員は、対処措置の実施のため、出身の指定行政機関の長から権限の全部、または一部の委任を受けます第十三条)。ですからこの職員の権限は非常に強いものがあります。権限の委任を出身官庁から受ける場合には、どのような権限を委任されたかを公示しなければならない(十三条2項)。ですから対策本部員は閣僚ですけれども、実務は職員がやるわけでありまして、本部職員の権限は非常に強いものがありまして、ここは見逃すことができない問題が含まれていると思います。本部職員に自衛官がなれるかどうかということについては、条文を見てみますと国家機構の人間はなれることになっていますから、自衛官であっても本部職員になれるという仕組みになっています。


 次は指定行政機関、官庁ですが、これは政令で決まります。指定地方公共団体、これも政令で決まります。指定公共機関も政令で決まります。この三つのカテゴリーの機関と本部との関係です。

 まず本部長は閣僚たる本部員に対して統括する権限を持っています。それから職員に対しては、指揮・監督する権限をもっています。三つのカテゴリーの機関に対しては、「総合調整を行う」権限を本部長は持っております(第十四条)。総合調整で実施されない場合は、今度は首相の指示権限が行使されます。これには法的拘束力があるとされています。しかしなおかつ実施されない時には、首相の権限で次のことを行わせることができるとされています。

 一つは所管官庁の大臣を指揮して、代執行を行う。これは「別に法律に定めるところにより」行う。地方自治体がやらなければ、その所管官庁の大臣が、自らの職員をしてやらせるか、あるいは第三者に委託するかして実施する。あるいは、首相自らが代執行して行うことができる(第十五条2項)。


 問題は、私がこの法案を読んだ限りでは、代執行だけではなくて、直接強制が行われる。これはどの新聞にも書いていないので、法令用語辞典を引いてみましたけれども、よく新聞で目にする「直接執行」という言葉はないのですが、「直接強制」というものがあるわけです。これは行政代執行法で、代執行とは別に、別に法律の定めがある場合には直接強制ができる、となっているわけです。ですからこれを使う。地方公共団体が動かない場合は、代執行するだけではなくて、直接強制をして地方公共団体にやらせる、となっているわけです。ですがこの際の「別の法律」は第三章のプログラム法的部分の方に入っていますので、どういう書きぶりになっているか判断がつかないわけですが、少なくとも武力攻撃事態法案では直接強制ができるシステムを作っているのではないかと思います。

 次は対策本部でありますが、問題は地方対策本部であります。法案になる段階で地方対策本部が法文上からは消えたわけでありますが、消えた理由は、法律によらなくても設置できるという判断で削ったということであります。地方対策本部が設置される場合には、陸上自衛隊の各方面隊の区別に従って設置することになるので、全国的には五つに分けて地方対策本部を設置できることになります。


 こういうシステムで対処措置、戦争行為を行うということを決めたのが、武力攻撃事態法案であります。あとは、文書を読んでいただけば分かるようなことばかりですので、主な問題点として私が考えていることを申し上げました。

 以上が、武力攻撃事態法案安全保障会議設置法改正案を私なりに読んでの問題点です。ご批判、ご意見をたまわれば、と思います。

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